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塔の美女

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3部分:第三章


第三章

「今のジャンの言葉って僕よりもずっと過激じゃないの?」
「そうでしょうか」
「そうだよ。悪いけれどそれは無理だね」
 こう言って完全に否定するのだった。
「他の方法にするよ」
「他の方法ですか」
「塔だよ」
 彼はあらためて場所のことを話した。
「塔だからね。だから」
「どうされるんですか?」
「僕に考えがあるよ」
 ダルタニャンの今度の言葉はしっかりとしたものだった。
「だから。任せて」
「大丈夫ですか?」
「だから。何度も言ってるけれど」
「任せろっていうことですね」
「そういうこと。それじゃあ」
 塔のする側まで来た。しかし窓から見えるであろうと思われる場所には入らない。ロシナンテからも降りてそこに止めさえする。
「ロシナンテはここで止めるんですね」
「うん」
 ジャンに対して答える。
「そうだよ。ジャンもここにいて」
「私もですか」
「見つかったら元も子もないからね」
「奇襲ですか」
「うん。これは要塞だよ」
 塔を要塞に見立てていた。完全に攻略するつもりであった。
「要塞だからね。余計に」
「攻略するんですか」
「そうさ。さて、と」
 ここで蔵にかけてある袋から何かを取り出した。それは細長い一本のものだった。
「ロープですか?」
「ただのロープじゃないよ」
 こうジャンに答える。
「これはね」
「ただのロープじゃないとすると」
「それも見ていればわかるよ。それっ」
 塔に近付くとそのロープを分銅の様に振り回したうえで塔の上に高々と投げた。暫くして上の方で何かに引っ掛かる感触をロープから確かに感じるダルタニャンであった。
「これでよし、と」
「それで上から登って行かれるんですか」
「そうだよ。これでどうかな」
「落ちたら終わりですよ」
 いぶかしむ顔で主に言うジャンであった。
「これも何かかなり」
「だから。危険は承知のうえなんだって」
 下に残っているロープの幾らかは自分の身体に巻き付けていた。
「戦争なんだよ」
「戦争なんですか、これって」
「他の何だっていうんだい?」
 またジャンに問い返す。
「陛下から下さった任務なのに」
「そうなんですか。戦争ですか」
「そうだよ。銃士はいつも戦場の中にいるんだ」
 これまたダルタニャンらしい言葉であった。
「だからね。危険は承知さ」
「わかりましたよ。それじゃあね」
「行くよ」
 こうしてダルタニャンは単身塔に登っていくのだった。彼は一旦頂上にまで至った。
「よし」
 頂上から見下ろす。そうして窓の上に辿り着く。その間に頂上にかかっているロープを一旦締めなおしてそのうえで今度は降りていく。窓に近付くと一気に窓の中に飛び込んだ。
「ダルタニャン見参!」
 まずは蹴り入れるようにして足を出して飛び込み次には腰の剣を抜いた。そうしてその手の剣を構えつつ叫んだ言葉であった。
「奸賊何処だ、観念しろ!」
「またあの人は」
 塔の外にまで聞こえてくる主の声を聞いて嘆息するジャンだった。
「派手なことを」
「私が来たからにはもう逃げられはしないぞ!」
 だがそれでもダルタニャンの声は聞こえてくる。
「神妙にしろ!国王陛下の御命令だ!」
「国王!?」
 ここで不意にその王という言葉を嘲る声が聞こえてきた。
「笑止。ブルボンの王なぞわらわの知ったことではない」
「やはり賊か」
 女の声だった。声自体は艶のあるものである。だがそこに含まれているものは淫靡さと陰湿さであった。何処かしら邪悪なものを多分に含んだ声であった。
「ブルボン王家を否定するとは。貴様やはり」
「本来ならばだ」
 また声が聞こえてきた。
「わらわの血脈がフランス王になる筈だったのだ」
「戯言を」
 ダルタニャンはその声の言葉を否定する。ブルボン王家に対して無二の忠誠を誓う彼にとってはこれ当然のことであった。
 
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