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古城の狼

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17部分:第十七章


第十七章

「!」
 僕達はその声に総毛立った。咄嗟に声のした方から間合いを離し身構えた。
 そこにはあの主人がいた。豪奢な服を着て立っている。
「御安心下さい、私は貴方達とは戦うつもりはありません」
 彼は静かな声で言った。
「というと?」
 僕は探る声で尋ねた。
「私は貴方達にお話したいことがありこちらに来たのです」
「話したい事・・・・・・」
 それは一体何であろうか。僕も神父も考えた。
「ここでは何ですからこちらへ」
 彼は僕達を城の奥に案内した。
 そこは城主の間であった。窓から夕闇が見える。夕陽が今落ちようとしている。
「貴方達は私がクグツだと思っておられますね」
 城主は部屋の中央まで来ると僕達に向き直り問うてきた。
「はい」
 僕も神父も答えた。どう見てもそうとしか考えられなかった。
「それは事実です」
 それを僕は当然のように受け取った。それ以外考えられなかったからだ。
「そして私の妻ですが・・・・・・」
 彼はさらに語った。
「人狼です。それも強大な力を持つ」
「・・・・・・・・・」
 驚ろかなかった。今更、という気もした。
「そしてその貴方が僕達に一体何をお話されるというのですか?」
 僕は少し高圧的な声で尋ねた。やはり相手が人でないと警戒を解けない。
 神父もだ。手から剣を離さない。
「私はこの家の跡継ぎとして生まれました」
 彼は静かに語りだした。
「そして跡を継ぎ妻を娶りました」
「それがあの奥方だったと」
「はい。彼女はあの森ではじめて会いました」
 僕の問いに対し彼は答えた。
「初めて会った彼女はとても美しい女性でした。私はその美しさに心を奪われたのです」
 彼は話を続けた。
「私は彼女に結婚を申し込みました。そして彼女はそれを受け入れてくれたのです」
「そしてその後で彼女の正体に気が付いた、と」
「いえ、既に知っていました」
 僕達は彼の言葉に驚いた。
「初めて見た時には既に人ではありませんでしたから」
 彼女は正体を表わしていたのだ。
「美しい姿でした。私は一目でその姿に魅了されてしまったのです」 
 それは彼女の持つ魔力であったのだろうか。
「私は神の道に反してしまったのでしょう。しかしそれでも湧き起こる想いを抑えることは出来ませんでした」
 彼の目は半ば恍惚としていた。
「私は彼女を城に連れて行きました。そして妻としたのです」
 人狼に心まで支配されてしまっていたのだ。
「人の姿をとった彼女の姿も美しいものでした。私達は幸せに暮らしました」
 彼は自分の幸福を語っていた。それは別段不思議に感じなかった。人の幸福というものはその人にしかわからないものなのだから。
「しかし」
 彼は顔を曇らせた。
「彼女はやはり異形の者でした」
 彼はその声を暗いものにした。
「彼女は私を愛してくれてもその心はやはり魔性であったのです」
「やはり・・・・・・」
 神父はそれを聞いて呟いた。
「彼の者達の心は我々とは違います。それ故に魔物なのですから」
 僕はその言葉に心の中で頷いた。人間とはその心で人間であるのだ。姿形はどうあれその心が魔界にある者は魔物であると思う。
 そう考えるようになったのは皮肉にも人の歴史を学んでからであった。フランスで美少年を殺戮した狂気の同性愛者青髭ジル=ド=レイ。鉄の処女というおぞましい機械で少女の血を絞り取りその血の風呂に身体を浸し永遠の美を望んだ血塗れの伯爵夫人エリザベート=バートリー。罪無き者を魔女に仕立て上げその全てを奪ったうえで惨たらしく殺していった悪辣な異端審問官達。彼等の心は人のものではなかった。魔物のものであった。
 
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