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古城の狼

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15部分:第十五章


第十五章

「はい。いずれ倒さなくてはなりませんから」
 彼は落ち着いた声で言った。
「それなら何故今まで息を潜めていたのです?」
 僕は問うた。
「こちらにも用意があります故」
 彼は言った。
「用意!?」
「はい。人狼を倒す為の用意が」
 その時彼が微笑んだように見えた。
「人狼は強力な力を持っています。その為普通のものでは倒せません」
 彼はそう言うと僕を礼拝堂に案内した。
「これを御覧下さい」
 彼はそう言うと一振りの大振りの剣を取り出した。
「それは・・・・・・」
「これは銀で作られた剣です。法皇様より直々に授けられました」
「銀ですか。しかも法皇様から直接渡されたということは」
「そうです。これは破魔の剣です」
 彼は鞘から刀身を抜いた。
 剣は白銀の光を放っている。それは冷たい光で部屋を照らした。
「魔族は銀を嫌います。これに一月の間聖油による清めを行ないました」
「それで力をより強くしたのですね」
「その通りです」
 彼は答えた。
「これによりこの剣の持つ力はより一層強まりました」
 彼はそう言うと別のものを取り出した。
「あとこれも用意しました」
 それは短剣であった。見ればこれも銀で作られているようである。
「これも法皇様より授けられたものです。剣と同じ様に聖油で清めました。これは貴方がお使い下さい」
「有り難うございます」
 有り難かった。ひょっとすると銀の銃弾が込められた拳銃を渡されるかと思ったからだ。生憎僕は拳銃は使えない。
「そしてこれも」
 今度は多量の塩と聖水であった。
「これは言わずもがなでしょう」
「はい」
 両方共魔物退治には欠かせないものだ。
「これだけあれば大抵の魔物は大丈夫なのですがね。ですが今回の相手はどうか」
「用心はしておいたほうがいいですね」
「そうですね。こちらも作戦を練りますか」
 僕と神父は今後の戦い方について話し合った。そして夜が明けた。
 翌日僕は暫く振りに外に出た。そしてあの城へ向かった。
「おお、お久し振りですな」
 執事は僕の顔を見て驚いた声をあげた。
「結局道に迷ってしまいましてね。ようやくこちらに戻って来たのです」
 僕はあえて情無い顔と声で言った。
「そうですか。しかしご無事で何よりです」
 やはり本心からは言っていなかった。何処か空虚な声だ。
「けれどもう部屋はないでしょう」
 僕は残念そうに言ってみせた。
「いえいえ、ちゃんと空いておりますよ」
 彼はすぐに答えた。
(やっぱりな)
 僕はそれを聞いてそう思った。
「ほら、こちらに」
 彼は僕を以前の部屋に案内した。
「これはどうも」
 僕は再びその部屋に入った。
「それではごゆっくり。食事の時間になったらお呼びいたしますので」
「はい」
 彼はそう言うと部屋を後にした。僕は部屋に入ると窓の方に歩いて行った。
 窓の下を見る。そこには神父がいた。
「よし、丁度いい」
 僕はそれを見て微笑んだ。彼は城に音も無く近付いて行く。
 そして城壁を登っていく。どうやら手に鍵爪を着けているようだ。
「どうぞ」
 僕は窓を開き彼を出迎えた。彼は素早く部屋に入ってきた。
「有り難うございます」
 彼は部屋に入ると僕に対し礼を言った。
「いえいえ、それでは行きますか」
「はい」
 僕は銀の短剣を受け取った。そして二人で部屋を出た。
 
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