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目覚めると

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第四章

「川も使っておるがな」
「はい、広いですね」
「しかも深いな」
「水が多いですね」
「元々この辺りは川が多い」
 摂津の辺りはというののだ。
「淀川もあってな」
「その淀川も堀にしていますね」
「そうじゃ」
 城の北側がだ、仙人はそれも見て女房に話した。
「川をそのまま堀にするとは」
「こんな城は見たことも聞いたこともありません」
「わし等が起きていた頃にはな」
「とても」
「しかも城の外側だけでなく内側にもある」
 その堀がというのだ。
「これは堀を越えるだけでもな」
「相当に苦労しますね」
「壁も高く多い」
 堀の内側に沿って置かれている、穴が所々にある。上に瓦があるかない頑丈そうな壁である、しかもだった。
「石を積んでおるが」
「それも高いですね」
「しかも険しい」
「あれをよじ登ることも」
「難しいですね」
「しかも門の辺りも建物が多くな」
「あそこから物見をしたり弓矢を放つのですね」
「これは攻められん、しかもあれを見よ」
 仙人は城で最も目立つそれを指差して女房に言った。その指差した先にあるものはというと、
 五層の屋根、そして七階建てのとてつもなく大きくしかも高い建物だった、壁は黒く瓦は金箔で眩いばかりだ。
 造りは頑丈で雄々しい、しかもただ雄々しいだけでなく。
 仙人は息を飲んでだ、女房に言った。
「何と美しい」
「はい、雄々しいだけでなく」
 女房も息を飲み言う。
「美しくありますね」
「あれこそ益荒男じゃ」
 その美しさだというのだ。
「都の聚楽第よりもな」
「あれの方がですね」
「見事じゃ」
「それも遥かに」
「しかも町もな」
 それもだった、城の周りの大坂の町も。
「人も店も多くな」
「波止場の舟の数も凄いですね」
「都以上に栄えておるではないか」
「凄いものですね」
「いや、これもまた見事じゃ」
 大坂の町もというのだ。
「これは凄い、わし等が寝ている間に世は変わった」
「あまりにもですね」
「変わり過ぎた、全くの別物じゃ」
 そこまで変わったというのだ。
「素晴らしい、まことにな」
「左様ですね」
「寝過ぎてしまったわ」 
 仙人は女房と共にいる雲の上で実に残念そうに唸った。
「全く、これだけになる流れまでな」
「見たかったですね」
「そうじゃ、しかし今からでも遅くはない」
「と、いいますと」
「これからは世の者と同じく夜に寝て朝に起きてじゃ」
 これまでの様に一気に十年だの百年だの寝ずにというのだ。
「そしてじゃ」
「そのうえで、ですね」
「世を見ていこうぞ」
「そうしますか」
「まずは何故この城が出来たのか、そしてこうなるまで本朝がどう動いておったのか」
「そのことをですね」
「学ぶとしよう」
 こう女房に言うのだった。
「まずはな」
「では」
「暫く大坂に住もうか」
「そして色々と学びますか」
「この世も楽しみたいわ」
 その二人が起きる前とは全く違った世界をというのだ。
「だからな」
「それでは二人で」
「町に入り何か適当な仕事をして暮らしつつじゃ」
 学び楽しもうというのだ、こう話してだった。
 夫婦で大坂に降り立ちそのうえで町民として暮らしつつこの時代の日本、そしてそれまでの歴史を学びだ、城の方を見つつ唸って言った。 
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