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八百屋の前

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第三章

「嘘は言っていないよ」
「まあビジネスマンっていってもね」
「サラリーマンでもじゃない」
「確かにね」
「僕も嘘は言ってないよ」
 俊彦もこのことは強調した。
「それは誓って言うよ」
「お互い嘘は言ってないわね」
「そういうことだね」
「そうね、けれど」
 静はあらためて今の俊彦を見た、俊彦もまた静を見た。そのうえでお互いにこうしたことを言ったのだった。
「全然違うじゃない」
「君もね」
「夜の時と」
「お互いにね」
「やっぱりあれ?休みでずっと寝ていて」
「ジャージで寝ていてね」
 今着ているその服でというのだ。
「ビールと柿の種で一杯やってから寝て」
「今まで寝ていて」
「それで起き抜けに遅い朝御飯買いに出たんだよ」
 そして柿を買ったというのだ。
「そうしたんだよ」
「成程ね」
「アパートに一人暮らしだよ」
「私もここで暮らしてるわよ、家族と一緒にね」
「ご近所だったんだね」
「そうみたいね」
「全く、どんな人かと思ったら」
「こんなところで会ってね」
 やはり二人でお互いに言うのだった。
「しかもこんな姿で」
「想像もしていなかったわ」
「やっぱりあの夜は」
「そう、思い切り背伸びしてね」
 そしてとだ、静は俊彦に答えた。
「出たのよ」
「そうだったんだ」
「普段はこんなのよ」
 使い古したズボンに上着を着てだ、足はこれまた使い古しているシューズだ。動きやすさを念頭にというかそれだけを考えて履いているものだ。
 エプロンもだ、かなり古い。
 髪の毛は無造作に後ろで束ねて化粧はしていない、年齢よりも老けて見える位だ。
 かく言う俊彦もだ、髪の毛は整髪料を付けておらずぼさぼさで。
 顔は洗っておらず髭も剃っていない、足はサンダルだ。 
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