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パレオ

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第三章

「だからビーチでもね」
「君に声をかける人はいない」
「そのことは安心していいわ」
 浮気の心配はとだ、こう言ったマリーだった。そして実際にだった。
 パレオを取って下も黒ビキニになった妻だがだ、ビーチでは。
 泳いでいても寝ていてもだ。誰も声をかけなかった。ビーチにいる男達は皆女の子にだけ声をかけていた。
 その様子を白いビーチで黒いサングラスの奥から見てだ、フィリップは隣にいるマリーに対してこう言った。
「君の言った通りだね」
「そうでしょ」
「君を見ることもないね」
「見るのはね」 
 あくまで、というのだ。
「女の子だけよ」
「そういうことだね」
「カップルの相手かね」 
 サファイアを溶かした様な海の中でカップルがはしゃいでいる、スカイブルーの空を見上げつつ。
「十代のね」
「そうした娘ばかりでしょ」
「本当にそうだね」
「そういうものなのよ」
 男はというのだ。
「パートナーは自分が思っている程もてはしないのよ」
「気を妬く程には」
「そういうものなのよ」
「僕は君はもてると思っているんだけれどね」
「けれど現実はこうよ」
「その水着姿でも」
 見事な、女優にも負けていない黒ビキニ姿でもだ。
「振り向きもしないね」
「畑のお野菜を見る様なものでしょ」
「バーのカクテルとは違ってね」
「そうしたものなのよ」
 また言ったマリーだった。
「パレオをしていたら余計によ」
「誰も見ないんだね」
「かえっていいことよ」
 マリーはここでこうも言った。
「私にとってね」
「男は僕にしか興味がないから」
「見られたり声をかけられたら厄介よ」
 かえってそっちの方がというのだ。
「断る手間がないから」
「そういうことなんだ」
「ええ、ただ若い娘はね」
 十代のその娘達はというのだ。
「違うわよ」
「声をかけられるっていうんだね」
「見て、あの娘」
 マリーがここで目を向けた相手はというと。
 このタヒチ生まれの少女だろうか、さらりとした黒髪を長く伸ばし大きな黒い目を持っている、顔の彫りは薄くアジア系に近い感じだ。
 小柄で背は身体はすとんとしている。その身体を左肩から身体全体をワンピースの様にしてスカーレットの地の花と楔模様のパレオを着ている。足は素足だ。
 その娘を見つつだ、マリーはフィリップに言った。
「あの娘まだまだ幼いわね」
「まだね、これからかな」
「十三歳かしら」
 おおよその年齢をだ、マリーは言った。
「多分」
「そんなところかな」
「そう、けれどね」
「うん、結構見られてるね」 
 まだ女性のスタートラインに入ったばかりでしかも露出のない身なりでもだ。
「何かと」
「それは何故か」
「魅力があるからだね」
「魅力があるからね」
 まさにとだ、マリーも言った。
「見られるものよ」
「ああしてだね」
「しかもね」 
 さらに言ったマリーだった。 
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