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古城

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3部分:第三章


第三章

「こちらに来て頂き何よりです」
「はい。それにしても」
 オズワルド卿はここであらためて今彼等がいる応接間を見回した。城の石が床になっておりそこに白い絨毯が敷かれている。壁にはスコットランドの風景を描いた絵画がかけられている。ソファーはクリーム色で全体的に落ち着いた穏やかな雰囲気の部屋であった。
「いいお部屋ですね」
「家内の趣味でして」
 スタンフィールド卿はその穏やかな笑顔でオズワルド卿に述べてきた。
「それでこうした造りになっているのです」
「左様ですか」
「はい。ところで」
 スタンフィールド卿はまた言ってきた。
「ここに来られた理由はあれですね」
「そうです、あれです」
 オズワルド卿は端整な笑みを浮かべて応えた。彼の後ろにはメルヴィルがいる。そしてスタンフィールド卿の後ろには黒い制服のメイドが二人いた。
「この城には。出るそうですね」
「確かそのお話は」
 スタンフィールド卿はここでメルヴィルをちらりと見た。それから言うのだった。
「そちらの。御名前は」
「メルヴィルと申します」
 メルヴィルはここでスタンフィールドに名乗った。名乗りながら一礼する。
「そう、メルヴィルさんでした。そちらの方も御存知ですが」
「ここにお邪魔させて頂いてから聞くつもりでした」
 オズワルド卿はこうスタンフィールド卿に応えた。
「それでそれは一体」
「私からお話して宜しいですか?」
 スタンフィールド卿はこう前置きしてきた。
「そのお話は」
「はい、どうぞ」
 オズワルド卿もそれに頷くのだった。
「よろしく御願いします」
「それでは。それでですね」
「はい」
 スタンフィールド卿は彼の言葉を受けて話しはじめた。その話は。
「数百年前のお話です」
「数百年前の」
「はい、私の家がまたしがない小領主だった時代の話です」
「それ程昔だったのですか」
「マクベスの頃でしょうか。いえ、それよりはまだ後だったか」
 彼もまたマクベスを出すのだった。スコットランドにおいてはちょっとした有名人以上の存在なのだ。今生きていれば名士になれたかも知れない。
「とにかく。かなり昔のお話です」
「それだけ古いお話ですか」
「はい。その頃スコットランドで内乱が起きまして」
「ふむ」
 当時はどの国でも内乱が起こるのが普通だった。欧州では貴族の力が強く彼等の権力闘争も多かった。その結果として内乱が多かったのだ。それはスコットランドでも例外ではなかったのだ。大小様々な小競り合いなり大規模な争乱なりが起こっていたのだ。その時代のことだったのだ。
「その頃です。当時の私の先祖は内乱で敗れたある貴族の一家を匿いました」
「内乱でですか」
「そうです。その家とは旧流があったそうで」
 スタンフィールド卿はさらに言う。
「その縁で匿ったのです」
「美談ですな」
 オズワルド卿はそれを聞いてまず述べた。今二人はそれぞれの従者達を後ろに立たせてソファーニ座って話をしている。ソファーの間のテーブルの上にあるのはミルクティーとスコーンである。それ等を楽しみながら話をしているのだった。
「それが美談でしたらこうした話にはなりません」
「といいますと」
「事情が変わりまして」
 スタンフィールド卿は言う。
「先祖は敵に脅され。止むを得なくその家を見捨てることにしたのです」
「見捨てる」
「より正確に言えば殺すしかなくなった」
 言葉を言い換えてきた。
「その結果として先祖が選んだ選択は」
「暗殺ですか」
「はい。まずは一家を騙して睡眠薬を入れた食べ物を飲ませ」
 まずはそれであった。
「そうしてそれから一室に閉じ込めたのです」
「餓死させたのですね」
「そうです」
 そういうことなのだった。それで殺すつもりだったのだ。
「先祖の恥の話ですが」
 ここで少し自嘲気味になるスタンフィールド卿であった。
「そういうことになったのです」
「そうですか。それでは」
 オズワルド卿はここまで話を聞いてこの城に出るのは何かをおおよそ察した。
「ではその一家の亡霊が」
「いえ、それが違うのです」
「違うのですか」
「そうです。一家は確かに餓死しました」
 これは言うのだった。
「ですが」
「ですが。何かあるのですか」
「それがあるのです。一家の中で一人だけ生き残っていたのです」
「一人だけ。それは一体」
「閉じ込めてから二週間後」
 人が餓死するには充分過ぎる時間である。
「先祖が部屋を開けて死んだかどうか確認するとまずそこには痩せ衰え骨と皮ばかりになった一家の亡骸が累々と横たわっていたそうです」
「その中で一人だけですか」
「生きていたのはその嫡子」
 つまりは男の子というわけだ。
「まだ少年だった彼だけが生き残っていたのです。ところが」
「ところが」
「彼は。人ではなくなっていたそうです」
 強張った顔でオズワルド卿に述べるのだった。
「二週間の餓えと絶望の中で。彼がなっていたのは」
「何だったのですか」
「怪物です」
 一言であった。
「怪物といいますと」
「二週間です」
 今度は時間が語られた。この場合は重要な意味を持っているものだった。
「その間生きていたのです。どうして生きていたと思われますか」
「それは」
 それについて問われたオズワルド卿の顔が強張る。どうしてなのかは彼も薄々わかったのだ。だがわかってはいてもそれを言葉として出すのははばかれたのだ。
「食べていたのです」
「ですか」
「はい」
 その彼にかわってスタンフィールド卿が言うのであった。
 
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