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RSリベリオン・セイヴァ―

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第四話「飛鳥の決意」

 
前書き
長いです。長いですが、次回からはようやくIS学園の話になります! 

 
メガロポリス警視庁・特捜部

「……」
高性能なヘッドホンをつけて、多熊警部はノイズが走り続ける音声を聞き続けていた。
目撃者のケータイに撮影されていた音声だけの証拠、それをコピーしたのを端末に移して何度も聞き続けていたのだ。
――たくっ! 映像さえあれば……
肝心の映像は、目撃者の指がカメラに被さって見えなかった。
「ったく! 映像さえありゃ……」
多熊は、そうため息をつきながら、もう一度端末の再生ボタンを押した。
「調べた結果じゃあ、音声の正体は本物に近い……だが、それを証明する映像がなければ話にならない。音だけ、じゃあなぁ……?」
腕を組んで深く唸りだす多熊は、ここが禁煙だとお構いなしに懐からタバコを取り出して、一服を始めた。
――本当の敵、か……
あのとき、九条という青年が発した一言が、未だ彼の頭から離れないでいた。
「警部、ここは禁煙ですよ? お忘れですか?」
若い部下が、彼の元へ新しい資料を手に現れた。
「別に、この部署の管理者は俺なんだ。固いこと言うなよ?」
いつも注意されているため、苦笑いを向ける多熊だったが、
「新しい情報が入手されました」
「なに……本当か!?」
それを聞いた途端に、多熊はひったくるように部下から情報のファイルを受け取って開いた。
「こいつは……長い刃物のような跡だな?」
山道の路上に斬りこまれた何かの傷跡であった。長年の経験からして、その跡を付けた刃物は、剣のように長い鋭器であった。
「事件現場の写真です。やられたISは既に政府用人によって回収されてしまいましたが、道路に残ったわずかな傷跡からこれを見つけることができましてね?」
「そうか……これは、俺が思うに刀……ん!?」
数日前、飛鳥という若者が「刀が二本出てきて……」と、いう発言を思いだした。
――ま、まさか……!?
そんなことあり得るはずがない……いや、ISの待機状態という本機体を電子分解させて好みの小物へ収納させる圧縮技術なら可能かもしれない!
「まさか……」
そう多熊は、自分の直感で胸騒ぎを感じた。
「……」
そして、彼は途端に席から立つと上着を羽織り、懐へ警察手帳と銃をしまう。
「……若いの、俺はちょっくら出かけてくる。留守番頼んだぞ?」
「警部、どちらへ?」
「この事件に関する捜査だ。俺だけでいい、ほかの奴らには別の事件捜査をするように言っておいてくれ?」
言い終えると、彼は速足で部署を出て行った。

リベリオンズ日本支部

リベリオンズの日本支部は、空中に浮遊する巨大な要塞である。そこには、メンバーたちが生活するに十分な設備と施設が設けられていた。
「夢じゃないよな? 本当にこんな場所が実在していたなんて……」
何度も、自分の目を疑う飛鳥に蒼真はこう囁く。
自分たちがいる場所は、要塞の最上部で、そこはまるで上空に浮かぶ一つの都市であった。
そんな天空都市の街中を歩く人ごみの中へ俺と蒼真は入っていく。
「リベリオンズは数人程度で、他は政府の連中ばっかだぞ?」
「え!?」
と、いうことは目の前を歩く無数の中年の男たちは……政治家!?
「ほら、あそこを見な? あれ、総理大臣だぜ?」
「え……あ! 本当だ」
目の前で複数のSPに囲まれて歩いているのは、まぎれもない今の総理大臣である。
「でも、どうしてここに政治家たちが?」
俺は、蒼真に尋ねる。
「ここに居るのは政治家だろうが、全員「男」だ。男が、ISを受け入れるわけないだろ? だが、RSなら男たちにも受け入れられる。つまり……」
「政治家の男たちも、RSに寄り添いたいってことか……」
そう解釈し、俺は改めてRSという武器が男性たちの希望となっていることに改めて実感した。
「でも、あの人たちはどういう目的で?」
「RSの模擬試験を観賞しにきたりとか、政治家同士の会議とかな?」
「何ヵ国ぐらいが、裏社会に加盟しているんですか?」
俺は、白人や黒人などの海外の政治家を目に、そう尋ねた。
「そうだな……アメリカや、ドイツとイタリアのEU連合や、後はアジア諸国ぐらいか?」
「なにせ、リベリオンズは裏世界が誇る国際組織だからな? 特に、今回日本が開発した新型のRSに全世界が期待している」
「新型の?」
「お前がつけてるヤツだよ?」
「へぇ……え!?」
俺は一瞬、心臓が止まったかのような衝撃に見舞われる。
「今まで扱える装着者を求めて世界中を探し回っていたが、それをお前さんがあっけなく扱っちまって、裏世界じゃあ超有名だぞ? 幸い、個人情報だけは公表していないから安心しろ?」
と、言うだけ言って蒼真は平然とした顔で俺を都市部の中にある自宅へと招き入れた。彼の自宅へ来るまで、俺は落ち着くことはなかった。
「ま、とりあえず何か飲むか?」
「あ、何でもいいです……」
「じゃあ、ジュースでいい?」
「はぁ……」
と、蒼真は冷蔵庫から缶ジュースを俺に投げ渡し、それを受け取った俺は彼と共に自室のある部屋へ招かれる。
「飲みながらでいいから来てくれ?」
ある隠し扉を出すと、そこから地下へ通じる長い通路が待っていた。
「ここから先は俺の秘密基地みたいなものだ。と、いっても皆が知っているがな? ついて来いよ」
缶に口を付けながら、俺は蒼真の後を歩いた。そんな中で、俺はある人物について彼に尋ねた。
「あの、宮凪さん?」
「あ? 蒼真でいいぞ」
「じゃあ……蒼真さん?」
「何だ?」
「天弓侍さんは元気ですか?」
「ああ、弥生か? それなら、今は地上にいる。ほら、この前行ったあの島だよ?」
「あそこが天空侍さんの持ち場なんですか?」
「いや、いつもは神社に居るよ? もうしばらく休んで行けって言われたらしいから、しばらくはあの島で休養をとってるだろ? なに、明日にはこっちへ来るそうだ」
「本当ですか?」
俺は少しニコッと笑みを浮かべた。
「なんだ、あの娘のことが好きなのか?」
意地悪そうな顔をする蒼真に俺は頬を赤くしてソッポを向いた。
「え、いや……その、別に……」
しかし、蒼真に図星をつかれていたようであり、彼は次のようなことを話す。
「悪いが……アイツには既に、「婚約者」が居るんだぜ?」
「えぇ!?」
彼女に? 俺は、一瞬体の力が抜けそうになった。
「まぁ、身内同士の話らしいが……婚約者側が一方的らしくてな? 弥生の方は断り続けているらしい」
「……」
そうなのか、弥生もああみえて悩みを抱えているのかと、俺は同情した。

「さて、ついたぞ? この部屋だ」
通路を歩き終えると、目の前にはまた扉が見えた。近くのパネルにカードキーを差し込むと、扉は何重ものロックを解除して、ゆっくりと分厚い扉が開いた。
部屋は、ある研究室である。白い空間で、見知らぬ機械が黙々と作業を続けており、その中で一人、白衣を着た蒼真と同年代の青年がこちらへ背を向けている。
「魁人、連れてきたぜ?」
蒼真が魁人と呼ぶ、その白衣の青年は蒼真の声に振り向くと、「おお!」という声を出して俺の元へ駆け寄ってきた。
「この子が、「零」を扱えた唯一の装着者か……」
マジマジと俺の顔を宥めてくる。
「ど、どうも……」
俺は、苦笑いしてお辞儀をした。
「蒼真から話は聞いているよ? そのRSは、「零」と呼ばれる最新鋭の技術を搭載した第四世代のRSなのさ」
「そんなに凄いRSが、どうして?」
どうして、俺が扱えてしまったのか、その疑問を尋ねた。
「それは今でも原因は不明だ。未だにブラックボックスが多く、開発者本人にしかわからないんだよ? ただ、確かなのは弥生君の神社の宝物殿の中にそのRSが保管されていたことしかわからないんだ……」
――弥生の神社?
そう言えば彼女は自分が勤めている神社のことを言っていたな?
「今まで、彼女はその零を大切に保管していたんだが、突如正体不明のISらに襲われ、咄嗟にこちらへ助けを求めてきたというのさ?」
――そうか、それであのIS達に狙われていたのか、それならどうも辻褄があう。しかし、どうしてそのRSが彼女の神社にあったのだろうか?
「……ところで、リベリオンズに入る決心をしてくれてうれしいよ? 君には、その零をあげよう。RSは、一度装着してしまうと、二度と解除することができなくなる。いわば、体の一部になるようなものだよ」
「じゃあ、もう俺の体にはその零って言う刀が?」
「うん、そうだね。RSというのは、装着前はこういうビー玉のような球体なんだが、それが装着者の体に溶け込んで、後は装着者の意のままに武器として展開される」
そう魁人は、懐からガラス玉のような球体を取り出して見せた。
「けど、そんな経験はしませんでした。気が付いた、勝手に零っていう刀を展開していて……」
「ふむ……これは、そうとう興味深いね? 本来なら、装着者がRSを選ぶのに、逆にRSが装着者を選んだというのか……装着者を選ぶRS……」
「ところで魁人、俺はコイツに稽古つけてやりてぇんだが……借りてっていいか?」
「ああ、いいよ? ついでにデータも取ってきてほしいな?」
「わかった」
「え、稽古?」
俺が首を傾げる。
「ま、一通りの基本動作を教えてやる。ついて来いよ? そう難しいようなものじゃない」
と、そう言って俺は再び蒼真とこの研究室を後にした。
一旦、蒼真の自室を出て次に向かったのは東京ドーム並みの巨大なアリーナであった。そこが、RS装着者たちの主な練習場らしい。
アリーナには大勢の装着者が、それぞれの愛用の武器を手に激しい模擬戦を繰り広げていた。それはあのISに劣らぬ大迫力な戦闘である。
そんな中に俺と蒼真が立っていた。
「とりあえず、展開するよう強く念じるんだ。誰でも出来る」
「は、はい!」
しかし、どれ程念じようが、踏ん張ろうが、中々RSは二刀の真剣に変わろうとしなかった。
これには、蒼真も目を疑い、何度も俺にやらせてみせるが……やはり、状況は変わらなかった。
「おっかしいな? 故障……って、ことはないだろうし」
「どうすれば?」
「いや、大抵SRつったら、念じればすぐにでも出せる。俺のだってほら?」
そう言うと蒼真の片手は、一瞬の光が起きたととみに彼のSR、迅紅を握りしめていた。
「どうして、このRSは展開すらしないんだ? こいつは俺でさえ興味を感じるぜ」
「あの、俺はこれからどうすればいいんですか?」
「魁人のやつに零を徹底的に調べてもらう。それがわかるまでは俺の家で寝泊まりすればいいさ? あ、住まわせる代わりといっちゃあ何だけど、できれば家事洗濯もやってもらえない?」
「は、はい……」
「んじゃ、決まりっと! とりあえず、魁人が答えを出すまでの間は、地上を一人でブラブラするんじゃないぞ? まぁ、どうしてもっていうなら俺か誰かと一緒に行くことだ」

その夜、俺は蒼真の自宅で空き部屋を借り、一人で静かに寝ていた。
「……」
今頃、魁人は寝る間も惜しんで零の解析に喜びながら没頭している頃だと蒼真は言っていたが。本当かはわからない。
「俺、本当にどうなっちゃうんだろ……?」
退屈なニート生活から、一気に漫画のような世界に放り込まれてしまい、頭の整理が未だつかないでいる。
「少なくとも、身の安全は保証できるんだよな……?」
それもまた心配である。とりあえず、不安なことだらけではあるものの、明日は今までの日常とは違う何かが待ち構えていると思い、無理にでも睡魔を呼び寄せて眠りについた。
しかし、どうしても寝付けなかった。やはり、知らない人間の家でいきなり寝泊まりするのは落ち
着けない。
「外はどうなってんだろ?」
眠くなるまで、窓を開けて外から流れる夜風に当たろうとした。
「雲の上だから星が凄い綺麗だな……」
この要塞は雲の上、高度数万メートルの上空に浮遊している。メガロポリスに居たころは、めったに空すら拝めることはできず、夜でさえも曇りが続いて星の光などみることなどできなかった。
「……?」
だが、そんな夜空に、一筋の流れ星が見えた。いや……流れ星にしてはゆっくり過ぎる。
「流れ……星か?」
いや、違う。流れ星なら曲線を描いて飛んだり、一度止まってまた落下し直すことすらできるはずない。あれは……?
「……」
つい、好奇心に駆られて俺は無意識に外へ出た。ここは、要塞の環境設備によって高高度を浮遊していても、温度は調節されているためそれほど寒くはない。
「……!」
俺は、あの流れ星に見えたシルエットを追った。シルエットは、徐々に近づいてこの付近の公園へ降り立った。
「あそこか!?」
息を切らして、俺はシルエットが舞い降りたとされる公園までたどり着いた。しかし、辺りは街灯が照らす場所は真っ暗で何も見えない。
「誰も、居ないのか……?」
誰もいない。そう諦めて元来た道を戻ろうとしたそのとき、ふと背後から温かな優しい光がの背を包んだ。
「!?」
振り返ると、そこには光に包まれた女性が浮かび上がり、ゆっくりと地面へ降りたつ光景が映った。
そして、その女性を俺は知っていた。
――弥生?
そう、それは確かに天空侍弥生である。光に包まれた巫女装束を纏って舞い降りるその姿は、天女か天使のように美しく見えた。
「て、天空侍さん!?」
「え……?」
俺の叫びに少し驚いて弥生は振り向いた。
「く、九条さん……?」

俺は弥生を蒼真の自宅へ連れ帰った。後に彼女の突然の登場に、蒼真は少し驚くも、心配して状況を尋ねた。
「どうしたんだ? 急に帰ってくるからビックリしたぜ……」
「いきなり押しかけてごめんなさい。でも、一大事なんです」
「一大事……?」
俺は首を傾げた。何のことだろうか?
すると弥生は、蒼真にテレビを付けるよう言うと、蒼真も嫌な予感を感知すると、慌ててテレビのスイッチを付けた。
「こ、これは……!?」
テレビで放送されていたニュースには衝撃的な現実が俺につき付けられていた。
「俺が……指名手配!?」
幸いなことに殺人者として扱われはおらず、何か重要な軍の機密資料を盗んだという罪で指名手配されいるらしい。
「そんな……」
膝がガクッと落ちた。今まで生きてきた中でこれほどな重罪を受けるとはないだろう。
ニュースの画面に俺の名前が載ったことはとてつもない衝撃に見舞われた。
「あ、そういえば……」
……そういえば、俺が指名手配されたら家族はどうなる? 父さんは? 母さんは? そして、舞香は? どうなるんだ?
今更嫌いな家族なのに、なぜか心配してしまう。皮肉な物だ……
「俺の家族はどうなるんだ!?」
つい、口に出してしまった。
「おそらく、お前の家族はIS委員会によって保護されているだろうな? 妹だって無事にIS学園へ行けるさ? まったく、お前は本当にお人好しだよな?」
もう九条家とは縁を切ったはずなのに、まだ彼らのことを心配しているなんてと蒼真はため息をつくが、その反面に彼は飛鳥のそういう人間くささを改めて見た。
「とりあえず、あなたのご家族は無事でいられるでしょう? 何事もなく生活はできます。問題は九条さんです。しばらくは、この基地で身を隠したほうがいいと思われます」
弥生の言う通りだ。しかし、この俺が指名手配犯だなんて心が傷つく。
「とりあえず、お前はしばらくここに居るんだ。いいか? 何があってもこの基地から地上へ出るんじゃないぞ?」
蒼真の強い口調に俺は頷いた。しかし、俺とて指名手配されていることは理解できている。自分でも自ら地上へ出るようなことはしない。

しかし、その夜のことだった。
俺は、自分でも区別ができるはずなのに、幻なのか、現実なのか、単なる夢なのかもわからない幻想に見舞われることとなる。
『お兄ちゃん……お兄ちゃん、助けて……』
意識の中で、妹の舞香が必死に俺へ助けを求めている。空耳なのか、それとも夢なのか、区別がつかない。
――舞香?
『助けて……お兄ちゃん、助けて……!』
「舞香……!」
しかし、目を覚ました途端、そこに舞香は居なかった。ただ、自分の頭へ響くように聞こえてくる。
「何なんだ……?」
それからというもの、俺は蒼真の自宅で家事をするにも時折に舞香の幻聴が惑わすように聞こえてくることが多々あった。蒼真や魁人、ましてや弥生に話しかけられても、上の空な状況が多くあり、最近では蒼真の自宅でぼんやりと一日を過ごすことが多くなった。
「……」
「九条さん……」
ソファーでただ夜が過ぎるまで座り続ける俺に弥生が不安な目を向ける。
「……」
「九条さん、最近様子がおかしいですよ?」
「うん……」
俺が答えるといったら「うん」か、「ああ」か、「いや」の三つだけだ。
周囲は、俺が指名手配されて気を病んでいるのかと思ってあえて声をかけないでいる。蒼真も、俺が精神的に病んでいるのかと思い、しばらくは様子を見続けているといった感じだ。魁人も、出会った以来ラボに籠り続けている。
「九条さん、いったいどうしたんですか?」
何度も彼女は俺に問いかけても、俺は一言でしか物事を返さない。
「……九条さん、少し目を見せて?」
何か気になったのか、彼女は両手を俺の頬に添えてこちらへ向かせると、ぼんやりとした俺の目を見つめた。
――瞳孔の色が違う。何か、おかしい……
「……」
弥生は、こんな俺の背に一枚の札を張った。薄々気付いてはいたが、どうでもいいことと捉えて、俺はそのままソファーに座りながら夜を待つと、そのまま寝床へ向かった。
「……」
布団へ横たわり、天井を見つめていた。すると、再び舞香の声が俺の頭の中へ響き始める。
『お兄ちゃん……お兄ちゃん……』
「舞……香……」
そのとき、俺は起きているのか、寝ているのかさ感覚がつかめず、その体はゆっくりと起き上がり、布団から離れ、部屋から離れ、ついには蒼真の自宅から出て行ってしまった。
「舞香……舞香……」
ただ、妹の名を唱え続けながら、俺は一人で基地の内部にあるテレポートルームへと向かった。

「くぅ! 俺としたことが……」
早朝、蒼真は歯を噛みしめて、自分の招いた油断が原因になったと悔やんでいた。
「すまない、俺が勝手な思い込みをしたばかりに……」
あの手の青年は、予想以上の衝撃を受ければ、大抵は数日間は口を利かずに放心状態になるのが多い、しかし今回は違っていた。
「いち早く気づかなかった私にも責任はあります。念のため、九条さんに発信機の御札を付けておきました。細かいほど正確ではありませんが、位置はわかります」
「わかった。すぐに出かけよう?」
昨夜、何者かがテレポートルームを使用した痕跡があったため、おそらく飛鳥ではないかと思われる。だが、彼にはテレポートルームの説明はしていない。
「九条さんの目は普通ではありません。やはり催眠にかけられていました……」
「何者かが飛鳥のやつを操っていると?」
「可能性は高いです」
「こうしてはいられないな……弥生、一緒に地上へ来てくれ、飛鳥を探すぞ?」
「はい!」
二人はすぐさま飛鳥の後を追うかのようにテレポートルームへ向かった。


メガロポリス・エリア3

「……ん、ここは?」
目を覚ますと、そこは蒼真の自宅ではない。見知らぬ町の裏路地であった。寝ている間に寝ぼけて外へ出てしまったのか、そう思って裏路地から出てみるが、そこは要塞の最上部の居住エリアではなかった。
「ど、どこだ!?」
ふと看板を見ると、ここはメガロポリスのエリア3であった。
「メガロポリスのエリア3!?」
心当たりが全くない。何故、寝ている間に地上のメガロポリスまで来てしまったのか……
とりあえず、何とかしなくては……今の俺は「指名手配犯」なのだ。
できるだけ、顔を見られないよう人通りの少ない、裏路地を歩き続けた。
「……」
慎重に、できるだけ人に見られないように、怪しまれないように、俺は何処へ行けばいいのかわからずにひたすら目の前を歩いた。
そんなとき、目の前の塀に俺の手配ポスターが張ってある。それを剥がすと、そのポスターを見つめた。自分がしでかした罪の重さが伝わってくるかのようだ……
「おい! テメェ……確か、どこかで?」
俺の背後から数人の男たちが酒瓶を片手に歩み寄ってきた。俺とそこに張られていたポスターとの写真が一致すると、男たちは目の色を変えて俺に襲い掛かろうとしてきた。幸い、相手は老いぼれで、さらに酒にも酔っていたことから簡単に蹴散らして逃げ延びることができた。
「くそっ……!」
――くそっ! どうして、俺がこんな目に会わなければならないんだ!?
指名手配され、さらには裏路地でゴロツキ共に追い回され、そんな己の虚しさが徐々に涙へと変わっていった。

息を切らして、俺は立ち止まった。
「追ってこないよな……?」
振り向くと、そこには俺を追いかけてくる男たちの姿は居なかった。これでどうやら一安心ができそうだ……
背後に気を取られながら俺はウロウロと歩き続けると、
「っ!?」
突然、ゴツイ手につかまれて俺は、路地の裏側へ引きずり込まれてしまった。
――見つかった!?
咄嗟に抵抗した時、聞き覚えのある男の声が耳に飛び込んできた。
「まてまて? もう、お前さんをしょっ引こうとはしねぇよ?」
そこには、警察署で俺を尋問した中年の刑事が居た。
「あの時の!?」
「よぉ? しばらく見ないうちにふてぶてしくなってんな?」
「な、何の用です?」
俺は身構えを取る。
「やれやれ、こいつぁ嫌われたもんだな……ま、当然のことだが」
「本当に、俺は嘘なんてついませんよ」
「わかってらぁ? だが……」
背後から幾人かの声が迫ってきている。
「……話は後だ。行くぞ!」
「あ、ちょっと!」
俺は、信用していいのかわからないものの、今の状況からしてこの刑事の後を走った。
できるだけ表へ出ることなく裏道を走り続けて、ある人気の少ない広場へとたどり着いた。

「とりあえず休憩だ! くそ、年をくうと昔みたいに走れねぇや……」
息を切らして刑事は目の前の地べたに尻餅をついた。
「大丈夫ですか?」
「ああ……だが、年には敵わねぇぜ?」
追手もどうにかまいたことだし、しばらく息を整えるまで俺たちは広間で休んだ。
「……それよりも、俺と逃げてまで聞きたいこととかあるんですか?」
俺はそう尋ねた。
「バカヤロウ、聞きてぇえことがあるからお前と逃げたんだろうが?」
「……で、何が聞きたいんですか? 言っときますけど、尋問されたときと同じ事しか話せませんよ?」
「ああ、そいつはわかってる。別のことでだ」
「別のこと?」
刑事は、懐からタバコを取り出して一服すると、一服間際に俺へ名を確かめた。
「……そういや、オメェさん確か九条とかいったな?」
「はい……九条です」
「俺は、警視庁の多熊要四郎ってんだ。ま、多熊って呼ぶなり要四郎って呼ぶなり好きにしな?」
「多熊さんは、俺に何が聞きたいんですか?」
「……なに、今は状況も状況だ。手短に話そう」
と、タバコを吸い終えると、それを革靴で踏み消して再び俺にこう尋ねた。
「……白騎士事件での事実は誰から聞いた?」
「白騎士事件の?」
「一般からは、白騎士事件は被害件数がゼロって言われていただろ? だが、俺はそれを否定した。お前もそれを聞いて違和感のない顔をした。違うか?」
「……」
答えずに頷くと、多熊刑事は続けた。
「お前は、その真相を誰から聞いた?」
「それは、リベリオンズの……」
俺はつい口が滑った。咄嗟に口を閉じるも、それを多熊は聞き逃さなかった。
「リベリオンズ?」
「あ、いや……」
「おい、そのリベリオンズってのは何なんだ? 留置場へ現れてお前を助けた男のことか?」
多熊は、おそらく蒼真のことを尋ねようとしたのだが、俺はとっさに口を固く閉ざした。
「頼む、教えてくれ? 今、この世界の裏側でいったい何が起きてんだ!?」
胸ぐらを掴まれ、俺は激しく問い詰められた。
「それは……」
「もしかしたら……ISに仇名す強大な存在が居るんじゃねぇのか!?」
「……」
「九条、答えてくれ! お前は、いや……お前たちはいったいこの世界に何をさせようとしてんだ!?」
「ごめん、アンタが警察だから……」
「くぅ……」
多熊は、苦虫を噛み潰したような表情をする。
この世界の治安を守る警察、それが俺の信用しない理由だ。いくら、反IS派はといえ、この人は警察の人間だ。この世界を守る……
「居たぞ、ターゲットの九条飛鳥だ……!」
「!?」
頭上からの叫びに俺は見上げた。
「IS!?」
そう、真上には数機のISがこちらを補足していた。
「な、何で!?」
何故、ここでISが現れたことに俺は目を丸くする。
「お前さんは、ISにも目を付けられるほどの御尋ね者ってことだ!」
多熊は、咄嗟に俺を手を引いて逃げ出した。
「追え! 上空から射殺しろ!?」
ISの部隊は容赦なく上空から裏路地を走る下の俺たちへライフルを発砲しだした。
「くそ! 生け捕りにはしないってことか!?」
息を荒げながら、いつの間にか俺の後を走る多熊。そんな彼に振り向いて俺は叫ぶ。
「貴方だけでも逃げてください!」
「バカ言うんじゃねぇ! 本当の事実を聞けないまま、オメェを死なせてたまるかってんだよ!?」
多熊は走りながら振り返ると、また俺にこう言う。
「表へ出ろ!幾ら奴らでも一般市民を巻き込むことはしねぇはずだ!!」
多熊の提案に、俺は彼と共に表の路上へと飛び出した。
「くそっ……ウロチョロと!」
大勢の人ごみに紛れた俺たちを探すことはできなかった。さすがに命令なしに勝手な行動はできないらしい。ISの連中はとりあえず上空で待機しつつ次の指示をまった。

「ハァ……ハァ……!」
再び息を荒げて俺たちは表の大通りへ逃げ込んで、人ごみの中に流されながらある公園へとついた。
この公園でも人気は多く、大勢の子連れの母親たちがベンチに座って雑談をしている。俺たちも、近くのベンチに腰を下ろし、十分に息を整えていた。
「ったく、飛んだ奴らに目を付けられたもんだな? オメェは……」
「そっちこそ、本当にしつこいですね?」
「あたぼうよ! 俺は、本当の事実をしりてぇんだ……」
「そこまでして、警察に貢献したいんですか?」
「いや……これは俺個人のことだ」
「え……?」
「あの時、お前は言っただろ? 『本当の敵がいるんじゃないか』ってさ。それについて心底考えさせられちまった。考えれば、考えるほど、この世界で刑事やってると思ったら吹っ切れちまってよ? 今となっちゃあ、どうでもよくなっちまった……」
「多熊さん……」
「ははっ! 俺だって、本当のことを言えばいっそ刑事をやめてお前みたいに大暴れしたいぐらいさ?」
再び懐からタバコを一服する多熊は、俺にこう問う。
「お前は……さっき言いかけた「リベリオンズ」ってのに入ってんだろ? まぁ、俺が察するに反乱軍みたいな組織だと思うが……」
タバコを吸い終えると、立ちあがって隣の灰皿へ捨てると、続けて尋ねた。
「お前は……何のために戦うんだ?」
「え……?」
「お前さんは、その組織に入っているようだが、何か目的があって戦ってんじゃないのか?」
「……」
俺は黙った。と、いうよりも答えられなかった。ここまでの経緯がほとんど成り行きという形で進んできたからだ。
「ま、言いたくなければいいさ?」
「……成り行きです」
俺は思い切って答えた。何ていわれるかわからないにせよ、とりあえず答えた。
「成り行き?」
「俺……元はニートだったんすよ? それも、エリア9の方の金持ちの家庭に生まれたんすけどね?」
「金持ちなら、親御さんのコネかなんかで就職できるんじゃねぇか?」
「それができれば苦労はしません……俺、幼いころから何をやってもダメな不器用な男ッスから、高校をかろうじて卒業しても、大学受験には落ちちゃって……繋ぎの仕事も入ってすぐに戦力外にされちまったんです……そして、クビって落ち。こんなことになってから、家族からは完全に孤立して、リアリストの両親からは妹以上に不遇されることになったんです」
「ほぉ……オメェも、苦労してんな?」
「それが嫌になって、途方に暮れていたときに成り行きで……」
「そう言うことかい? まぁ、今はないにしろ……これから探せばいいじゃねぇか? それがどんな答えであれ、お前の道は自分で決めろや?」
と、多熊は俺に懐っこい笑みを見せた。
「さて、そろそろ昼時だ。どうだ、近くで何か食うか?」
「え、いや俺は……」
「おごってやるよ? これからどうするにも、まずは腹ごしらえだ! お前も今のうちに腹を満たしておけ」
「……」
かと遠慮があるが、確かに腹も減ってきた。喉も乾いたし……
「ほら、行くぜ? 九条!」
「はい……」
俺は、ため息をつくが、しかし少しだけ多熊に微笑を見せた。それを見た彼も俺に微笑み返す。
――もし、俺に息子が居たなら、これぐらいの年頃にはなってるか……
ふと、後ろを歩く飛鳥を見て多熊はそう抱いた。

時を同じくして、九条たちの捜索を続けるIS部隊は本部からの指示を受けていた。
「目標は、なおも逃走中とのことです……」
『へえぇ~……で、そのまま見逃したってわけ?』
無線からは聞こえる声はあまりにも陽気すぎる口調であった。
「申し訳ありません。ターゲットは、人ごみの中に紛れていて……」
『じゃーあ? その``人ゴミ``ごとターゲット消しちゃえば?』
「えっ!? し、しかし……」
つまり、一般の大衆をも巻き添えにしてもかまわないとのことだった。
『どれだけ苦労して、こっちがターゲットに「電磁波催眠術」をかけたかしってんの?』
「……わかりました。では、予定通り実行いたします」
『うんうん♪ ちゃーんと``Tさん``の言うこと聞いてくれるから、皆いい子だねぇ~? じゃ』
通信は終わった。そして、連絡を取ったISの隊長は部下に内容を告げた。
「一般市民を巻き添えにしてもかまわんとのことだ……」
「へぇ? 『ドクター・T』も、たまには面白いことを思いつくじゃねぇか?」
そう、別のISパイロットが残忍に微笑んだ。
「しかし、あまり派手にやらかすな? われわれの目的はあくまで九条飛鳥の抹殺なのだからな?」
「へいへい……」
面倒な顔をする部下は隊長に向けて相づちをうった。

「御馳走様でした」
「いや、こっちも久々に若い奴と飯が食えて楽しかったぜ?」
ラーメン屋を出た俺は、ふたたび逃亡を再開した。
「裏路地へ向かいます?」
「いや、もうその必要はねぇ……そもそも、俺を誰だと思ってんだ? 刑事だぜ?」
と、彼はニタニタしながら警察手帳を見せた。そうか! 彼は警察だから、もし誰かに見つかっても多熊警部が庇ってくれるんだ。
「最低でも、一般人や警察とかには通用する。とりあえず、お前の仲間が迎えに来るまでの間は守ってやる」
「ありがとうございます。でも……」
「あ? 仲間のことは話さねぇってか?」
「……」
俺は、御馳走してくれたことには礼を言うが、それに付け込んで聞き出そうとしているのではないかと、未だ多熊を疑っていた。
「なぁんだよ、ケッチィなぁ?」
「……唯一確かなのは」
「あ……?」
しかし、俺は少しだけでもと多熊に一部の情報を与えることにした。
「白騎士事件での被害者はリベリオンにもいます。留置場で俺を助けに来たあの男の人、その人が被害者の一人です……」
「やっぱ、白騎士事件での被害者は俺以外にもいたんだな?」
「しかし、その決定的な事実は既に政府によって消されたんです。残念ですけど、これ以上真相を探ろうとしたって、無駄かもしれませんよ?」
「なに、そこは上手いとこやるさ? 後は……リベリオンズとやらを生で見てみたいもんだな?」
――そのへんは、蒼真さんに上手いことやられると思うけど……
どうせ、多熊は蒼真たちとあった瞬間に、記憶を消されるか何かされるに違いないが、それでも今では仲間として少し位は信用しよう……
上空から地上へ向け何かが放たれた。数発の機影は轟音と共に市街地へ着弾した。
「な、何だ!?」
俺は振り向いた。そこには、悲鳴と呻きにまみれて悲惨な光景が目に移った。先ほどまで背後を歩いていた人々の塊が、一瞬に肉片になっていた……
「そ、そんな!?」
「ちっ! 奴ら、ついに容赦なく仕掛けてきやがったか!?」
多熊は上空を見上げると、そこには再びISの機影が見え、それらはこちらを見つけると、すぐさま急降下してくる。
辺りはこの日が居によって大混乱と化し、パニックに陥った人々による押し合いの状況が絶えなかった。
「九条! こっちだ、ついて来い!?」
多熊は、一旦俺を裏路地へと連れ出して状況を見た。

「何だい……(ターゲット)を外しちまったのかい?」
地上の、死体が散乱する路上へと降り立ったIS達はターゲットを逃したことに気付き、再び探すはめになった。
「警察だ! 動くなIS使い共!?」
しばらくすると、防弾チョッキを纏った警官らがパトカーから降り、拳銃を一斉に向けてきたが、ISらは鼻で笑った。
「隊長? 雑魚はどうするぅ?」
「任務の障害となるのなら、排除しろ……」
「りょうか~い♪」
ISの一人がアサルトライフルを乱射し、前方で銃を構える警官たちを撃ち殺した。何の成す術もなく次々に倒れる警官たちは、ISらにとって狩られる獲物のようであった。
そして、そんな彼らを殺すISらの姿はまさに虐殺そのものであった。

「くそっ! 連中はテロかなんかか?」
見つからないよう、瓦礫の隙間から除く多熊は背筋がぞっと震えた。今まで遭遇してきた事件とはちがい、その光景はまるで虐殺という地獄だ。
「自衛隊のISが来るまで時間がかかりすぎる……ちくしょう! どうすりゃあいいんだ!?」
相手の武器と、自分の武器と出は差がありすぎる。かといって、このまま見つかればあの警官らの二の舞になるのが落ちだ……
「賭けてみるか……?」
多熊は、そう静かに笑んだ。
「……!」
そんな彼の近くで共に隠れながら光景を目にする俺は、ただ警官らが殺されるのを指をくわえてみているしかなかった。
――こんな時に、零が使えたなら……!
しかし、どれ程念じようとも零はそれに答えてくれなかった。
「九条!」
多熊は俺の元まで戻ると、意を決したかのように俺へこう言う。
「自衛隊のISが来るまで時間がない! このままじゃあ、あの警官共と同じ目に会うぜ」
多熊は、俺の肩を掴むと真剣に説明した。
「いいか? このままだと俺もお前も殺される。だが、お前だけは何としても生き残れ」
「え……どういう意味です!?」
「お前は俺よりも若いし、今のお前は無抵抗な一般市民同様だ。人々を守るのが、刑事である俺の仕事だ。それが……命を落としてでもな?」
「た、多熊さん!?」
「俺が奴らを引き付けて時間を稼ぐ。その隙にお前はできるだけ遠くへ逃げるんだ」
「そ、そんな……!?」
「……死ぬなよ? 後のことは、お前にすべて託す! 俺がしてやれるのは……ここまでだ!」
そして、彼はIS達の元へとびだし、懐から小さな拳銃を取り出して発砲した。
「多熊さん!!」
俺は逃げようにも足が思うように動けなかった。ただ、呆然と多熊の最期を見続けた。
「男を舐めんじゃねぇぞ!?」
我武者羅に発砲する多熊へ数人のISがライフルを発砲し、それをせっせとかわしながら瓦礫を楯に銃で撃ち返す。
「何してやがる! 逃げろ、飛鳥ぁ!!」
「っ!?」
多熊の叫びに、ふと我に返った俺は目の前で大量の銃弾が多熊さんを襲う、しかし。
「このぉ……!」
多熊さんへ襲い掛かるはずだったその銃弾は零の二刀に弾き飛ばされる。
「多熊さん! 怪我はないですか?」
「バッカ野郎が……逃げろって言っただろ?」
「逃げません……!」
「……?」
俺は、力強く零の刀身を握りしめた。
「もう……逃げない。零を手にした時から、俺はそう誓ったんです!」
「飛鳥……」
「ケッ! ベタな理由だが、嫌いじゃないぜ……?」
ずれたキャスケットをかぶりなおす多熊は微笑んで、立ち上がった。
「多熊さん、ここは俺に任せてください……」
その、決意の固い俺の背を目に、多熊さんは従うよりほかなかった。
「飛鳥、死ぬんじゃねぇぞ?」
多熊さんはその場から離れ、残っているのは俺と敵のIS集団だけである。
「男ってバカばっかりよね? 本当に呆れるわ?」
「それよりも、とっととこのガキを殺して帰ろうぜ?」
「……!」
俺は振り返り、奴らを睨みつける。俺は振り返り殴りかかろうと突っ込むが、ISの一人がアーマーに包まれた片腕で俺を首を掴み上げると、そのまま瓦礫へ押さえつけた。
「すぐに殺すのは惜しい、ゆっくりと嬲り殺し手あげるわね? 坊や……」
「くぅ……くそっ!」
首を絞めるISの握力が強まり、俺はさらに叫びをあげ、その声を涼しげに聞くIS達。
そんな中で、俺は徐々に抑えきれぬ怒りに支配される。
「許さねぇ……」
「はぁ?」
「お前たちだけは……絶対に許さねぇ!!」
そして、俺の体が光に包まれた。髪が逆立たせ怒りに燃える俺に熱い闘志が湧き上がった。
「うおぉ……!」
俺は、首を掴んでいるISの手を掴み返した。
「な、何だ……?」
首を掴むISの一人が呟いた途端、彼女は勢いよく吹き飛ばされた。
「どうした!?」
慌てて飛ばされた仲間の元へ駆けつくが、飛ばされた彼女は腹部に深い斬りこみを刻まれて絶命していた。
「ま、まさか……」
周囲のISは恐る恐るこちらへ振り向いた。そこには、両手に真剣を握る俺の姿がいた。
「兵器と差別が支配する世界なんて、俺は絶対に認めない!」
俺は目にもとまらぬ速さで目の前のISへ飛び込んでいった。そして、血渋きと幾人もの悲鳴が真上の空へと響き渡った……

戦いは、瞬く間に終わっていた。
「……」
息を荒げる俺の周囲には血まみれになったISたちの無残な遺体が転がっている。
「終わったようだな……」
「多熊さん?」
がれきの裏から身を潜めていた多熊さんが俺の背後から出てきて、目の前に転がるISの遺体に目を指す。
「へへっ……しかと見届けたぜ? お前の戦いを」
「殺人罪で、逮捕ですか?」
冗談交じりな口調で、しかし実際にはこれほど大勢の女たちを殺したんだ。洒落にはならない。
「指名手配犯、九条飛鳥の消息は不明。多熊警部が現場へ到着した時にはテロと思われるIS集団の遺体が発見されていた」
「え?」
僕はその台詞にキョトンとする。
「俺は、お前と接触しなかった。ていうことにしておいてやる」
「多熊さん……」
俺は、黙ったまま頷くと、彼の約束を聞いた。
「……俺の分まで、戦ってくれ?」
「……!」
「頼んだぞ……」
それだけ言い残すと、多熊さんは僕の元から静かに去っていった……

後にリベリオンから蒼真と弥生が駆けつけに来てくれた。二人の前には零を両手に持つ俺の姿がはっきりと見えた。
「九条さん……」
弥生は、俺の後ろへ歩み寄る。
「九条、俺たちが来るまで、いろいろとあったようだな?」
蒼真もこちらへ歩み寄ると、俺は二人へ振り向いて、まずは謝罪した。
「ご迷惑を、おかけしました……」
「気にするな? 今回の件はお前のせいじゃない」
「そうですよ、さぁ帰りましょう? 皆さんが待っていますよ」
「……!」
俺は力強く頷き、二人と共に上空の基地へと帰還した。
――俺は必ずこの世界を変えてみせる。もう迷わない。例え、どれ程罪を背負おうとも、どれ程の憎しみに苦しめられようとも、俺は……



 
 

 
後書き
予告

世界で初めてISを動かした男!? 何じゃそりゃ……
ええ!?俺も男性操縦者を偽ってIS学園へ行けとぉ!? え、男性操縦者の保護をしてこいだぁ?
さらに、俺の元に新たな仲間が集まり、モテない男たちでIS学園という名の女子高へ押しかける!

次回
「女子高なんてナンボのもんじゃ!!」
 
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