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女人画

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6部分:第六章


第六章

「今はな」
「わかりましたよ。それじゃあ」
「帰ろう」
 今度は帰ることを告げた。
「奈良の街で何か食べながら考えることにする」
「奈良でですか?」
「奈良にいて他で何処で食べるつもりだ?」
「いえ、奈良ですけれど」
 どういうわけかここで微妙な顔を見せる相模であった。
「どうも。ちょっと」
「有名な食べ物がないというのか」
「あまり聞かないですよね」
 その微妙な顔でまた間に述べた。
「俺が聞かないだけかも知れないですけれど」
「一応柿の葉寿司があるぞ」
「ああ、あれですね」
 それは一応知ってはいるようだがそれでも返事は浮かないものであった。
「けれど。あれも」
「好きではないか」
「どうせなら普通の寿司がいいですね」
 少し苦笑いを浮かべてこう述べた。
「寿司を食べるのなら」
「そうか。ではそれはいいか」
「はい。正直に言いまして」
「では他には特にないな」
 首を捻りつつ述べた言葉であった。
「奈良にはな」
「美味しい名物はですか」
「正直私も知らない」
 はっきりと答えた。
「奈良の名物とはな」
「そうですか」
「だが他の食べ物はそれなりにある」
「何がありますか?」
「駅前から少し行くとだ」
 話を続けながら相模の顔を見る。彼の顔を見ると少しずつだが興味を抱いてきているのがわかる。実際に表情が明るいものになっている相模だった。
「飲み屋が並んでいる」
「ああ、そういえばそういう時間ですよね」
 相模は彼の言葉で気付いた。もう夕陽になっていた。それまで明るかった世界が今では紅くなろうとしている。もう夕刻であった。
「夕食の」
「ついでに飲むな」
「そうですね。まずは奈良に来たことを祝って」
「祝うわりには随分と不満そうだが」
「美味いものがれば別ですよ」
 そこはかなり現金な相模であった。
「そういうのがあればね」
「それでか」
「そういうことです。けれどそれは御存知だと思いますけれど?」
「君の大食と大酒には驚かされてばかりだ」
 少し憮然となった顔で述べる間だった。
「全く。わかっていれば給与のうちに食費等を入れはしなかった」
「まあまあ」
「だが。それだけの分は働いてもらうからそれでいいな」
「こき使うということか」
「君の体力に合わせているだけだ」
 お互いああ言えばこう言うになっている。しかもそれをさらに続けるのだった。
「それだけだ」
「言いますね。けれど今の給与じゃその分しか動きませんよ」
「言うからにはそれだけ働いてもらうぞ」
 この様な調子だった。しかしそれを続けながらも今は二人は一度駅前に戻ってそこから商店街を進んでやがて古い町並みが続く場所に出た。その時にはもう辺りは暗くなりかけていた。
「へえ。いい町並みですね」
「風情があるな」
「ええ。何かいい感じですね」
 江戸時代、新しくとも明治時代を思わせる木造の建物が立ち並ぶ中を進みながら話をしている二人だった。
「何かこういう場所だと」
「どうした?」
「そういう風情の場所で飲みたくありませんか?」
「そういう場所でか」
「ええ。どうでしょうか」
 さりげなく提案する相模だった。
「然るべき場所で。どうでしょうか」
「そうだな。私もそんな気分になってきた」
 相模のその言葉に乗る間だった。
「ではここは」
「ここは?」
「料亭に入るか」
 考える顔でこう述べたのだった。
「料亭にな」
「料亭?奈良にもあるんですか」
「そうでなければいい感じで飲める場所だ」
 ランクを下げたがそれでも飲み食いするつもりなのは変わらないのだった。
「それで。どうだ?」
「ええ。俺はまあ間さんと一緒ならそれで」
「そうか。それではな」
「はい。それじゃあ」
 まずは幸いにしてその風情のある料亭に入ることができた。そこの座敷に案内されそこで卓を挟んで二人向かい合う。そのうえで懐石と日本酒を楽しみつつ話に入るのだった。
「それでだ」
「ええ」
「画伯の家の場所はわかった」
 話は仕事の話だった。相模も刺身を食べつつ静かに彼の話を聞いていた。
「後はだ」
「要塞攻略ですか」
「そうだ。要塞は外から攻めれば攻略は困難だ」
「けれど中から入れば」
「攻略はなったも同然だ」
 こう言い切った。
「それでな」
「じゃあ今回もそれですね」
「そのつもりだ。中に入る」
 これが間の考えだった。
「そうして一気に決める。あの禍々しい妖気から画伯が犯人なのは間違いない」
「はい、確かに」
「だからだ。一気に決めたいが」
「問題はどうやって中に入るかですね」
「そういうことだ。あの門にしろ」
 入り口のその漆黒の門についてもここで述べられた。
「そうおいそれとは入ることができない」
「何かあの門事態にも邪悪なものがありますよね」
「門だけではなく屋敷全体にな」
「ですね。だからこそ中に入ろうとするだけでも」
「かなり難しい」
「ですね。本当にどうします?」
 相模は眉を顰めさせそのうえで天麩羅を食べながら間に問うた。
 
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