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女人画

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14部分:第十四章


第十四章

「炎を帯びたその刀をな」
「俺もですか」
「君はそのまま正面から攻めてくれ」
 跳ぶのは彼だけということだった。
「それでいいな」
「わかりました。じゃあそのまま」
「頼んだぞ」
 あらためて彼に告げるのだった。
「それでな」
「はい。それじゃあ」
「よしっ」
 ここで間は跳んだ。年齢からは想像もできない程素早く、そして高く跳んだ。そうして一気にその刀を振り下ろすのだった。
「むうっ!?」
「これで終わりだ」
 間は振り下ろしたその刀を画伯が化身してしまったその怪物に対して投げつけたのだった。
 それと同時に相模も正面から斬りかかる。そうしてそれで同時に攻撃を浴びせる。
 まずは相模が迫るその怪物の右腕を払う。それと共に間の刀が怪物の胸を貫いたのだった。
「やったか!?」
「やりました!」
 怪物の右腕を切り払った相模は間の刀が怪物の胸を貫いたのを見て会心の声をあげた。
「これなら!」
「そうか。そうなのだな」
「ええ」
 今度は着地した間に対して答える。間は右手と右膝を畳の上に着けそれで衝撃を殺して着地していた。やはり年齢を感じさせない動きであった。
「流石に胸を貫かれたならば」
「終わりだな」
「実際に動きを止めていますよ」
「ああ」
 見ればその通りだった。画伯が変化した怪物はその動きを完全に止めてしまっていた。
 そうして。その姿をゆっくりと、蜃気楼の如く消していき。後に残ったのはあの筆だけだった。しかもその筆も縦に奇麗に真っ二つに折れてしまっていた。
「これってどういうことですかね」
「やはり画伯は」
 間はその折れてしまった筆を見つつ相模に述べた。
「筆と同じになってしまっていたな」
「同じですか」
「そうだ。高田といったが」
「まさかとは思いますけれどね」
 その高田という名前で相模の顔も歪んだ。
「あの高田家ですかね」
「あの女の祖母だな」
 間は言った。
「高田依子のな」
「会ったことはないですけれど相当酷い奴らしいですね」
「私も話に聞いているだけだがな」
 実際のところこの辺りは間も相模と同じなのだった。
「あちこちでことあるごとに邪なことを企てているらしいな」
「そうですね。そいつの婆さんですか」
「それもかなり邪悪だったという」
「俺も聞いていますよ。そいつが若き日の画伯に筆を売って」
「おそらく狙っていた」
 間はそう読んだ。
「画伯が筆にその邪な心を同じにさせるのをな」
「画伯の元々の邪悪さをも読んでですか」
「そういうことだ。そして今の事態に至った」
「厄介な話ですね。それこそ半世紀も続く話だったなんて」
「全くだな。だがこれで話は終わった」
「ええ」
 二人が言っているその横でまずは早百合が目を開いた。そうして屋敷が急に女の人達の声で騒がしくなってきたのだった。
「あれ!?何故この屋敷にまた」
「家に帰った筈なのに」
「あの絵から出て来ているみたいですね」
 相模はその声を聞いて言った。
「どうやら」
「そうだな。画伯がいなくなり絵の魔力が消えた」
 だからなのだった。
「それによってな」
「はい。それじゃあ後は」
「私達の仕事は終わった。帰るか」
「ですね」
 二人は折れた筆は拾って間のライターで火を点け燃やしてそのまま消し去ってしまった。それから間は己の刀を拾って治めるとそのうえで二人で姿を消した。その後の騒動は二人の知ることではなかった。
 仕事が終わった次の日。間は旅館を後にしようとするが相模はそのまま残っていた。
「本当に残るんだな」
「奈良で遊びたいですから」
 旅館の部屋で洒落た服に着替えながら間に答える相模だった。
「そういうことで」
「何日で帰ってくるつもりだ?」
「三日ですかね」
 少し考えてから答えた相模だった。
「多分」
「多分か」
「一週間もかからないですよ」
「一週間も開けるのは流石にどうかと思うがな」
 一週間と聞いては流石に間も顔を顰めさざるを得なかった。
「流石にそれはな」
「そこまではないですから」
「だといいがな」
「それじゃそういうことで」
 相模は能天気な笑みを浮かべながら宿の部屋を出ようとする。畳の部屋には相模の荷物が置かれたままになっていた。
「行って来ます」
「報酬は普段通りでいいな」
「はい、それで御願いしますっていうか」
 ここで話を変えてきた相模だった。
「そうしてもらわないと困りますから」
「いっそのこと事務所の机の中に現金で置いておこうか?」
「だったら京都に戻らないといけないじゃないですか」
「戻ったらどうだ?」
 かなり冷淡な間の言葉だった。
「いっそのこと」
「じゃあ何の為に仕事やったんですか」
 こう言って口を尖らせる相模だった。
「遊ぶ為じゃないんですか?」
「一度そういう考えをなおした方がいいのではないかと思うがな」
「まあそれは言わない約束で」
 それは聞くつもりはない相模だった。
「じゃあお金のことは御願いしますね」
「ああ、わかった」
 渋々ながら頷く間だった。
「じゃあ早いうちに帰って来るようにな」
「さもないと役さんとこの事務所に仕事を持って行かれますしね」
「今あの二人はフランスに行っているがな」
「フランスですか」
「だから暫くはいないがな」
 こう相模に述べた。
「それでもだ」
「わかりました。じゃあ早いうちに帰りますんで」
「そういうことでな」
 こう言い合って別れる二人だった。相模は奈良の街に出て間は京都に帰る。謎は解けて今はそれぞれ晴れやかな気持ちの二人は今は休息に入るのだった。戦いの後の休息に。


女人画   完


                  2008・12・30
 
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