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女人画

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12部分:第十二章


第十二章

「鬼!?」
「まさか」
「そのまさかじゃよ」
 不気味な笑みのまま述べた言葉であった。
「本物の鬼じゃよ。これは」
「そうか。絵で何でも出せるんだな」
 相模はすぐにそう察したのだった。
「あんたは」
「如何にも」
 そして画伯自身もそのことを認めるのだった。
「その通りじゃよ。わしは何でも描き出せるのじゃよ」
「悪魔にでも魂を売ったのか」
 間は何故画伯がそうしたものを描けるのかを予想したのだった。間はそうなった理由を考えているのであった。
「それとも」
「この筆は特別じゃ」
 筆を右手に持ったままの画伯の言葉である。
「これはのう」
「筆か」
「数百年を経て生を得た筆」
 画伯は言う。
「わしはこれに巡り合い今に至った」
「ああ、そういうことか」
 相模はその言葉を聞いて画伯が何故今に至ったのかをわかった。
「あんたはその筆をどっかで手に入れてそれで天才って言われるようになったんだな」
「偶然街の片隅で不気味な老婆に売られていたこの筆をのう」
「老婆!?」
「高田とかいったのう」
 不意にこうした名前が出て来た。
「その老婆から安く買ったのじゃよ。まだ若かったわしはな」
 彼は語るのだった。
「この筆は美女を描けばそれだけ力を増す」
「美女!?」
「じゃああんたのあの絵は」
「あの絵も見たのか」
 それを聞いても驚いた様子も悪びれた様子も二人に対して見せはしなかった。
「美女達の絵も」
「そっちのお嬢様もいたな」
 相模はちらりと早百合を見て述べた。早百合は相変わらずまるで人形になってしまったかのようにそこで動きはしない。完全に沈黙したままである。
「一人でに描かれていたっけな」
「わしが絵を描けばあそこにも描かれる」
 画伯はこう述べた。
「そしてじゃ。完全に描き終わったその時に」
「あの絵に取り込まれてか」
「左様。この筆の力となる」
 そういうことであった。
「そしてわしのな」
「どうやらあんたも知っててやってるみたいだな」
 相模の声が不意に強いものになった。
「どうやらな」
「それがどうしたのじゃ?」
「まだあんたが筆に完全に取り込まれているならよかったんだ」
「その通りだ」
 間も画伯に対して言ってきた。
「そうなら筆を折れば済むだけだ」
「けれどあんたは今わしの、と言った」
 二人が注視したのはそこであった。筆の力になるだけではなく自分の力にもなると言った。二人が見たのはそこなのである。
「そこだな。あんたは筆と一体化しちまっている」
「それならばこちらも容赦することはない」
「ふむ」
 画伯は二人の言葉をまずは落ち着いて聞いた。だからといってその怪しい気配を消してはいないが。
「言いたいことはそれだけか」
「ああ、それだけさ」
「悪いが倒させてもらう」
 二人はまた言った。
「今ここでな」
「覚悟してもらう」
「わしを倒すというのか」
 画伯は二人の今の言葉を聞いてまた述べたのだった。
「このわしを」
「さっき言った通りさ」
「こちらもその為に」
 二人はここでそれぞれ何かを出してきた。それは日本刀であった。
「こうしたものを用意してきたんでな」
「只の刀ではない」
 間はその刀を両手で構えながら画伯に対して述べた。
「退魔の剣だ」
「退魔か」
「その通りだ。これでその命、絶たせてもらう」
「あんたのその邪悪になっちまった命をな」
「さらに面白いのう」
 画伯は二人のその言葉を聞いても邪悪な笑みを消さなかった。消さないどころかその寂差をさらに高めさせ哄笑さえしているのであった。
「そこまで自信に満ちてわしを倒すとはのう」
「間さん」
 相模がここで一歩前に出て間に声をかけてきた。
「俺が鬼を引き受けますんで」
「君がか」
「間さんは画伯を御願いしますね」
「わかった」
「これで終わりってわけじゃないでしょうけれどね」
「それはわかっている」
 静かに答える間だった。
「それはな」
「鬼を倒せば俺もすぐに行きますんで」
「頼むぞ」
 今度は真剣な顔で答える間だった。
「それはな」
「ええ。そういうことで」
「覚悟するのは主等じゃ」
 画伯はあらためて二人に告げてきたのだった。
「それはのう」
「またその絵で何かを出してくるつもりか」
「如何にも」
 それが彼の考えであった。
「その通りじゃよ」
 その言葉が終わるか終わらないかのうちに早速また出してきた。今度は土蜘蛛であった。
 
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