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真田十勇士

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巻ノ十三 豆腐屋の娘その十三

「御主達を集めたのじゃ」
「徳川家と戦い真田家を守る」
「その為に」
「そうじゃ、まさか十人も集まるとはな」
 この言葉は微笑んで出したものだった、それも心から。
「まことに有り難い、では大坂を見た後は上田に戻るが」
「さらに西には行かれませぬか」
 猿飛が問うた。
「大坂からは」
「そこまでは考えておらぬ」
 幸村は猿飛にこう答えた。
「大坂を見てじゃ」
「そして、ですか」
「帰るとしよう」
「そうされますか」
「うむ、大坂から淀川を上って都に戻ってな」
 そしてというのだ。
「そこから道を戻るか」
「そうされますか」
「それがよいか、いや」
 ここでだ、幸村は言った。
「我等は信濃にいる、だから歩く道しか知らぬが」
「そこを、ですか」
「さらにですか」
「川や海の道を知るべきか」
 こうも思い言うのだった。
「そうも思うが」
「だから淀川をですな」
「帰りは使われるのでは」
「違うのでしょうか」
「それもそうじゃな、実は堺も行ってな」
 そしてというのだ。
「そこから海で紀伊を回って伊勢か尾張にと考えておったが」
「その道もよいかと」
 根津jは幸村のその考えに頷いて賛成の意を示した。
「それがしもあの道を使ったことがありますが」
「その道のことを知ることもじゃな」
「よいかと」
「甚八はそう思うか」
「はい、信濃は海がなく歩いてばかりだと思いますが」
「その通りじゃ」
「しかし海や川の道もまた道で」
 だからだというのだ。
「使われるべきだと思います」
「左様か」
「ですから一考されては」
「少なくとも堺に行かれることはよいことかと」
 伊佐は堺に行くという幸村の今の考えに賛成の意を示した。
「あの町に行くことも見聞を広めることになります」
「凄い賑わいと聞く」
「都よりも様々な者がおりますし」
「それもあってか」
「はい、堺の商人達も御覧になられてはどうでしょうか」
「あそこの町衆はかなりのものですぞ」
 清海も言って来た。
「それがしもあそこで遊んだことがありますが」
「どうせまた酒を飲み過ぎて暴れたのであろう」
 望月がその眉を顰めさせて清海に言った。
「御主のことじゃからな」
「そこでそう言うか」
「違うか」
「それはその通りじゃが」
 ここで嘘を言わないのが清海だ、正直ではあるのだ。
「しかしそれだけではないぞ」
「ちゃんと堺を見てきたのじゃな」
「そうじゃ、それで言うのじゃ」
「あの町も見ておくべきか」
「左様じゃ」
「わかった、海の道を使うかどうかはわからぬが」
 それでもとだ、幸村はここでまた言った。
「堺には行こう」
「ですか、では大坂の後は堺ですな」
「あの町に行くのですか」
「そうするとしよう」
 家臣達にも言う、こうして幸村一行は大坂だけでなく堺にも行くことになった。一行の旅はここでさらに長いものになることが決まった。


巻ノ十三   完


                         2015・7・2 
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