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遊戯王GX 〜プロデュエリストの歩き方〜

作者:ざびー
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エピソード38 〜試練その2〜

 先輩である叢雲 翠に見送られ、デュエルアカデミアを去ったあの日から、早くも数週間。しかし、どんな運命の巡り合わせか、デュエルアカデミア ノース校に居た。
 そして、そこで待ち受けていたのはノース校の全生徒50人とのデュエル。万丈目は50人抜きという大挙を成し遂げると一年生ながもノース校のトップへと君臨したのだった。

 回想終わり、と一つため息を吐くと用意しておいた飲み物を口にし、椅子へと腰掛ける。

「今思い返せば、中々波乱万丈な出来事だったな」

 書籍化でもするかーなどと頭の片隅で考えつつ、今から何をしようかと予定を組み立てて行く。
 すでにお昼は過ぎているが何かするにしても遅くはない。とりあえず引きこもってばかりいないで外に出るかと思い立ち、扉を開けた途端、外に広がる惨状に唖然とする。

「な、なん、だ……これは⁉︎」

 地面に倒れ伏す者、建物の壁に頭から突き刺さっている者、山積みとなり屍の山を築いている者達。死屍累々の惨状の要因となっている彼らの共通点は全員ノース校の制服を着ている事だ。そして、そんな環境に不釣合いな、純白のドレスを着込んだ女性がただ一人立っていた。

「なっ……⁉︎」

 一体どんなバイオで、ハザードな事件が⁉︎などと混乱する思考もあの女性が万丈目の存在に気付き、向けられた笑顔によって停止させられる。

 此方に気づき、笑顔を向けているのは、透き通るような銀糸を持った女性だった。
 丸みを帯びなからも、それを感じさせないほどのプロポーションを有し、快活なようでどこか甘さを漂わせる、男が描く理想の女性像に思わず目を奪われる。しかし、それよりも注目させたのが、その左腕に装着された決闘盤である。
 純白を基調したドレスにその漆黒の色は存在感を放つと共に彼女がプロデュエリストであることを証明している。

 そして、デュエリスト多しと言えども、白いドレスに、銀髪、美少女のプロデュエリストと言えば、万丈目は一人しか知らない。

「み、帝、光……⁉︎」
「お?やっぱり、万丈目くんだね?」

 なんか雰囲気変わってない?と友人に話しかけるような調子で話しかけてくる光プロ。しかし、万丈目自身、彼女とそんな間柄になったところが、一度も会話したことはないはず。

 なら、なぜ?と疑問を抱くと共にあの透き通るような笑顔に既視感を感じる。

「まさか……、翠先輩……なのか?」

アカデミアを去ったあの日、力強い言葉と共に自分を送り出してくれたあの先輩がプロデュエリストとして目の前に現れ、目に見えて動揺する。

『お、よかったね〜、ちゃんと気づいてもらえて〜』
「そりゃあそうでしょ。これでも、容姿には、自信ありますから」

そして、動揺しているのも束の間、凜とした声音を響かせ、現れた女性に驚嘆させられる。そして声の主に対し、豊満な胸を張り、自信ありげに答える翠。
半ば呆然としながら、二人のやり取りを眺めているとまたしても不意に声がかけられる。

『兄貴ー、あれってば精霊じゃないの〜?』
「あ、あぁ……完全に『アテナ』だな……」

万丈目がアカデミアを去ってから増えた仲間である『おジャマ・イエロー』はカードから抜け出すとふわふわと万丈目の周りを浮遊し始める。
そして、翠も『おジャマ・イエロー』の存在に気がついたのか見つけるなり目を丸くしてそれを見つめる。

「へぇ〜、万丈目くんも視える(・・・)んだね?」
「えぇ、まあ。俺自身、視えた時は頭がおかしくなったと思いましたよ……」

横目で『おジャマ・イエロー』を見つつ、皮肉を込めて口にすると、『あらやだぁ、頭が可笑しいのは、初めからじゃない』などと小馬鹿にしたような返答が速攻で返ってきて、捕まえ、ギリギリと片手で締め上げる。例え、無駄だとわかっていても。
ポフンと煙を立てて、消えたのを確認するとようやく本題を切り出す。
すなわち、

ーーなぜあなたが此処にいるのか?

「その質問にはわたしが答えよう!」

冴えない親父……、ではなく、此処の校長である一之瀬が現れ、光 プロでもある翠に一礼をし、淡々と理由を語っていく。
つまり、親善決闘は学校対抗ではなく、タッグデュエルとなり、より強大な敵と闘う。

「強大な敵って……」
「ふふん、ズバリーー」

そう疑問を口にした万丈目をズビシと効果音がつきそうな勢いで指差し、自信ありげな表情を浮かべる翠。

「ーー私の弟でもあり、プロデュエリストの、望月 シオンだ!」
「なっ!?」

その人名を耳にした途端、万丈目に衝撃が走る。望月シオンと言えば、デュエリストなら誰もが知っている名前であり、DDやDr.コレクター、帝 光と並ぶトップランカーである。
そして、叢雲 翠の弟、叢雲 紫苑と言えば、入学早々万丈目をワンターンキルした奴である。
翠は万丈目のリアクションに納得がいったのかふふんと楽しげに笑うと、さらに説明を補足していく。

「ついでに万丈目くんがタッグを組むのは本校の方の代表生徒、十代くんだよ」
「っ!十代だと!」

またしても因縁のある人物に驚愕する。
偶然通り越して、もはや運命だななどと柄にもなく思ってしまう。それと同時に遊城 十代と組むのも悪くないと考える万丈目がそこにいた。そして、何よりトップランカーとデュエルできるまたとない機会である事に、万丈目は歓喜し隠しきれない喜びが表情に出る。

「ふふっ、嬉しそうだね〜」
「当たり前だ。前回はワンキルされたが、今の俺は昔とは違うという事を見せてやれるチャンスだ。それに、十代と組まされるのは多少不服だが、あいつなら俺様の足手まといにならないのは確かだしな。これのどこに喜ばない要素があるっ!」

ニヤニヤとしている翠に対し、万丈目は獰猛な笑みを浮かべ、それに答える。
そして、万丈目の言葉を翠は薄っすらと笑みを浮かべるとーー

「万丈目くん、デュエルしようか」
「…………なっ⁉︎」

考えもしなかった発言に万丈目は口を開いたままに硬直する。

「な、じゃねぇし。普通にデュエルしよ?っているんですけど。そもそも、デュエリストたる者、『おい、デュエルしろよ』の一言、二言でデュエルを始める意気込みを持てって習わなかった?」

おーい、と声をかけつつ目の前で手を振る翠。
ハッと万丈目が我に返った時、ちょうど鼻が触れ合うほどの位置におり、頬を染めつつも咄嗟に距離をとる。

「べ、別にしたくないわけじゃないが。……いいのか?」

万丈目が心配するのは、翠の立場に関してである万が一でも万丈目が勝てばそれはそれでも色々と問題になるのだが、翠はむしろ挑発的な表情を浮かべる。

「ふ〜ん、私って後輩に心配されるほど弱っちくはないけどな〜?それとも〜、万丈目が凄〜く強くなって私を負かすのかな?」

挑発めいた発言に流石の万丈目もムッと表情を曇らせる。

「いいだろう。それなら、パワーアップした俺の力を見せてやる!」
「うん、そのいきだね!というわけで、『決闘(デュエル)』!」

万丈目:LP4000
翠:LP4000

「私の先行、ドロー!手札から『魔導騎士 ディフェンダー』を守備表示で召喚ッ!」
「ま、魔法使い族だとっ⁉︎」

天使族のエキスパートとして知られる帝 光が魔法使い族を使ったら、驚かないわけがない。
万丈目もどういう事だ!と声を荒げる。

「確かに私は、天使族をよく使ってるけど他も使えないわけじゃない。それに、私はいつも全力だよ?」

不敵な笑みを見せる翠だが、要するに本気でない私を倒せないなら紫苑には束になってかかっても無理だ、と言っているのだ。そして、万丈目はその意図を汲むとより一層瞳に闘志を滾らせる。

「ふふ、その調子。私は召喚に成功したディフェンダーの効果により自身に魔力カウンターを一つ置く。さらに、カードを二枚伏せターンエンドだよ」
「俺のターン、ドロー!『仮面竜』を守備表示で召喚する!」
『うーん、なんかイマイチ、パッとしないわね〜』

両者共に守備モンスターを並べ、些か派手さに欠ける展開に翠の精霊であるアテナが愚痴を漏らす。翠は苦笑すると、万丈目に先を促す。

「カードを一枚伏せターンエンドだ」
「私のターン!ディフェンダーを攻撃表示に変更し、バトル!ディフェンダーで『仮面竜』を攻撃!」

ディフェンダーの持つ大盾の一撃は仮面竜の装甲をいとも簡単に砕き、粉砕する。しかし、破壊されることでその役割を果たすリクルーター。仮面竜の断末魔の叫びは、新たなドラゴンを万丈目のフィールドへと呼ぶ。

「『仮面竜』の効果により、デッキから攻撃力1500以下のドラゴンを特殊召喚する!来い、『アームド・ドラゴンLV3』!」
「よし、来た!」

召喚されたモンスターを見た一之瀬校長は小さくガッツポーズをする。同時に、翠はこれこそがこの学校に伝わる伝説のカード『アームド・ドラゴン』である事を理解する。
ステータス自体は低いものの、レベルとは別のLVを持ったこのモンスター達は特殊な条件を満たす事でLVアップを果たし、強力な効果を得るようになる。

翠は召喚された『アームド・ドラゴン』を見るとニタリと笑みを浮かべる。

「私は手札から『魅惑の女王(アリュール・クイーン) LV3』、召喚!」
「なっ⁉︎LVモンスターだとっ‼︎」

『魅惑の女王 LV3』
☆3 ATK500

万丈目操る『アームド・ドラゴン』とは別のLVモンスター。
幼いながらも、美しくそして蠱惑な雰囲気を醸し出している少女はアームド・ドラゴンに投げキッスを送る。

「『魅惑の女王 LV3』の効果!相手フィールド上のレベル3以下のモンスター一体をこのカードに装備する!チャーム・マジック!」
「なっ⁉︎」

魅力され、目をハートに変えたアームド・ドラゴンは魅惑の女王の下まで来ると猫のようにゴロゴロと喉を鳴らし、甘える。名前からは想像できないアームド・ドラゴンの様子に流石の万丈目も絶句する。

「驚いたかな?ノース校に居るって聞いてきっと『アームド・ドラゴン』を使ってると思って私も同じLVモンスターデッキを組んでみたけど……?」
「えぇ、してやられた。だが、まだデュエルは始まったばっかだ!」

落胆していると思いきや、威勢のいい返事が返ってきて事に翠はほくそ笑む。

「いいねぇ、その熱さ。私はこれでターンエンドだよ」


LP4000
魔法・罠伏せ二枚
『アームド・ドラゴンLV3』

『魔導騎士ディフェンダー』
『魅惑の女王LV3』

「いくぞ、俺のターン!リバースカードオープン!『小人のいたずら』!このターン、互いの手札のモンスターのレベルを一つ下げる。そして、俺はレベル4となった『アームド・ドラゴンLV5』を召喚!」

幼体であるアームド・ドラゴンLV3が成長した姿、アームド・ドラゴンLV5は現れるや否や、翠と魅惑の女王へと注視する。おそらく、魅惑の女王に戯れるアームド・ドラゴンに嫉妬しているのだが、そんな事は万丈目は知らない。

「俺は『アームド・ドラゴンLV5』の効果発動する。手札の『ランス・リンドブルム』を墓地に送り、そのモンスターの攻撃力以下のモンスター一体を破壊する!」

『ランス・リンドブルム』の攻撃力は1800。ディフェンダー、魅惑の女王共に効果範囲内だ。

「俺は『魅惑の女王』を選択!喰らえ、デストロイ・パイル!」

魅惑の女王とそれに従うアームド・ドラゴン共々破壊せんとアームド・ドラゴンが体中から生えたトゲを射出する。しかしーー

「ディフェンダーの効果発動!魔力カウンターを一つ取り除き、魅惑の女王の破壊を無効にする!」

ディフェンダーの魔力障壁によって、魅惑の女王の破壊を防ぐ。

「ならば、バトルだ!『アームド・ドラゴンLV5』でディフェンダーを攻撃する!アームド・バスター!」
「くっ!」

翠:LP4000→3100

強靭に進化したアームド・ドラゴンの豪腕が振り下ろされ、ディフェンダーを粉砕する。
格上の相手に先制ダメージを与えた為か少し表情を綻ばせる万丈目。

「俺はカードを伏せる。そして、このエンドフェイズ時、『アームド・ドラゴン』は進化条件を満たした事でレベルアップする!来い、『アームド・ドラゴンLV7』‼︎」
「ほぉ〜〜」

光に包まれたアームド・ドラゴンLV5は雄々しい咆哮と共に纏う光を散らし、進化した姿を晒す。翠は進化した事で増えた武装と巨大化したアームド・ドラゴンの姿を見上げ、感嘆の声を漏らす。

「……やるじゃない」

鮮やかにアームド・ドラゴンを進化させた手腕に万丈目の成長を認める翠。だが、万丈目は翠のやる気の炎に油を注いだ事になったのを知らない。

「私のターン、ドローッ!そして、このスタンバイフェイズ時、私の『魅惑の女王』も進化するよ!」

翠の宣告と共に『魅惑の女王』は光へと包まれ、そのシルエットを変えていく。
そして、光が晴れ全貌を見せた魅惑の女王は幼さを色気に変え、より成熟した大人へと成長していた。

「成長した『魅惑の女王』はレベル5までのモンスターを従える事ができる」
「っ!だが、俺のフィールドにはレベル7のアームド・ドラゴンLV7のみ……、なにっ⁉︎」

アームド・ドラゴンのレベルを示す星が急に二つ消えた事に驚く。どうやら、奪った犯人は赤い猫又のようである。

「妖怪のせい妖怪のせいですってね。私はリバースカード『妖怪のいたずら』を発動し、その効果でフィールド上のモンスターのレベルを二つ下げたんだよ」

つまり、アームド・ドラゴンLV7はレベル5に格下げされ、魅惑の女王の効果範囲内となったとのである。そして、早くも魅惑の女王に誘惑されたアームド・ドラゴンは目をハートへと変え、翠のフィールドまでフラフラとやってきてしまう。

「『アームド・ドラゴンLV7』を『魅惑の女王』に装備する!」

アームド・ドラゴンの肩に担がれた魅惑の女王は下から唖然とした状態で見上げてくる万丈目を見下ろし、勝ち誇った表情を浮かべる。そして、翠もドヤ顔を浮かべる。

「手札から『魔導戦士 ブレイカー』を召喚し、効果発動!自身に魔力カウンターを一つ置く。そして、ブレイカーは魔力カウンター一つにつき、攻撃力を300ポイントアップさせるよ」

『魔導戦士 ブレイカー』
☆4 ATK1600→1900

ブレイカーの持つ剣に埋め込まれた宝玉に緑光が宿る。
主力級のモンスターを奪われた万丈目のフィールドには、モンスターは居らず伏せカード二枚のみとやや危うい状態である。
幸いにも二体ともの直接攻撃を受けたとしてもライフは残るが、それでも致命的なダメージである事には変わりない。
万丈目は、冷や汗を一筋垂らし、戦況を伺う。

「私はブレイカーの魔力カウンターを一つ取り除き、効果発動!伏せカード一枚を破壊する!魔導剣!」
「ちっ……」

魔力を込められた斬撃は伏せられた二枚の内、片方を切り裂き破壊する。

「バトル!ブレイカーでダイレクトアタック!」

「させるか!『ガード・ブロック』発動!」

「なら、『魅惑の女王』で攻撃!」
「ぐぅ……」

万丈目:LP4000→3000

ブレイカーの一撃もガード・ブロックの障壁によって防がれる。しかし、続く『魅惑の女王』の攻撃は防げず、錫杖による打撃を叩き込まれ、ライフ差を逆転される。しかし、それでも強気の姿勢を崩す事のない万丈目に翠は感心する。

(なるほど、腕前だけじゃなくてメンタルも逞しくなったわけか……)

これは中々愉しいデュエルを提供できそうだ、と密かに笑みを浮かべるとデュエルを続行する。

「私はこれでターンエンド。さぁ、エースを奪われて万丈目君はどうするのかな〜?」
「くっ……!」

翠はニヤニヤと笑みを浮かべながら万丈目を煽るとターンの終わりを告げる。



LP3100
魔法・罠伏せ一枚
『アームド・ドラゴンLV7』

『魅惑の女王LV5』
『魔導戦士 ブレイカー』


「俺のターン、ドロー!魔法カード『天使の施し』発動!三枚ドローし、二枚捨てる。そして、手札から魔法カード『竜の霊廟』を発動する!デッキから『ダークストーム・ドラゴン』を墓地に送る。さらに墓地に送ったのが通常モンスターの時、さらにもう一枚ドラゴン族モンスターを墓地に送ることができる。俺は『ダークフレア・ドラゴン』を墓地に送る」

次々と手札を入れ替え、デッキを圧縮する万丈目。何をする気か?と訝しげな視線を送っていると、ドラゴンのものと思われる咆哮と共に光が奔る。

「おれは墓地の闇属性と光属性モンスターを除外し、特殊召喚する!来い『ライトパルサー・ドラゴン』‼︎」

『ライトパルサー・ドラゴン』
☆6 ATK2500

降り注ぐ閃光と共に白い体躯のドラゴンが翼を羽ばたかせ、フィールドへと降り立った。
先のターンのアームド・ドラゴンといい、今のライトパルサーといい、上級モンスターの連続召喚に翠は舌を巻く。

「バトルだ!ライトパルサー・ドラゴンで魅惑の女王を攻撃する!」

ライトパルサーが魅惑の女王へ向け、光のブレスを放つ。

魅惑の女王には、装備カードとなっているモンスターを墓地に送る事で戦闘破壊を無効にする効果がある。しかし、それを使えば次のターン、魅惑の女王の進化条件を満たせずもう一ターン待たなくてはいけなくなる。
それを知ってか知らずか、万丈目は魅惑の女王を狙う。だが、当選翠も防ぐ術を用意しており、

「リバースカードオープン『強制終了』!ブレイカーをコストにバトルフェイズを終了させる!」
「くっ、届かないか!」

両者を隔てるように発生した障壁がライトパルサーの攻撃を阻む。
悔しそうに舌打ちをすると、万丈目はモンスターを伏せ、ターンを終えた。

万丈目
LP3000
魔法・罠無し
場:伏せ一体
『ライトパルサー・ドラゴン』

「私のターン、ドロー!私は『魅惑の女王LV5』と装備カードの『アームド・ドラゴンLV7』を墓地に送り、レベルアップ!来い、『魅惑の女王LV7』‼︎」

『魅惑の女王 LV7』
☆7 ATK1500

遂に最終段階まで成長した女王。その色香は以前の比でなく、早くライトパルサー・ドラゴンは篭絡され、女王の下へと赴こうとしている。

「私は『魅惑の女王LV7』の効果で『ライトパルサー・ドラゴン』を自身に装備させる。さぁ、おいで〜」

パチリとウィンク一つ。
それだけで、ライトパルサー・ドラゴンは尻尾を振りながら魅惑の女王に擦り寄り甘える。そして、伏せをさせられたライトパルサーの胴体に、ソファに凭れるかのように寛ぐと万丈目に優しく微笑みかける女王様。
主力級のモンスターを次々と召喚してみせる万丈目だが、翠はそれを搦め手を持ってして対処していく。柔よく剛を制するとはよく言ったものである。もっとも反撃の芽を尽く潰されている万丈目には堪ったものではなく、顰めっ面で翠と裏切り者(ライトパルサー)を睨んでいる。

「あはは、パワーだけじゃ格上には勝てないよ?」

万丈目の睨みなどなんのその、カラカラと笑い飛ばす翠。ひとしきり、笑うとコホンと咳払いを一つし、真面目な表情を作る。

「さて、私ようやく女王(クイーン)を出せたし、ここからが本番だよ!手札から『ジェスター・コンフィ』を特殊召喚!そして『ジェスター・コンフィ』を生贄に、『ブリザード・プリンセス』を召喚ッ‼︎」
「ッッッ⁉︎」

『ブリザード・プリンセス』
☆8 ATK2800

そのモンスターの召喚と共に吹雪が吹き荒れる。万丈目は伏せておいたカードを発動しようと試みるも叶わず、気づけばカードはカチコチに凍りついていた。

「『ブリザード・プリンセス』を召喚したターン、相手は魔法・罠カードを発動できない。なんか発動しようとしてたみたいだけど、残念だったね〜」

翠はニヤニヤとしながら、悔しそうに顔を歪める万丈目をみる。

「さて、バトルだ!魅惑の女王で伏せモンスターを攻撃!」
「破壊されたのは『仮面竜』だ!デッキから3体目の『仮面竜』を特殊召喚する!」

「しつこいっ!『ブリザード・プリンセス』で攻撃!」
「俺は『アームド・ドラゴンLV3』を特殊召喚する!」

再びアームド・ドラゴンLV3が現れる。

「ぐぬぬ……、カードを一枚伏せターンエンドだよ」


LP3100
魔法・罠伏せ一枚
『強制終了』
『ライトパルサー・ドラゴン』

『ブリザード・プリンセス』
『魅惑の女王LV7』


「俺のターン、ドロー!このスタンバイフェイズ、『アームド・ドラゴンLV3』を墓地へと送り、『アームド・ドラゴンLV5』を特殊召喚する!来い、アームド・ドラゴン!そして、アームド・ドラゴンの効果発動!手札から『ドレッド・ドラゴン』を墓地に送り、『魅惑の女王LV7』を破壊する!デストロイ・パイル!」
「ワンパターンなんだよねぇ!『ガガガ・シールド』発動!『魅惑の女王』に装備する!」

トゲが全弾射出され、女王を狙う。だがしかし、"我"とデカデカと描かれた朱色の大盾によって防がれる。

「『ガガガ・シールド』は一ターンに2度まで装備モンスターの破壊を無効にできる!」

あと二回女王を破壊しなければならず、さらには魅惑の女王自体、装備しているモンスターを墓地に送ることで、戦闘破壊を無効にできるため多いと三度破壊しなければならなくなる。

「なら、これでどうだ!魔法カード『レベルアップ!』発動!『アームド・ドラゴンLV5』を墓地に送り、『アームド・ドラゴンLV7』を召喚条件を無視し特殊召喚する!進化せよ、アームド・ドラゴンッ!」

一度目は魅惑の女王に寝取られたアームド・ドラゴンLV7が再び召喚される。

「そして、『アームド・ドラゴンLV7』の効果発動!手札から『ラビー・ドラゴン』を墓地に送り、効果発動!墓地に送ったモンスターの攻撃力以下の相手モンスターを全て破壊する!」

『ラビー・ドラゴン』の攻撃力は2900。とどのつまり、『ブリザード・プリンセス』も『魅惑の女王』も破壊対象となる。

「喰らえ、ジェノサイド・カッター‼︎」

アームド・ドラゴンが高速回転をする刃を放つ。魅惑のは盾で辛うじて防ぐも、ブリザード・プリンセスは防げず真っ二つにされ破壊される。

「これで最後だ!『スタンビング・クラッシュ』発動!『強制終了』を破壊し、さらに500ポイントのダメージを与える!」
「このっ!」

翠:LP3100→2600

「これであんたを守るものはなくなった!バトルだ!『アームド・ドラゴンLV7』で『魅惑の女王LV7』を攻撃!」
「『魅惑の女王』の効果発動!ライトパルサーを破壊し、戦闘破壊を無効にするよ!」

ライトパルサーが女王の盾となり、アームド・ドラゴンの一撃を受け止める。

「っ!だが、ダメージは通る!」
「くぅぅぅ!」

翠:LP2600→1300

「そしてこの瞬間、『ライトパルサー・ドラゴン』の真価が発揮される‼︎」
「えっ⁉︎」

翠の戸惑いを他所に、突如竜の咆哮が響きわたる。

「『ライトパルサー・ドラゴン』の効果により、墓地から『ダークストーム・ドラゴン』を特殊召喚する!勝利の旋風を巻き起こせ、『ダークストーム・ドラゴン』!」

『ダークストーム・ドラゴン』
☆8 ATK2700

この最終局面に新たなドラゴンを呼び出され、堪ったものでない‼︎と翠は内心で愚痴る。

「バトルだ!『ダークストーム・ドラゴン』で魅惑の女王を攻撃!ダークネス・ストームッ!」
「ッウ⁉︎」

翠:LP1300→100

ライフ100を残し、ギリギリで踏みとどまった翠はその危うさから冷や汗を浮かべる。

「俺はこれでターンエンドだ」


万丈目
LP3000
魔法・罠伏せ一枚

『アームド・ドラゴンLV7』
『ダークストーム・ドラゴン』


「く、くくくっ……ふ、ふふ……あはははっ‼︎」
「な、なんだ⁉︎」

自分のターンを迎え、急にお腹を抱え笑い出す翠に対し、困惑した表情の万丈目。

「いや、なんかね。やっぱ、楽しいな〜って思ってね」

目尻に浮かんだ涙を払いつつ、そう答える翠は万丈目から見ても嬉しそうな表情を浮かべている。だが、同時に理解ができないと思う。
追い詰められているのに、何が楽しいのか、と。

「わかんないかな〜?逆転に次ぐ逆転のギリギリの戦いとかすっごく、燃えるじゃん!」
「だ、だが、流石にこのライフ差は覆せないだろ!」

焦ったように叫ふが、その言葉を聞くなり翠はニヤリと笑みを浮かべる。
まるで、覆してやろう、と言っているかのように。

「私のターン……ドローッ‼︎」

ドローに合わせ、豪ッと翠を中心に強い風が吹く。そして、翠は手札を見るなり万丈目に告げる。

「このターン、終わらせる‼︎」
「なにっ⁉︎」

翠の勝利宣言に万丈目は驚嘆する。

「魔法カード『フォトン・サンクチュアリィ』発動!私はフィールドに二体の『フォトン・トークン』を特殊召喚する」

煌々と光を発する球体が翠の目の前へと浮かぶ。
『フォトン・サンクチュアリィ』はトークンの召喚と引き換えに、発動ターンは光属性モンスター以外のあらゆる召喚ができなくなるデメリットがある反面、トークンを生贄にすれば光属性モンスターなら最上級モンスターを召喚する事も可能。

「私は二体の『フォトン・トークン』を生贄にーーー」
「な、何が来るっ⁉︎」

光球が激しく明滅し、辺りを眩しく照らす。そして、排反する影と光が混じり合い、一体のドラゴンを形作る。

「出でよ、『光と闇の竜(ライトアンドダークネス・ドラゴン)』‼︎」

『光と闇の竜』
☆8 ATK2800

神秘的な雰囲気を纏う黒白(こくびゃく)のドラゴンが翠のフィールドへと降り立ち、万丈目を威圧する。

「このっ!させるか!リバースカードオープン『奈落の落とし穴』!これで、そいつは破壊だ!」
「無駄ぁ!『光と闇の竜』の効果発動!自身の攻撃力、守備力共に500ポイント下げ、効果を無効にし破壊する!」

『光と闇の竜』
ATK2800→2300 DEF2400→1900

黒い穴が開き、光と闇の竜を呑み込もうとするとその威光を持って掻き消される。

「防がれはしたが、攻撃力が下がれば戦闘で俺のドラゴンは破壊できまい!」
「それは、どうかな!バトル!『光と闇の竜』でアームド・ドラゴンを攻撃!」

万丈目の予想に反し、特攻を仕掛ける翠。だが、当然アームド・ドラゴンのが攻撃力は高く、結果は目に見えて明らかだ。

(それなのに、なんだこの不安わ……!)

「手札から『オネスト』の効果発動!相手モンスターの攻撃力を『光と闇の竜』に上乗せする!」
「っ!だが、そいつの無効効果は強制なんじゃないのか!」

万丈目の言う通り、任意効果ではなく強制効果。
しかし、翠は自信ありげな表情で最後の一枚を切る。

「チェーンして、速攻魔法『禁じられた聖杯』発動!『光と闇の竜』の効果を無効にし、攻撃力を400ポイントアップする!そして、『オネスト』の効果は無効にされず発動する!」
「なっ⁉︎」

『光と闇の竜』
ATK2300→2800→3200→6000


光と闇の竜は他者を圧倒するオーラを身に纏い、アームド・ドラゴンを鋭く睨みつける。


「さぁ、トドメだ!『光と闇の竜』でアームド・ドラゴンを攻撃!シャイニング・ブレスッ‼︎」

万丈目:LP3000→0

オネストの支援を受け、力を極大化した一撃はアームド・ドラゴンを呑み込み、跡形もなく消滅させる。そして、二人の決闘に終幕を下ろす。


◇◆◇

「くそ……、あと少しで!」


残りライフ3000と100からの大逆転勝利。
万丈目自身、爪が甘かったとは思ってはいない。それが、余計に万丈目を悔しがらせる。

「ふふ、楽しかったよ」

顔を上げれば、心の底から楽しそうな笑みを浮かべる翠がいた。そして、目線を合わせ、真摯な眼差しを万丈目へと向け、

「君は強くなった。けどね、君はもっと強くなれる筈……、だからコレが君の力になってくれると嬉しいな」

翠はデッキからカードを一枚抜くと、万丈目に渡す。

「これって……」

「ふふ、ラッキカード。光と闇の竜がきっと君の力になってくれる筈だから。そして、いつしか私や紫苑を上回るデュエリストになったら返しに来てね?」

「翠、先輩……」
「じゃあ、親善試合楽しみにしてるよ」

楽しみが増えた、とデュエルを始める前とは違う晴々とした表情で、翠はノース校を後にする。

 
 

 
後書き
次回、親善デュエル!……多分 
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