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迷子の果てに何を見る

作者:ユキアン
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第六十四話

 
前書き
僕が僕で無くなり
僕がオレになり
オレは消え失せる。
by零樹 

 
麻帆良武道大会 準決勝 前編

side レイト


「あ~っ、これが反抗期って奴なのかね。まさか自分の娘にここまで嫌われていたとは思ってもみなかった」

舞台の上でオレは血まみれになって倒れ伏せている。

「嘘っ、なんでお父様がこんな簡単に」

そんなオレを見てリーネが驚いている。さて、何故俺がこんな風になっているのか説明しよう。








時間稼ぎ









以上。



えっ?それだけって思ったそこの君、それだけなんだよ。
何の為の時間稼ぎかって?そりゃあ息子の為の時間稼ぎに決まっているだろう。あいつがしかけている仕掛けが良いタイミングで発動する様に時間を調整しているんだが。まあ、リーネの驚いている顔を見たかったという私欲もあるんだが、そろそろ立ち上がるか。

「あ~っ、痛い痛い。魔力糸の切れ味は鋭すぎるから再生は楽なんだけど、さすがに骨折とかの再生はめんどくさい。内蔵も幾らかやられてるし、仕方ないから別の手段を使うか」

そう言いながらも立ち上がる頃には服の修理も全てを終わらせる。あまりにも自然過ぎた為に誰もが疑問に思う。一体どうやって何時元に戻ったのかと。

「どうしたんだ。ああ、困惑しているのか。ちなみにアリスがやっていた様に世界を改竄したりしているわけではない。幻術でもないし、影分身と入れ替わったわけでもない。そしてリーネもこの手段を知っている。さあ、この力を越えてみろ」

「くっ、人形騎士団」

影から名の通り等身大の人形の騎士が現れ各々の武器をかまえて突撃してくる。それを躱すこと無く全て受け止めた上で人形を破壊していく。もちろんオレに傷は無い。

「無駄だリーネ。そんな物ではオレを傷つけることは出来ない」

「……お父様、そんなに私にアレを使わせたいのですか」

「そうだな、アレはリーネにとって必ず必要になる。だからこそ今此所で物にしてもらいたいと思ってる」

「…………分かったわ」

リーネが人形を影に収納し目を閉じる。それに合わせて池の水に強殺居合い抜きを叩き込み水しぶきで観客からリーネの姿を隠す。そして、水しぶきが収まりリーネが立っていた場所にエヴァに似たリーネが立っている。

「さて、ここからが本番と言った所かしらお父様」

「そうだな、オレを越えてみせろ。リーネ」

再び、リーネが魔力糸を伸ばしてくる。今度はそれに脅威を感じ、同じ様に魔力糸を伸ばし叩き落とす。

「そんなものなのか」

魔法の射手に細工を施しながらリーネに飛ばす。

「ええい、めんどくさいことを」

文句を言いながらも同じ様に魔法の射手で迎撃しようとする。しかし、幾らかが接触して消滅したはずなのに再びリーネに向かって飛んでいく。

「この」

リーネはそれを断罪の剣で切り落とし接近戦を仕掛けてくる。それに合わせてオレも断罪の剣で斬りあう。


side out




side アリス


目の前の戦いを見ていて疑問に思うことがたくさんある。とりあえず隣に居るエヴァさんに聞いてみることにする。

「エヴァさん、二人は一体何をしているんですか」

「ああ、そう言えばアリスは知らなかったわね。私達が『森羅万象』をある程度操れることは知っているわね」

「はい、それで成長していると聞いたことがありますし、師匠は基本的に魔法+『森羅万象』で威力を上げたりしてますから」

「そうだ。そして、二人はそれを使ってある物の操作をしている」

「ある物、ですか。それは一体」

「可能性」

「可能性?」

「そう、存在する全ての可能性を二人が操作し続けている。『もし斬られた風に見せて全くの無傷で居る』『もし迎撃されずに貫通していた』そんなIFを引っ張りあっているの。もちろん私にはそんなことは出来ないし、零樹も刹那も無理。レイトとリーネ、あの二人だけが出来ること」

「そんなこと許されることじゃありませんよ」

「だからこそリーネはそれを嫌う。嫌うけど使うのなら自分の全盛期である必要があるからあの姿を取る。そしてあの姿を嫌う。だからこそ気になる。レイトもそれを知っているはずなのにそれを強要するのが。そして必ず必要になるとはどういうことだ。既にこの世界の原作は粉々と言ってもいい。なのに必ず必要になると断言する。まるで未来を知っているかの様に」

「エヴァさん」

「何を、何を隠しているんだレイト」


side out



side リーネ


頭が痛い。処理が遅れてる。第2~14思考までをカット。新たに第45~69思考を生成。気持ち悪い。痛覚をカット。お父様は何を。迎撃と回避。嫌われたの。右腕に被弾。勝てない。右腕の再生終了。可能性を奪いきれない。どうすれば良い。左腕及び右脚に被弾。魔力の一部を再生に。切り払う。成功。再生終了。脚を取られた。防御に全力……無理か。早く起き上がれ。無理。もう一度防御。耐える。耐えろ。何、あの目は。あの悲しそうな。いや、がっかりしている様な目。期待していた物に裏切られた様な目。ごめんなさいお父様。私はお父様の期待に答えられそうにないわ。
そして限界がきて私は舞台に倒れる。攻撃のほとんどに『防御を無視して直撃するという』可能性が入っていたのだろう。今までに、いえ、昔に傭兵に襲われた頃位のダメージが入っている。傷自体は既に再生が終わっている。でも疲れや痛みは色濃く残っている。考えることすら辛くなる。思考を第1以外をカット。考えることすら鬱陶しい。でも、お父様に嫌われたくないから、最後まで足掻かせて……あれ?

「ダメージが無い」

「ふっ、やっとか」

「やっと?まさかこれが可能性を操る答えなの」

「何も考えずに自分に有利な現象を引っ張る。そんな矛盾の先にあるのが可能性を操るということだ。合格だリーネ、晴れて弟子卒業だ。もうオレが教えることは無い。ここからはお前が自分で進め」

そう言ってお父様が私に止めを刺す。意識を刈られるもすぐに目を覚ます。何故なら懐かしくも恥ずかしい感覚があったからだ。目を開けるとすぐ傍にお父様の顔がある。

「えっ!!何この状況!?」

「うん?見ての通り抱きかかえているだけだが、何か不満でもあるのか」

「不満も何も皆に見られてるから」

「それはそうだが、歩けるのか。脳浸透を起こしているはずなんだが」

「…………無理そう」

「ならこのままだな」

「むぅ~」

「くっくっく、良かったな超がカメラとかの撮影機器を使用不可にしているから映像に残ることは無いぞ」

「茶々丸達シスターズ、ブラザーズ達が居るのに」

「さ~て、次はどっちが勝つかな~」

「話をそらさないで」

「だが断る」

そんな感じで医務室にまで連れて行かれる。まあ、役得だったかな。


side out





side 零樹


執事服を脱ぎ、この日の為に用意していた戦闘服に着替える。見た目はエミヤの赤い外套を黒に変え、ボディアーマーを取り去った様な感じの服だ。もちろん僕が出来るだけの魔術処理を施したり色々な魔術媒介を収納、展開出来る様にもなっている。着替え終わり余った時間を瞑想をして過ごす。

「そろそろ時間です」

係員の声がかかり瞑想を止めて舞台に向かう。舞台の上には既にナギさんが待っていた。大戦中の戦闘服に左手に杖を右手に大剣を持ち、静かに僕を待っている。

「来たか零樹」

「ええ」

ナギさんと対峙し自分の武器、一本の漆黒の槍を影から取り出す。宝具程の能力があるわけではないがこの槍も十分な強さを持ちあることに特化している為に用意した武器だ。
司会が僕達の紹介をしているようだがそれを聞く余裕は無い。
目の前に居るのは大戦の英雄。僕よりも遥か先にいる存在。それに挑戦しようとする僕は愚か者なのだろう。もう切り替えているのか先程までの様な馬鹿な感じはしない。今のナギさんは目の前の敵(僕)を倒すことしか考えていない。

「アリスを任せるかどうかはアリカが見極めてくれる以上オレはお前を倒すことしか考えない。それで良いんだな」

「もちろんです。ですけど僕ではナギさんに普通にやって勝てるわけが無いのでちょっとした小細工はさせてもらいますよ」

「それ位当然だろ。ようはルールを守ってりゃ何をやっても良いんだよ」

それで会話が終了する。

『準決勝2回戦』

手に持つ槍をしっかりと構え、いつでも飛び出せる様にする。ナギさんも大剣を肩に担ぎ構える。

『開始』

合図と同時に金属がぶつかる音が響き続ける。
予想以上にナギさんは強かった。大剣を扱っての接近戦が出来ることは知っていたがまさか杖術も使えるとは知らなかった。大剣を使わずに全て杖で槍を弾かれる。一度距離を離し外套から符を展開する。

「汝は炎、主に付き従いし気高き魂」

符が燃え上がり侍の姿になり斬りかかる。

「ふっ」

それをナギさんは大剣に装填されている弾丸を炸裂させた一撃で全て薙ぎ払う。

「この程度か」

「まさか、ただの小手調べです」

もう一本の同じ槍を取り出し、二槍を振るう。さすがに二槍を杖一本では捌けないのか大剣も使い捌き始める。それでも傷を負うのは僕の方だ。時折蹴りや気弾が飛んで来てそれを躱そうとすれば杖が、大剣が掠めていく。僕も同じことをするが普通に躱されてしまう。これが経験の差と言う物なんだろう。それでも大剣に装填されている弾丸をリロードする一瞬の隙を付きもう一度距離を離す。

「メイル・ラン・ボーテクス、二重詠唱。契約に従い我に従え高殿の王、来れ巨神を滅ぼす燃ゆる立つ雷霆。百重千重と重なりて走れよ稲妻。千の雷、術式固定、双腕掌握」

千の雷を2発体内に取り込み更に詠唱を続ける。

「メイル・ラン・ボーテクス、契約に従い我に従え炎の覇王、来れ浄化の炎燃え盛る大剣。ほとばしれソドムを焼きし火と硫黄。罪ありし者を死の塵に。燃える天空(契約に従い我に従え氷の女王、来れとこしえのやみ、えいえんのひょうが。全ての命ある者に等しき死を。其は安らぎ也。おわるせかい)術式固定、装填」

燃える天空とおわるせかいを槍に一本ずつ装填する。

「術式兵装、神槍滅刃」

肉体的には雷化、武器には一撃が上級殲滅魔法と同じ威力の戦闘形態。上級殲滅魔法を取り込め、尚かつ威力を変えないことに特化したのがこの槍だ。

「闇の魔法か、よくエヴァンジェリンが許可したな」

「父さんが色々と改善していますからね」

雷速で踏み込み槍を振るう。ギリギリの所で防がれる。初見で防がれるとは少しだけ予想外だったが反応しきれていない以上ここから押す。雷速で舞台を駆けながら槍や、気弾、魔法の射手、重力魔法、チャクラムを巧みに使いながら一方的に攻撃を続ける。それに対してナギさんは槍には大剣と杖、気弾と魔法の射手には同じく気弾と魔法の射手を、重力魔法とチャクラムを瞬動で見事に躱す。それでも幾らかのダメージを与えることには成功している。このまま

「見切った」

「なっ、がはっ」

突如首を掴まれ舞台に叩き付けられる。今の僕の身体は雷系の上位精霊と変わらない。つまりは実体を持っていないにもかかわらず掴まれて叩き付けられる。すぐに起き上がり距離を離す。

「なんだ?もしかして上位精霊と殴り合ったことが無いのか」

「戦りあったことならありますけど」

「まあ、その時の経験で実体の無い奴らの殴り方はマスターしてるんだよ」

デタラメすぎる。父さんもそうだが目の前に居るナギさんも十分にデタラメな存在だ。

「さて、ウォーミングアップはこれ位にして。契約に従い我に従え高殿の王、来れ巨神を滅ぼす燃ゆる立つ雷霆。百重千重と重なりて走れよ稲妻。千の雷、術式固定、掌握」

「なっ、ナギさんも闇の魔法を」

「ああ、上級殲滅魔法1発が限界だがな。それより」

次の瞬間、また舞台に叩き付けられる。

「余所見をしていていいのか?」

全く反応出来ない速度で後ろに回り込まれたのだと判断。状況から判断してこのまま例のアレが発動するまで防御に専念することにする。カウントを取られ始めたのでナギさんがオレから離れていくのを気配だけで感じながら9まで倒れておく。ダウン中の攻撃は反則ではないが試合であることから攻撃は一切無い。倒れている間に無詠唱で遅延魔法を用意する。起き上がると同時に牽制として全方位に魔法の射手を飛ばす。これで互いに行動範囲が制限されるのでどこから攻撃が来るのか予想が出来るはずだった。その魔法の射手が出現、滞空と同時に全て撃ち落とされるまでは。
そして自分に向かって雷の斧が叩き込まれる。ダメージは一切無いが衝撃で一瞬動けなくなり大剣で右腕を切り落とされる。観客が認識する前に素早く切り落とされた右腕を拾い繋げる。その隙に今度は杖が腹部を貫通する。杖を引き抜かずにそのまま槍でナギさんの左足を貫く。今度は大剣で槍を2本とも折られる。それに対して大剣の柄を握りつぶして握れなくする。杖を引き抜こうとしたナギさんの顔面を殴る。それによって吹き飛ぶが杖を手放さなかったので引き抜かれてしまう。それを追いかけ密着する様に戦う。下手に離れられ動きに反応出来ないなら予想から動ける接近戦に持ち込む。それに乗ってくれているナギさんも杖術が使える範囲から離れようとはしない。それでも確実に押され続ける。そして僕の闇の魔法が切れる。

「がああああああ」

そこからは一方的な蹂躙が僕を襲う。時間にして数秒とかかっていないだろう。だが、その一瞬で僕は襤褸雑巾の様な姿で舞台に沈む。
勝てない。今の僕ではナギさんの足下にも及ばない。薄れていく意識の中でもその事実だけがはっきりと分かる。仕掛けを作動させることもなく敗れるのか。

「その程度なのか零樹」

そんなわけないと言い返したい。実際にこれが限界なのかと聞かれれば答えは否。隠し球というか本来の戦闘スタイルを取れば必ず食い付くことは出来る。だけど、アレでは戦いたくない。そんなことを考えているとナギさんに言われる。

「なんでお前ら一家はそんなに自分の最強の姿を嫌うんだ」

そうさ、僕の家族は皆最強の姿を嫌う。父さんはシンを、母さんは闇の魔法を、リーネ姉さんは全盛期の自分を、刹那姉さんは烏族の、そして僕も。それをナギさんは知っているのか。知っていてそう言うのか?

「あんたに何が分かる」

身体が限界に近いはずなのに立ち上がることができる。理由は簡単だ。僕がキレているから、僕の逆鱗にナギさんが触れたからだ。

「皆理解しているんだよ。理解している上で嫌いなんだ。何も知らない奴は過去に囚われるなと無責任なことを言う。だが、過去に囚われずに生きることなど普通の感覚の人には不可能だ。そんなことが出来るのは頭がお花畑な奴かジャンキーか頭が逝ってしまっているか、そんな奴らだけだ。ナギさんだって昔の、大戦期の頃の過去に囚われているのを否定はさせない」

「ああ、その通りだ。だがな零「だれど僕が囚われているのは過去じゃない」なんだと」

「ちょうどタイミングが良い、だから理解させてやる。それを見ても同じことを言えるか」

その言葉と同時に世界樹が光り輝く。予め世界樹に固有時制御を改良した陣を敷き、それをナギさんに宣戦布告した後に発動させ発光現象を早めさせた。無論、大会終了後に明日の祭りに使える様に再度操作はする。世界樹が発光現象を起こしたことで大気中の魔力が一気に濃くなる。それを体内にどんどん取り込む。取り込んで、取り込み切れない分を纏う。そして 僕の形が崩れる・・・・・・・。まるでスライムの様に僕だったものは形を変えていく。やがてそれはある形を作り出す。
赤い髪に整った顔立ち、何処か子供の様なのに安心感を与えてくれる様な大人の雰囲気を醸し出し、右手に自分の背と同じ位の杖を持つ男。

「おいおい、なんだよそれは」

「はん、見れば分かるだろう。これがオレの嫌いな最強の姿だよ」

口調が変化するが違和感は一切存在しない。何故ならオレは、ナギ・スプリングフィールドなのだから。


side out 
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