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迷子の果てに何を見る

作者:ユキアン
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第四十七話

 
前書き
邪魔さえしなければ生きれたものを
byアリス 

 
世界と重力
side 零樹


戦闘態勢に入ると同時にあらかじめ仕掛けてある結界に魔力を通し起動させる。これは灼眼のシャナに出て来る封絶の様な物で手順を踏めば結果以内の全てを修復可能な便利な結界だ。もちろん怪我は治癒されることは無い。
これで準備の方は整った。後は、敵を殲滅するのみ。
全属性の魔法の射手を大量にばらまきながら接近する。それに合わせてアリスさんは中級程度の呪符をばらまきながら詠唱に入る。男は必死に魔法の射手と呪符を躱そうとするが、あまりの数から迎撃に変更する。しかし、男の放つ『闇の吹雪』を魔法の射手が打ち破る

「バカな!?」

足を止めてしまった男に視界を覆い尽くす程の魔法が命中する。だが、追撃を止めることは無い。一振りの魔剣を投影し、投擲する。魔剣は寸分違わず男の心臓を貫き地面に串刺しにするが男が命を落とすことは無い。そういう概念が込められているからだ。

「ーーーただ、姿を曝そう。『 博覧会エキシポジション』」

詠唱が終わりアリスさんの固有結界が展開される。
そこは剣や槍等の武器、薬品、宝石、魔導書、果ては普通の服や料理などが規則正しく並べられている空間だった。
これらのものは全てアリスさんが生み出した物であり、名が示す様にアリスさんによる個人の博覧会。
父さんが言うには無限の剣製とは違い、もし他人も使えるなら、例えば姉さん達なら下位互換、僕や超さんが使うと相互互換、アリスさんや父さん、母さんなら上位互換の存在であるらしい。
無限の剣製は見ただけで固有結界に登録されるが『博覧会』は自ら作り出さなければならない。代わりに『博覧会』にある物は全てが真作であり、武器以外にも作り出した物全てが同じ魔力量で生み出せる。これだけなら大したことは無かったのだが、父さんに弟子入りしてしまったのが『博覧会』を強力に仕立て上げた。
生み出したもの全てが真作で存在する。
つまりは 宝具も概念武装も魔法具も魔法・・・・・・・・・・・・・・
さえも真作で存在する空間ということだ。
父さんと母さんがもし使えたら……考えたくないなぁ~、特に父さんのは。本当に世界を作り出しそうで怖い。

「偵察に来たのでしょう。ゆっくり見ていってね。生きて報告できれば良いですが」

アリスさんが右手を上げるとそれに呼応する様に幾つかの宝具が浮かび上がり、振り下ろすと同時に男をさらに串刺しにする。
それを見ながら僕自身も最高の技を見せる準備に入ります。僕が一番得意とする魔法、それは重力制御。それを極めるなら何を目指すかは分かりやすい。そう、ブラックホールだ。物理攻撃魔法は強者に対して命中させるのが難しい上に耐えられる可能性も高い使い勝手の悪い魔法である。その点、ブラックホールなら放てば後は全力で逃げるだけで広範囲を殲滅することが出来る上に耐えることが出来るのもほんの一握りだ。が、今回はその先を目指す。
まあ、先と言っても単純に複数のブラックホールを作って威力を調整するだけなんだけどね。
コントロールが難しいので今回はブラックホールの核を用意する。父さんが重力魔法を使うならこれを核にすれば扱いやすいと言って作ってくれた六つのチャクラムを肉体強化を全開にして引っ張り出す。なぜ全開にしたかというと普通では考えられない位重いからだ。その重量は一つにつき2トン。それを六つ同時に操れないと弟子から卒業させてくれない。父さんは一つ37トンのチャクラムを同時に30個使用して重力を自在に操ることが出来る。それどころか面倒くさいの一言でチャクラム無しで同じことをしていた。
重力を制御してチャクラムを高速回転させていく。これの速度を更に上げていくとブラックホールの完成だが、時間がかかるのが欠点である。そのためアリスさんの『博覧会』による爆撃が続く。
宝具でハリネズミ状態だったがそれを抜かれ、魔法薬で傷を治療され、今は魔法と魔法具による爆撃を受けている。う~ん、父さん達に弄られてた分が此所に来て爆発しているな。まあこっちに被害は無いから問題は無いな。

「アリスさん、そろそろ止めを差しますけど良いですか?」

そんなことを考えているうちにバレーボールサイズのブラックホールが六つ出来上がる。今はベクトルを操作して超重力が漏れない様にしてあるだけでブラックホールの維持を手放しています。正直被害を抑えるのとブラックホールの維持を同時に行なうのは一つ二つならともかく六つはまだ不可能です。

「両手両足、頭部と胴体に一つずつお願いしますね」

「了解です」

リクエスト通りに両手両足、頭部と胴体に一つずつブラックホールを投げつけ、それと同時にアリスさんが固有結界を解除して僕はアリスさんの手を掴み縮地で真上に退避します。固有結界は解除するとある程度の反動が還ってくる為、長時間展開すると危険である。fateでもそうだが文字通り世界を塗り替える、世界を創ると言ってもいい程の魔法に最も近い魔術だ。そんな物がデメリット無しで使える訳が無い。それはアリスさんにとっても世界にとってもだ。だからこそ父さんに使用する場所は世界樹の傍か、特別製のダイオラマ魔法球に限定されている。
実際、数分足らずの展開でアリスさんは消耗し、世界樹の傍だというのに魔力が極端に少なくなっている。あと2、3分程展開していればアリスさんは一人で立てない位に消耗し、世界樹は枯れ始めるだろう。

「これは父さんに怒られるかも知れませんね」

「すみません。少し調子に乗りすぎたみたいで」

「まあ、事情を話せばお小言の一つ位ですむと思いますけど。ブラックホールが収まるまで時間はありますし、少し休憩しましょう」

魔力で足場を作り、そこにソファーとテーブルを出してお茶の準備をする。アリスさんの消耗は予想よりも大きいようでソファーに座った途端、気絶する様に眠ってしまった。ブラックホールが落ち着くまで1時間程あるのでアリスさんに膝枕をしてあげてまだ少し寒いので毛布をかけてあげます。それから父さんに連絡をしてお小言を貰い、お茶を飲みながらアリスさんの寝顔を見たり、たまにあの人形が生きているかを確認したりしてのんびり過ごします。

「それで、姉さんは何時までそこで見てるんですか?」

「あら、気付いていたの?」

自分が座る予定だったソファーにリーネ姉さんが現れる。

「ええ、アリスさんの頭に停まった鳩。姉さんの使い魔でしょ」

「よく分かったわね」

「何時から見ていたんですか」

「あなたがアリスをお姫様だっこで広場に着地した辺りからよ。そのあとの会話は全部聞いていたわ。それで、気まずい雰囲気になっていたみたいだから使い魔を飛ばしたってわけ。覗いていたのは謝るわ」

「別に良いですよ。父さん達にもバレてますし、ですが言いふらしたりするのは無しでお願いします。それと使い魔はありがとうございます」

「分かっているわよ。千雨ちゃんと一緒にはおちょくるかもしれないけどね。使い魔のことは気にしなくて良いわよ。姉としてのお節介みたいなものだから。それで、アレは何時頃終わるのかしら。お父様に結界の調整を頼まれているんだけど」

「そろそろ収まりますよ。それであの人形はどうします?契約を逆探知して主を呪っても良いんですが」

「お父様からは人形の破壊しか言われていないから止めておいた方が良いでしょうね。おそらくお父様は人形の主を知っているんでしょう」

「分かりました。ちょうどブラックホールも収まって来たので止めを刺します。 壊れたブロークン 幻想ファンタズム」

人形に突き刺していた命を現世に縫い付けていた剣が大爆発を起こす。バラバラに吹き飛ぶかと思われていたが既に剣が刺さっていた場所以外は潰れていたので本当に何もなくなってしまった。

「う、う~ん」

さすがに近くで大爆発が起きたのでアリスさんが目を覚ます。

「おはようございます」

「うん?ああ、おはよ!?」

僕の顔を確認すると同時に飛び起きて周囲を見渡す。
姉さんは既に結界の調整に向かっている上に認識阻害と隠蔽の結界を張っているみたいでどこに居ることやら。

「倒れてからどれ位経ちましたか?」

「1時間と言った所ですね。やっぱり固有結界の負担は辛いようですね」

「正直やりすぎてたみたいです。ちょっと気を抜いたら気を失ったみたいですね」

「とりあえず今日の所は帰りましょうか。送りますよ」

「すみません、お願いします」

ソファーやテーブルを片付けて麻帆良に帰って来たとき同様に抱きかかえる。そこに一切の照れはなく、当然様にアリスさんは僕の首に手を回す。世界樹の元に降り立ち出来るだけこの時間が長く続く様に歩いて女子寮を目指す。
自分が満たされているのが分かる。父さんやナギさんもこんな気持ちだったんだろうな。これを壊そうとする者なら誰であろうと立ち向かう覚悟がある。
ああ、なるほど。これが人を愛するということなのか。

「修学旅行の時も二人でこっそり抜け出しませんか?」

「ええ、それも良いかも知れませんね。まあ、確実にからかわれるでしょうがこんな時間の為ならそれでも良いですね。それとここらで良いです。これ以上進むと怪しまれるでしょうし、何より鼻が利くのが居るので」

「分かりました」

アリスさんを降ろして向き合う。
初めて会った日、アリスさんは自分が転生者で、神に理不尽な理由で殺されたと言っていた。なら今度は僕がアリスさんを守りきる。僕の憧れの存在である父さんはそれを実行し続けて来た。その為に神をも殺したと言っていた。その血を引く僕にもできる、いや、やるだけだ。

「アリスさん」

「なんですか」

「愛してますよ」

「ふふ、私もです」

どちらからとも分からない位に自然にキスを交わして別れた。
はて、何かを忘れている様な。思い出さないということは大したことではないんだろう。


side out









































side 鋭太郎

一体いつまで放置されるんだ?もしかして忘れているのか。
ちくしょう、こんなことならエーネウスを完成させておけば良かった。

「やっぱり忘れ去られてたのね」

「さすがの私も魔力と気を封じられて道具も無い状態ではどうすることも出来ませんよ」

よかった、リーネさんには忘れられていなかったか。

「それにしても海老フライみたいね」

そう、今のオレは首から足首まで綺麗にロープに巻かれて海老フライの様に見える。

「面白いから写真に撮っておきましょう」

「あ、やめて、撮らないで」

「そんな顔をされるともっとやりたくなるわね」

「くぅ〜、悔しい。でも感じてしまう」

「ならこの写真をバラまきましょうか」

「本気で謝りますからそれだけは平にご容赦を」

「仕方ないわね。ならこのまま放置プレイで許してあげるわ」

「えっ、マジですか」

「マジよ。その内零樹が気付いて......放置プレイにしてくれるでしょうね」

「尚のことおいてかないで下さい」

「感じちゃうんでしょ。良かったじゃない」

「まさかアレが墓穴になるとは」

「それじゃあ、ゆっくりしていってね」

こうしてオレは置いていかれ次の日の夕方にレイトさんが回収に来てくれるまで海老フライのままだった。


side out 
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