| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか

作者:海戦型
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

36.支援物資解禁の時

 
前書き
ノルエンデ復興計画報告書

新しい復興参加者が『6人』加わり、参加者人数が『86人』に増えました!

※この作品ではMP回復ポーションの名前を、BDFFに合わせて「エーテルポーション」に変更しています。ハイポーション版は「エーテルターボ」です。ご了承ください。基本的にアイテム名はBDFF準拠が多めでいきます。 

 
 
 その日、ヘスティア・ファミリアと共にギルドに現れた四つの人影のうちの一人を見て、エイナは一瞬悲しそうな顔をした。ベルとリングアベルの説明も、ティズの話も聞かず、エイナは黙って4人をギルドの一室に案内した。

 ティズだけはどこに向かっているのかを知っている。
 そもそも一度ギルドに寄ったのは、支給品の装備を受け取る為だった。
 ただ、ティズにはそれ津は別に受け取るべきものをエイナに預けていたのだ。
 但しそれを受け取るという事は、エイナの戦ってほしくないという忠告を裏切ることでもあった。

「ごめんなさい、エイナさん。でも僕は……」
「謝らないで、ティズ君。なんとなくだけど……そうじゃないかなぁって思ってたから。ベル君もリングアベル君も、そして今までも……男の人は特にそう。危険だって言ってるのに人の話を聞かないんだから、背中を押すしかないでしょ?」
「……ギルドに預けていたノイエ・ノルエンデからの贈り物……使わせていただきます」
「変なの。元々あれはティズ君のものなのにね」

 エイナはティズが冒険者としてダンジョンに赴くのは反対だった。
 だが、同時に彼が一度決めたことを投げ出すほど芯の通らない子でもないと、気付いていた。
 だから、敢えて何も言わない。もしも言うとしたら、彼らがダンジョンに潜る時に「生きて帰ってね」とか「冒険者は冒険しちゃ駄目なんだよ」といったありふれた言葉だろう。エイナに出来るのは、それくらいだった。

「今のやり取りだけを聞くと妙にドラマチックで悲しい瞬間に聞こえるな………天然タラシめ」
「戦いに赴く男を悲しみながら見送る女性……なんか悲壮なシーンに見えなくもないですけど、ダンジョン1階層で経験者二人がいるんなら、そんなに怪我はしないと思いますよ?」
「そんな心構えで大丈夫なのでしょうか?……もっと緊張感を持った方がよいのでは……」
「まぁ普通はそうなんだけど、ねぇ……?」

 冒険に対して心構えがお気楽すぎる二人の能天気な所が、アニエスにとってはちょっと不安である。エイナもその辺は承知済みなのだが、ことリングアベルについては緊張感を求める方が難しい。注意されても聞いていないくせに、本番ではもう集中できている一番面倒くさいタイプなのだ。

「色々と信用できないかもしれないけど、リングアベル君もベル君もレベル1の冒険者の中では強い方なんだよ?これに、やる時はやる人たちなの。もし同行するのが二人じゃなかったら、流石に私もちょっと考えたかな」
「と、とてもそうは見えませんが………特にリングアベルは」

 リングアベルの評価が果てしない大穴に落ちていく中、4人は部屋に辿り着いた。



 = =



「はい、これ!ノイエ・ノルエンデから届いたブリガンダイン!ギルド支給の鎧より軽めで上等なものみたいよ?」
「ありがとうございます。えっと、こっちから手を通して……?鎧なんて初めてつけるから何だか緊張するなぁ」

 躊躇いがちに軽量鎧を装備したティズは、エイナに手伝ってもらいながら体を動かして具合を確かめる。つい最近村の復興に参加した職人が作った鎧に、そこそこ目の利くリングアベルも感心した。

「なんと、早速エイナに甘えて装備を付けてもらうなどとレベルの高い事を……!?」
「リングアベルくーん?いい加減にしようか、ね?」
「んん、ごほん!改めて………かなりしっかりした出来栄えだが、本当にこれで試作品なのか?市販で売っていてもおかしくない完成度だ。ノルエンデの職人侮りがたしだな……!」
「先輩!こっちにはポーションとエーテルですよ!毒消しと目薬もあります!」
「薬師までいるのか。ここに置いてあるという事は、もう鑑定済みと考えていいのか、ティズ?」
「うん、全部ギルドの人達に鑑定してもらったから効果は保障するよ?」

 ノイエ・ノルエンデから送られてきた出荷商品を整理している倉庫には、既にそれなりの数の質のアイテムが鎮座していた。送られてきた薬や装備はこれからの冒険に役立つだろう。特に薬系はそれなりに数があり、普通に購入すればそれなりに値が張るものばかりだ。
 唯一、買い物などしたことがないアニエスだけがその価値をよく分かっていない。彼女曰く、ポーションなどのアイテムはそれを作れる修道女が作成していたそうだ。

「ポーションがそれほど高価なものだとは知りませんでした……迂闊です」
「まぁ、我等ヘスティア・ファミリアもミアハ・ファミリアから時々貰い物をすることでやっとポーションの数を維持してる段階だからな……組織がバックについてくれるとこういう所が頼もしい」
「使いきれない分の薬は、そのミアハ・ファミリアで捌いてもらう予定なんだ。売れ行きが良ければそのまま装備品も置かせてもらって、ウィンウィンの関係になるように考えてるよ」

 ベルはティズの思慮深さと気配りに感心して「オトナだなぁ……!」と目を輝かせている。リングアベルと違ってしっかり者な彼にベルは関心があるようだった。エイナはさらに別の箱を開け、虹色のドレスと赤い帽子を取り出す。

「はい、アニエスちゃんにはこれ!私もあんまり見たことのない装備だけど、このレインボー・ドレスは装備品としても結構いいものよ?ちょっと派手だけどね」
「……これは、冒険者として着なければいけないものですか?」

 アニエスはその虹色という派手なドレスに思わずたじろいだ。彼女の趣味は派手とは程遠い故、躊躇いがあるらしい。見た目にもそれが戦闘用の装備には見えないが……しかしこのドレス、綺麗な見た目に反して凄まじく高度な技術で作られているのだという。

「これ、下手な鎧よりも防御力が高いんだ……それに圧倒的に軽いし。担当職員としては、生存率を上げるためにぜひ装備して貰いたいな?」
「………では、着ます」
「うん、素直でよろしい!それと……こっちの帽子は魔法の威力が増す効果のある帽子だよ。アニエスちゃんは魔法が使えるらしいから、こっちもどうぞ?」

 言うまでもないが着替えはギルドの更衣室で行われたため、リングアベルの「生着替えを見る」という密かな野望は音もなく崩れ去っていった。膝をついて悔しがる彼に同情したのはベルのみで、ティズは苦笑い、女性陣は汚物を見る目で見下していた。リングアベルの評価、ストップ株である。



 やがて、ティズはリングアベルから借りた剣を持って装備万端。アニエスも支給品の杖を用いていかにも魔法使いといった風望になった。久しぶりに槍を握ったリングアベルとベルも並び、4人はついに冒険の準備が整う。
 4人パーティ。それは勇者一行の基本構成だと古来から言われているが、オラリオでは別にそんなことはない。3,4人の構成なんてありふれたものだ。しかし、少数で動くには多すぎず少なすぎずのバランスがいい構成でもあるのは確かだ。

「準備できたみたいね……ティズ君、アニエスちゃん!!」
「は、はい!」
「何でしょうか、エイナさん?」
「ダンジョン内では慎重に行動し、自分の力を過信しないこと!好奇心や探究心で迂闊な行動をしないこと!格上の相手や苦戦する相手に出くわしたら速やかに撤退すること!体力や装備、アイテムの管理を怠らないこと!これらの冒険者としての原則を総合すると――『冒険者は冒険してはいけない』!!これにつきます!!」

 強い口調で説明するのは、二人に無事に帰ってきてほしいから。
 数が増えても、冒険者は死ぬ時には死ぬ。だから言霊をたくさんぶつけ、少しでも生きて帰って来れるように願う。それがエイナのやり方だった。その思いやりが、二人だけでなくベルコンビの心も打つ。

「貴方たちがなんで冒険に繰り出すのかは、今は敢えて聞きません。でも、二人が死んだら悲しむ人がいるのは揺るがない事実です!だから、4人とも――必ず生きて帰ってくること!私から言えるのはそれだけです。いいですね?」

 ティズは、大きく頷いた。

「僕も、目的を果たすまでは――いや、目的を果たしても死にたくはないです。エイナさんを村に案内する約束の為にも、生きて帰ってきます!」

 アニエスは、小さく会釈をした。

「この恩は忘れません。いえ、これからも恩を作ってしまうかもしれませんが……私も死ぬつもりはありませんので」

 リングアベルとベルは、いつものようにニヤッと笑って拳を掲げる。

「俺は世界中の美女とお近づきになるまで死なないぞ!!」
「僕も強くなるために生き延びてみせます!!」

 ――この日、ヘスティア・ファミリアは計四人の冒険者によるダンジョン探索を開始する。



「……エアリー、寂しくないもん。無視されても寂しくないもん……くすん」
「ごめんよエアリー……エイナさんまで巻き込むわけにはいかないから、ね?」
「そうです。無関係の人間を巻き込むわけにはいかないでしょう?」
「でもぉぉ~……」

 ………正確には、道具袋の中でイジケていた約一名と、この後に合流する別のファミリアの同行者まで加わることになるのだが。
  
 

 
後書き
う~ん……イデアの合流までまだかかりそうですね。

ちなみに、もしも防具開発を行っていなかった場合はティズの装備とアニエスの戦闘方法がより消極的になる予定でした。前に投稿したアンケートは次章に行くまで有効です。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧