| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

カルタゴ人と海の妖精

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

5部分:第五章


第五章

「地上にあるものだけれどね」
「しかし海にはないものだ」
「うん、海にはないよね」
「そうだ、だからこそ欲しい」
 妖精はついつい本音を口にしてしまいました。
「これを全て。いいか」
「いいよ。ただしね」
「言った筈だ。約束は守る」
 これが妖精の返答でした。
「絶対にだ」
「よし、それじゃあね」
「うむ」
「交換しよう」
 商人はあらためて妖精に対して提案しました。
「それでいいね」
「いいとも。それではだ」
「君の財宝と僕の財宝を交換して」
「そうしよう。それではだ」
 こうしてでした。商人は持って来た地上の財宝と引き換えに妖精の財宝を手に入れたのでした。そうして喜びに満ち溢れた顔でカルタゴに戻ったのでした。
 その彼にです。友人が尋ねました。
「若しかしなくてもやったのかい」
「うん、やったよ」
 商人はその顔で友人の問いに答えました。
「無事ね」
「髪の毛はちゃんとあるな」
「見ての通りだよ」
 ふさふさとしています。憎らしいまでに豊かです。
「この通りね」
「そうか。本当に成功したんだな」
「そうだよ。財宝は僕のものだよ」
「一体どうやって手に入れたんだい?」
 友人が次に問うたのはこのことでした。
「一体。今まで誰も手に入れられなかったのに」
「それは簡単だよ」
 商人は明るい顔で友人のその問いに答えました。
「相手の欲しいものをあげればいいんだよ」
「相手のかい」
「そう、相手のね」
 こう話すのでした。
「そうすればいいんだよ」
「相手の欲しいものを」
「例えばそこにはなくて別の場所にあるものを渡す」
 かなり具体的な言葉でした。しかし事情をよく知らない友人にはわからない言葉でした。
「そうすればいいんだよ」
「どういうことだい、それは」
「言ったままだよ」
 商人もそこまでは言いません。
「それだけだよ」
「?」
「商売の基本だよ」
 首を傾げる友人にまた言いました。
「それだけだよ」
「やっぱりわからないけれど」
「まあ考えればいいさ」
 答えは出しましたがそれでも何処かその答えなのかは言わないのでした。
「そのことはさ」
「何かわからないけれど智恵を使ったのかい」
「そうだよ」
 このことは話しました。
「それで手に入れたんだよ」
「ううん、智恵か」
「その人が持っていないものをあげればいいんだよ」
 何気にまた言いますがそれは友人にはわからないことでした。しかしそれでもです。商人が財宝を手に入れたこと、それは紛れもない事実でした。


カルタゴ人と海の妖精   完


                 2010・7・30
 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧