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気さくな鬼

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4部分:第四章


第四章

「それでも天狗だと退治されないんだよ」
「思えば不公平な話じゃ」
「神隠しとかさ。天狗つぶてとか天狗も一杯悪いことするじゃない」
「しかし天狗を退治しようという者はおらん」
「訳のわからないことだよ。僕なんか山で楽しく暮らしたいだけなのに」
「天狗ならそれができる」
 重太郎はこう言います。
「御主が天狗だったらのう」
「全くだよ。鬼の何が悪いんだよ」
「どうしたものじゃろう」
 重太郎は童子と共にです。腕を組んで神妙な顔になって考えます。そしてです。
 考え抜いた顔で、です。童子に目を向けて言いました。
「そうじゃ。御主化けることはできるか」
「一応はね」
「なら天狗に化けよ。服も山伏のものにせよ」
「おじさんが今着てるみたいな」
「天狗の着ているものにせよ」
 天狗の服は山伏のものです。だからそうなるのです。
「それでよいか」
「天狗に化けたら退治されなくなるんだ」
「そうじゃ。鬼でないならじゃ」
「ううん。それでこの山にいられるんならね」
「悪い話ではないと思うがどうじゃ」
「そうだね」
 少し考えてからです。童子はです。
 重太郎にです。こう答えました。
「それじゃあね」
「それではだな」
「うん、天狗になるよ」
 こう言ったのでした。
「これからね」
「そうするか」
「だってさ。天狗になったら退治されないじゃない」
「ならばじゃな」
「そうするよ。僕これから天狗になるから」
 天狗に化けるというのです。
「そういうことでね」
「では今化けてみよ」
「こんな感じ?」
 言った傍からです。童子はどろんと白い煙に包まれてです。
 赤い顔で高い鼻のです。山伏姿のです。
 天狗になってです。重太郎に言うのでした。
「どうかな、これで」
「うむ。それならばじゃ」
「天狗として生きるな」
「そうするよ」
「では殿様にはわしから伝えておこう」
「鬼を退治したって?」
「証拠になるものが必要じゃがな」
「ならこれ持って行ったら?」
 こう言ってでした。童子はです。
 一旦童子の姿に戻って烏帽子を外して頭の角を切ってです。それを重太郎に渡したのです。
「角ね。実は角ってなくなっても何にもならないから」
「そうだったのか」
「意外だった?」
「鬼といえば角だからな」
 それでだと。重太郎は目を少し丸くさせて童子に答えます。
「しかし。角がないとじゃ」
「何もおかしくないでしょ」
「普通の子供に見えるわ」
「じゃあこれで天狗になってもね」
「うむ、何処からどう見ても天狗じゃ」
「不本意ではあるよ」
 天狗になる、そのことがだというのです。
「全く。外見で判断されるなんてね」
「鬼であるということだけでじゃな」
「それで退治されたりされなかったりってないと思うけれど」
「だが致し方ない」
 重太郎は童子の言うことはわかります。しかしです。
 
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