| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-

作者:桃豚(21)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

50話

 甘ったるいドロドロしたグリーンティーのパックの口を咥えた時に、エレアは不意に惹起した鮫肌の感覚に息を飲んだ。その言葉をより正確に表現する言葉を探し、ほかの言葉ではその漠然としながらも明確な志向性を持った持続を分節化しすぎることを理解した。
 行かなければ。鮮やかすぎる輪郭を描いた理性の一撃に突き動かされるようにして、彼女は計器に手を伸ばした。
「整備兵、退避して!」
 外部スピーカーに音声を出力させ、エレアは無線にそれだけ言うと首のアタッチメントに繋げたままのヘルメットに手を回して被り、右耳のあたりのスイッチを押してバイザーを降ろした。
(退避しろってどういうんです!? まさかエイジャックスまでタイホウみたいに―――)
「いいから早く!」
 がなり立てるように怒声を浴びせ、目を白黒させた整備兵が慌てて遠くへ飛びのいていく。
 コクピットの前にかかるキャットウォークを機体の前面からずらす時間すら惜しかった。《ゼータプラス》の右主腕で通路を掴み、無理やり捩じるようにして破壊した。空気のない格納庫内では、その破壊の音はしなかったであろう。
(フランドール中尉―――エレア! 何があった!?)
 ディスプレイに立ち上がったウィンドウの向こうで、フェニクスは表情を険嵯に尖らせた。
「早くいかないと―――消えちゃう! いなくなっちゃう!」
 何か言いかけ、押し黙ったフェニクスが顔を歪める。
 エレアはそれを気にも留めず、《ゼータプラス》の歩を進めた。
 ボウワ社製のビームライフルとビームマシンガンを内蔵した兵装ユニットを《ゼータプラス》に保持させる。
(―――整備兵! 私も出る、退避しろ! アヤネ! カタパルトデッキのオペレーションを!)
(りょ、了解!)
 隣のガントリーに固定されていた《ゼータプラス》も起動。大型のビームランチャーを携えたところで、フェニクスの通信ウィンドウが開いた。
(貴様が破壊した設備については後でこってり絞ってやる―――いいな!)
 頷く。
 操縦桿を握りしめ、自動操縦でリニアカタパルトに脚部を接続した漆黒の《ゼータプラス》が膝を曲げる。
 カタパルトデッキに身を晒す。
 視界一杯に広がる黒い―――蒼い宇宙。
(ゲシュペンスト02、出撃してください!)
「02、《ゼータプラス》出ます!」
 スロットルを全開に、爆発的な閃光を背負った《ゼータプラス》が蒼い海へと弾き出されていく。負荷Gも気にせず、決然と紅い瞳を永久に突き刺したエレアは、ただ小さくその唇を動かした。
 私が、守るから―――。
 黒の《ゼータプラス》は閃光の翼をはためかせ、夢幻なる無限の世界へと飛翔した。
                       ※
(機種特定、《ザクⅢ》と―――《ドーベン・ウルフ》です!)
 振り返り、絶叫にも似た声で報告したオペレーターの声は、ウォースパイトのブリッジの空気を戦慄させるに十分だった。
 《ドーベン・ウルフ》―――その名を地球連邦軍で知らぬ者はいない。
第一次ネオ・ジオン抗争時に開発された屈指の第4世代機。従来の第4世代機が須らく高度なニュータイプ能力を強要したのに対し、堅実な設計思想の元に制作された孤高なる戦狼は、装備を対テロ戦闘用に移行したい地球連邦軍の頭痛の種だった。数が少ないため専用の装備を製造するわけにもいかず、かといって最新鋭の主力機《ジェガン》の手にすら余る機体―――。
「第3中隊の《FAZZ》は健在な筈です、すぐに向かわせなさい! それと第11大隊もです!」
「了解! ヘッドクォーターよりオール・トマホーク、戦域Aに出現した《ドーベン・ウルフ》の討伐に向かえ。繰り返す、戦域Aに出現した《ドーベン・ウルフ》の討伐に向かえ!」
「ヘッドクォーターよりスネークヘッド、出撃準備に移れ! 繰り返す、出撃準備に移れ!」
 俄かに喧騒が巻き起こったブリッジの中で、アヴァンティーヌはついぞ気が付かなかった。ポールもまた気が付かなかった―――というのも、彼らにとって《ドーベン・ウルフ》は確かに最も優先度の高い標的であることは事実だったし、また気づいてこそいないが誤った選択肢を選んでしまったわけでもなかったのである。
 ただ、構造を構成する要素の差異が生み出した認識の相違というだけである。プルート・シュティルナーにとって、己の存在は選りすぐりの敵を惹きつけるだけの的でしかなかったことなど、アヴァンティーヌには知る由もなかった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧