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月に咲く桔梗

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第4話

 四


「高山君、四限目のホームルームで配りたいものがあるんですよ」


 頬杖をつきながら白い背景にグレーの染みを作った空を眺めている浩徳に、担任の中森が声をかけた。


「なので、始まる前に教員室の私のところに来てください」


 日直だから当たり前でしょ、という主張を込めた目を向けてくる彼の言葉に、浩徳は嫌そうに「分かりました」と答えた。

 晴れ間が見えた日が二日続いたが、ここ数日は雨こそ降らないものの太陽が照ることは無く、厚いのか薄いのか分からないような雲がいつも空を覆っていた。浩徳はと言うと、降ってないのだから自転車で登校してもいいかな、でも帰宅する時に降っていたらいやだな、と朝食のパンをかじりながら登校の仕方を思案する毎日である。結局、霧雨ぐらいであれば自転車で登校してしまうのは浩徳らしいか。

 「青山さんも連れてきてくださいね」と付け足して、中森は教室を出て行った。
 
 ため息を一つついて、浩徳が音楽プレイヤーを取り出そうと鞄の中をいじくりまわしてていると、数人の女子と談笑しながら美月が教室に入ってきた。美月はすっかりクラスに馴染んで、新たな友達も増えているようだった。取り巻きの中にはあのマドンナも入っているようである。はじめの頃は戦略的友好関係を結ぼうと息巻いていた彼女も、今や美月の美貌と性格の良さの虜となっていて、浩徳はずいぶんと感心した。

 やっとのことで音楽プレイヤーを見つけて、浩徳が愛用の黒いイヤホンを耳に着けようとしたとき、美月が声をかけてきた。


「中森先生来てたけど、なんか言ってた?」


 首を僅かに傾けて浩徳の顔を覗く。何か尋ね事をするときにたれ眉になる癖が、美月の美しさをさらに引き立たせる。浩徳は顔を僅かに赤くさせた。


「いや、特には」


 恥ずかしさを隠すためなのか、女子に重いものを運ばせるのは男の恥だと思ったからなのかは分からぬが、頭で考えていたことと正反対の言葉が口に出てしまった。


「そう。ありがとう」

 美月は微笑んで自分の席に座り、化学の教科書を取り出している。この殺戮的な笑顔に今まで何人の勇者が犠牲となったのだろうか。そんなことを考えて浩徳はイヤホンを耳に押し込んだ。

 ただ、耳にイヤホンが入っていたのはほんの数秒である。美月が肩を叩いてきたのだ。

 教室にいて肩を叩かれるなどめったにない浩徳は、突然のことでびくっとした。


「あー、ごめんね。驚かせて」


 浩徳が顔を横に向けると、美月がまたたれ眉を作ってこちらを覗いている。


「どうしたの」


「あのさ、次の中沢先生って、板書汚いでしょ」


 学園一字の汚い化学の中沢のことである。彼の板書は達筆過ぎて初心者はまず解読できない。浩徳も高一の秋も終盤あたりにようやく解読できるようになったぐらいで、過去にはパソコン部が『中沢フォント』なるものまで作ったぐらいだ。だが、彼の授業は「板書を制すれば試験を制す」とも言われるぐらい、板書がそっくりそのまま試験に出るので、高評定をもらいたい生徒にとっては美味しい授業である。


「うん。あれはちょっとね」


 浩徳が同情した顔でそう返すと、「でしょ?」と美月は非難を込めた声で頷いた。編入してきて一週間しかたっていない美月にとっては実に苦な話だ。


「だから、前回のノート、少しだけ見せてくれない?」


「お願い!」と言って美月は両掌を合わせた。やり取りを聞きつけたらしく、クラスの何処からともなく「貸してやれよ」という目線が浩徳に突き刺さってくる。中には、ノートを急いで取り出そうと鞄をひっくり返している男子もいる。


「うん。いいよ」


 美月の顔がぱっと明るくなる。


「ほんと?」


「うん。別に、減るもんじゃないし」


 この言葉に安心したらしく、彼女は「よかったあ」と強ばらせていた肩の力を抜いた。


「いや、俺そんなにいじわるじゃないよ?」


 彼女の振る舞いに慌てて浩徳が返す。周りからの視線が心なしか強くなったと感じたのだ。

 「違う違う」と言って、美月は両手を顔の前で振った。どうやら、「『授業中起きてろ』とか言うくせに、都合よくノートを借りようとしているのはおかしい」と浩徳が思っていたらどうしよう、と気に病んでいたらしい。


「じゃあ貸したくない」


 浩徳が顔をにやつかせる。


「ええー、ひどい!」


「うそうそ。貸しますよ」


「当たり前だろ」と浩徳がへらへらしながらノートを渡すと、美月は「ありがとう」と言って、怒り半分安心半分の顔で微笑んだ。周囲の目線が非難から羨望に変わったことに浩徳は気づいていなかった。


「へえー。高山君って、字きれいだねえ」


 早速写そうとノートを開いた美月が、口を丸く開けて感心している。浩徳は頭をぽりぽりと掻くと


「写し終わったら返してね」


 と、ペンを握っている美月に話しかけた。


「うん。ありがとう」


 垂れている前髪を掻き上げて破顔するうら若い娘を見て、青年が照れ隠しに見た窓の外は相変わらず曇っていた。




 四限目のホームルームが始まる前、智は演劇部顧問の立野に呼び出されて教員室にいた。


「これなんだけどさあ、新島ちゃん」


 立野はバリトン歌手に相応しい落ち着いた声でそう告げると、デスクチェアを軋ませながら体を起こして、ちまちまとノートパソコンをいじり始めた。


「えっ、『月姫納涼祭り』で演劇やるんですか」


 液晶画面に映し出されたメールの内容を見て、智が大きな声を上げる。


「そうなんだよお。やばくない?」


「これは……。やばいですね」


 今年の秋に還暦を迎える男性と背の高い好青年の会話にしては滑稽にも思えるが、この演劇のオファーはそれほど二人に衝撃を与えたのである。

 ミュージカルを披露するようになってからの十年間、演劇部は学校行事だけにとどまらず、多くの公的行事にも参加してきた。中でも『月姫町感謝祭』は、月姫町にある五つの高校から管弦楽部や吹奏楽部、軽音部が選ばれ、美しい音色を奏で競い合う芸術コンクールのようなもので、この感謝祭の名物として演劇部が毎年演劇を披露している。その評判はすこぶる良い。

 その一方で、この『月姫町納涼祭り』は名前のとおり夏に別れを告げる納涼祭りであり、芸術とは全く接点がなかったことから、二人にとっては想像もしなかったオファーなのであった。


「しかも演目に条件が合ってさあ」


「なんでしょうか」


「秋に関する演目にしてくれっていうんだよ」


「秋に関する、ですか……」


 智は自分の顎を右手でなでながら、立野のデスクに置いてあるインスタントコーヒーの小瓶に目をやっていた。


「お、新島と先生、何やってるんですか」


 背後から掛けられた声に振り向くと、中くらいの段ボール箱を二つ抱えた浩徳の姿があった。


「日直か?」


「取りに来いってさ」


 持っている箱を腕の中で軽く弾ませる。


「で、何の話してるんですか」


「演劇のオファーが来てるんだよお」


 立野が手招きをし、浩徳の持っている箱を空いているデスクの上に置かせた。


「はあ。オファーですか。どこから?」


「それがねえ、見てみなよ」


 浩徳がパソコンを覗きこむ。


「えっ、『月姫納涼祭り』ですか?」


「やばいでしょ?」


 立野が顔をにやつかせている。


「これは……。やばいですね」


 男三人がやばいというのだから、やはりやばいのだろう。


「しかもこれ、『秋に関する演目』ってあるじゃないですか」


「そうなんだよ」


 浩徳の言葉に智が間髪入れずに答える。


「新島が書くのか」


 浩徳が尋ねると、顎においていた手を外して腕を組み


「そうなるかと」


 と頷いた。


「期末試験前までに何やるか決めといてね」


「分かりました」


「さ、ホームルーム始まるから移動だ、移動」


 ノートパソコンをたたんで、立野はうなりながら立ち上がった。


「歌詞はどうしますか」


 智が問いかける。ミュージカルなのだから歌唱も取り入れるのだが、作曲と編曲を音楽科教員の立野が担当する一方で、演出家の部員はそれよりも前に歌詞を作らなくてはいけないのだ。


「んー、それも考えといて」


「分かりました。脚本も仕上げちゃいますね」


 演目の骨子の打ち合わせに立ち会ったことの無い浩徳は、あまりにもさらりとしたやり取りに拍子抜けしてしまった。


 用事を終えた二人は、三階の教室へ向かうために階段を上っていた。


「重そうだな。持つか」


「いや、中身けっこう軽い」


 こんなやり取りをしながら二人が踊り場にさしかかった時、上から駆け下りてきた女子とぶつかりそうになった。


「ごめんなさい!」


 じめついた空気をかき回すかのように、柑橘系の香りが二人の鼻をくすぐる。


「いや、大丈夫だから」


 緊張した顔で後頭部を掻きながら智がそう返すと、彼女は顔を上げた。


「あ、高山君! やっぱり用事あったじゃん」


 わずかながらの非難を交えて浩徳の持つ箱を奪おうとするのは、中森から用事について知らされた美月であった。


「ここからは私が持つよ」


「いや、もうすぐだし、いいよ」


「じゃあ、半分だけ」


 美月は上に載っている方の箱を持とうとしたが、予想したよりも重かったらしく「おっと」と軽く声を上げた。


「先行ってるね」


 そう言って階段を上がっていく美月の後姿を見ながら


「あれが噂の編入生か」


 と智は感心したような声でつぶやいた。


「美人だな」


「そりゃあ、まあ、美人だわな」


 つんとした態度で浩徳が答える。


「あの子が日直ってことは、席近いのか」


「そう、真横。おかげで授業中寝れないんだよ」


 うんざりそうな声を出す浩徳に、「緊張して、か?」と智が肩を叩く。


「ちげーよ。ノートとれってうるさいんだ」


「そいつは災難だな」


 そう言って智は手を軽く振り、B組の教室に吸い込まれていく。

 軽くなった箱を持て余しながら、浩徳も自分の教室へと向かった。



 * *



 水曜日は部活がないので、演目の原案作りも兼ねて、智は放課後を図書館棟で過ごしていた。

 学生の部活とは言え、演劇は演劇である。演者や照明、大道具など様々な仕事が各部員に付与されている。その中で最も重要かつ責任重大な役職が、『演出家』である。

 月姫学園演劇部の演出は三人の部員が担当している。内訳は、脚本や歌詞、演出原案を担当する『脚本演出』をはじめとして、舞台上での立ち回りや照明の動作を構成する『舞台演出』、音楽や衣装、各種装飾品を指定する『芸術演出』というものである。メンバーは部長の智と高一の森本直樹、中三の朝倉達矢で、彼らは演者として舞台に上がることの無い『演出専門部員』として、これらの役職を持ち回りで担当している。

 中三だからと言ってあなどるなかれ。達矢の手掛けた脚本は、登場人物の感情の揺れを強調しつつも『演劇臭さ』がそこには現れず、流暢なセリフ回しは観客の心にわだかまりなく浸透するので、気づいたときには作品の世界に引きずり込まれているという、悪魔のような脚本を書く演出家である。
 達矢が情で観客の心を鷲掴みする一方で、高一の直樹は笑いをして虜にする、『喜劇の天才』である。彼が脚本を書くときに大切にするのは、『笑いは無知と背中合わせ』という彼の座右の銘である。

 直樹は特にチャップリンが好きで、『独裁者』は彼の最愛の映画である。彼の作品では必ずと言っていいほど、現実世界の国際情勢を元に、登場人物同士の関係を描いている。「国同士のいがみ合いも、人間関係として見れば実に荒唐無稽だ」という皮肉に気づいた瞬間、ありのままに受け入れてきたひょうきんさの裏に怖気を感じ、観客は自らの無知を恥じるとともに作品に込められた真意を理解出来たことに興奮するのだ。もっとも、そのことに気づく生徒は望海のような一部の物好きしかいないので、あまりにも難解なギャグは取り入れられない。

 だが、ここが進学校の特徴のようなもので、教育熱心で政治思想にも詳しい保護者から絶大な人気を得ていて、彼が脚本を手掛ける演目を見に訪れる年齢層は、朝倉や智が書いた脚本の演目よりも二十歳ほど高いのが特徴である。もちろん、こんな演目を公的行事でやってでもすれば、教育委員会のお偉いさんからありがたいご指摘を賜るのは避けられないから、学校でしか披露する場所がないのが現実である。

 これだけ個性的、独創的な『演出専門部員』がいる中で、部長の智の脚本の特徴と言えば、『原作に忠実』という、いかにもありがちなものであった。

 けれども、この原作に忠実というのは恐ろしく難しい。あくまでも部活動であるから、見物料を払って見るような二幕構成の演劇とはわけが違い、最長でも一時間の尺で劇を構成しなくてはならない。「ドラマ一本分の時間でワンクールの内容をやれ」と言っているのと同じである。はっきり言って無茶な話ではあるのだが、智はそれをいともたやすくやってのけるのだ。

 彼は『取捨選択の神』である。どの場面やセリフを抜けばいいか、もしくは抜いてはいけないのかが潔く判断できる。これが彼の天賦の才であり、満点近い成績を現代文のテストで取るような人間の成す技なのである。

 智は『禁固三年』の生徒ではあったが、優大が演劇部に入った時には既に脚本を一つ書きあげていた。これが彼の処女作であるのだが、優大はその内容を見せられた時、何が原作であるかがすぐに分かった。少年漫画雑誌に連載されていた人気作品であったからだ。優大ははじめ、吹き出しに書かれていることをそのまま写しただけじゃないかと馬鹿にしたが、その脚本に二十話分のストーリーが詰められているというのを聞いて、あわてて本屋で単行本を買って確かめてみた。読み終えた後にまた脚本に目を通してやれば、アニメ化すればもっとかかるようなストーリーを、たった四十五分の演劇に収めているのである。「どうしたらこうなるんだ」と興味津々で尋ねると、智は鞄の中からもさっとした何かを取り出した。

 取り出したものは付箋が貼られて倍に膨れ上がった単行本であった。どのページを開いてみても感想と考察がびっしりと余白を埋めていたのだ。優大が買った物と同じ本だとは到底思えないだろう。この単行本は土下座をして智から譲り受けて以来、優大の部屋に『福音書』と称して大切に飾ってある。

 「要は、人間の記憶能力なんだよ」と、目を白黒させている優大に智は言い放った。

 彼の理論はこうである。人は小説や漫画を読むとき、どうしても断片的に読んでしまうものらしく、その理由は様々だと言う。例えば、物語が進行するにつれて次第にその世界に惹きこまれ、「早く次のストーリーが知りたい」という心理が働いて、読む速さが上がったりもすれば、難しい説明や退屈な場面では「この場面から早く抜け出したい」という心理が働いて、ついつい読み飛ばしがちになったりするらしいのだ。この二つの精神状態をうまく利用することで、原作を熟読して個々の場面を完全に記憶していない限り、観客の目を容易に欺くことができるのだと彼は語った。

 智のこの才能は、彼が小学生の頃にはすでに発揮されていた。物語のあらすじや論説文の主張をコンパクトに要約する能力は、彼の読書感想文を大いに際立たせたことだろう。

 さて、智は相変わらず図書館棟で、件の演目の原案について考えあぐねていた。

 『月姫町納涼祭り』は町内商店街から月姫神社の境内へと続く一本道に、色とりどりの提灯や装飾品を掲げ、多くの出店がここぞとばかりに軒を連ねる、夏の風物詩の一つである。残暑も終わりの色を見せ始め、さわやかな秋の香りを運ぶ風が首筋を撫でる中、温かみのある提灯が穏やかに照らす夕刻の沿道は、夏への名残惜しさを来る秋への期待へと塗り替える、幻想的な光景を見せてくれる。

 このような特色の祭りであるから、奇抜だったりウケを狙うような演目はもちろんご法度である。そして何より、お代が『秋』である。真夏の火照った体を冷やす『秋』である。智はぜひ情緒にあふれる演目にしたかった。

 紅葉の秋、食欲の秋、読書の秋、芸術の秋―――。秋を代表する物はいくらでもあるが、それをまるまる取り入れるのはいささか気が引けた。もっと味わい深い特徴はないのだろうか。


「秋に関すること、ですか?」


 一人で唸るのもなんなので、図書委員の生徒に聞くことにした。


「そうですねえ……」


 両掌をこすりながらその女子生徒は小さな声でうなっている。右胸につけられたワッペンには『副委員長 高二 岡田』と書かれていた。


「秋だったら、御月見かなあ」


「中秋の名月ですか」


 なるほどという顔をしながら智が尋ねると、掌を合わせたまま、その生徒はゆっくりと頷く。


「現代小説じゃなくてもいいんですか?」


「と、言いますと?」


 智の問いに副委員長はすっと立ち上がって、本棚の方へ小走りで向かって行った。万単位である蔵書探しに迷いのない動きに、さすがは副委員長、と智は感心した。

 カウンターの後ろの棚に整列したDVDのタイトルをじっと眺めていると、二分ほどで彼女が戻ってきた。本を二冊持っている。


「竹取物語、なんてどうでしょうか」


 彼女が智に本を差し出す。一つは薄いベージュの表紙にいばらのような紋章が描かれた本である。紋章の上には『竹取物語』と書かれていた。もう一つは現代語訳のようで、伊勢物語も収録されているようだ。

 竹取物語など、中一の頃に国語のグループ学習で触れて以来、智はその存在をすっかり忘れていた。竹から生まれた少女が男どもをフリまくって月に帰るお話、などというざっくばらんな印象しか頭になかった。


「これ、中学生の時に読むのと高校生になってから読むのと、印象が全然違うんですよ」


 声をはきはきさせて彼女が語る。


「かぐや姫の苦悩や葛藤がきれいに描写出来ると、とても面白いと思いますよ」


「そうですか……」


 副委員長の言葉に智は少しばかり頭の中で考えを巡らせた。

 衣装が大丈夫か、という問題である。竹取物語は古典文学であるので、登場人物の衣装も十二単や束帯といった平安装束である。今回の『芸術演出』は直樹に頼んでしまったから、「手芸部に土下座しろってことですか」とどやされることだろう。その辺りは「公的行事だから」の一点張りで何とかすることにしよう、と彼は決意を固めた。

 気が付けば、本を見ながら黙っている智を副委員長は心配そうに見ていた。


「別のにした方がいいですか?」


 声のトーンが少し下がっている。智は両手を小刻みに振って


「違います、違います。どんな演出にしようかなあって、考えてただけです」


 と慌てた様子で答え


「これの貸出、お願いします」


 と、二つの本をカウンターに置いた。副委員長の顔も明るさを戻して


「わかりました。期限は二週間後の二十四日です」


 と、『貸出中』のカードを本の最後のページに差し込んだ。
 
 

 
後書き
※ 誤字脱字を修正しました (9/5) 
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