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異界の王女と人狼の騎士

作者:のべら
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第四十話

「もういいでしょ、こんなの」
 我慢の限界が来たかのように王女が話しに割って入ってきた。
「漆多、これ以上グタグタ言うのはやめなさい。シュウは本当の事を言ったわ。確かにあなたに嘘をついていたことは非難されることでしょう。それから日向寧々といろいろあったことも、それを隠していたこともね。でも、彼女が如月流星に襲われた時、命がけで守ろうとしたことは本当よ。それに、お前達は親友なんでしょう。だったら信じてあげたらどうなの」

「……そんなこと信じられるか! 如月が化け物だっただって? 月人は半殺しにされただと? 如月は死体で発見されたんだろ? 化け物になっていたら警察が大騒ぎだろ? それに半殺しにされただって? ……月人は次の日には普通に登校してきたじゃないか。何処もけがなんてしてなかったぜ! 嘘ばっかり言ってるんじゃねえ、このクソガキが」
 殺意すら感じさせる眼で漆多は王女を睨み付ける。
 王女はまったくたじろぐことさえなく漆多を見下ろすと、にっこりと笑い、一歩彼に近寄った。
 刹那、王女は思いっきり漆多に平手打ちをした。乾いた、そして心地よい音が地下室に響き渡った。

 漆多はしゃがんだ姿勢から数メートル吹っ飛び、情けない声を上げながら転がり回る。

「いい加減にしなさい。……もういいわ。こんなくだらない見せ物に付き合ってられない。シュウ、もう帰りましょう。情けない奴ね。それでも男なのかしら。まったくこんな奴、助けになんか来なけりゃ良かったのよ。もう、なんで私がこんな不愉快な想いをしないといけないの。馬鹿馬鹿しい。ゲスな連中と一緒の空気を吸うだけで自分まで落ちぶれた気分になっちゃうわ。……もう、苛つくわね」
 そういうと、王女はクルリと背を向けてこの場から立ち去ろうとする。

「て、てめぇー」
 地面に這い蹲っていた漆多が唸るように叫ぶ。

「友達の言うことを信じられないような屑は、そこの変態連中と遊んでればいいのよ、馬鹿。死になさい」
 と、吐き捨てるように王女が言う。
 ドアまでたどり着くと、ノブを掴んで開けようとする。しかしドアはビクともしない。
「なによ、これ」
 押したり引っ張ったりするが反応は全くない。
 蛭町達が一斉に笑い出す。
「早く扉を開けなさい! シュウ、どうにかしなさい」
 怒った王女を見て、さらに連中が興奮する。

「もういいだろう、蛭町。わざわざ付き合ってやったんだからそろそろ俺たちに楽しませてくれないかな」
 そういってリーダー格らしい男が前に出てきた。淀んだ眼以外は至って普通の高校生という感じだ。

「うん、仕方がないね」
 と蛭町は頷くと後ろに下がった。
 男は俺のすぐ前まで近づく。思ったよりでかい。180センチは超えてる。
 ちゃんと見るには彼を見上げないといけない。

「さてと、月人君。茶番はおしまいだ。……これからはゲームだ。今から5分だけ時間を上げる。その間に君とその女の子、ついでに漆多君はできる限り俺たちから離れなければならないんだ。5分過ぎたら俺たちは追跡を始める。……そして」
 とそこで間をおいて、俺と王女を交互に見る。どうだ、これからとんでもないことを言うぞといった感じで勿体ぶる。

「ゲームの始まりだ」

「ゲームだゲームだ」

「ゲームゲーム」

「うっひょー」

「まったく、大変だね! 」

 連中が奇声を上げる。狭い地下室では音が反響してうるさい。彼らは奇妙なステップを踏んで部屋の奥へと言ったかと思うと、何かを持って帰ってきた。
 それを見たら、数日前の俺なら蒼白になっていただろう。
 鉄パイプ、木刀、日本刀、ハンマー、チェーン……どう考えても夜中に集まった高校生が持つにはふさわしくない凶器だった。

「俺たちはハンターだ。で、お前達はモンスターだ。双方戦わねばならない。……それを人は宿命と呼ぶ。狩らねば俺たちが殺される。情けは無用。これは命をかけた真剣勝負なんだ」
 興奮した口調で男が話す。

「俺たちに捕まらないように必死に逃げないといけない。そして捕まりそうになったら、命がけで戦わなければならない。俺たちは本気で君らを殺そうとするぞ。特にその女の子は間違いなく輪姦されるぞ。児童だけどそんなの関係ない。どうせ死ぬんだからな、少々酷い目にあってもそれはやむを得ないんじゃないか。がんばってくれ」
 圧倒的優位な立場にいるからか、恐ろしいまでに高圧的に語る。
 蛭町は俺のことを伝えてないのか? 知ってたらこんな態度には出られないはずだ。それよりも、蛭町はあれほど痛めつけてやったというのに、またやられるという可能性を考慮してないのか? どういうことなんだろう。

「俺たちには武器は無いのか? 」
 とりあえず聞いてみる。

 男は首を横に振った。
「モンスターが武器を持ってるなんて聞いたことがないだろ? 」

 当たり前のように言うんだなあ、こいつら。……でもまあ良かった。ちょっとは手加減してやろうと思ったけど、うん、これなら必要ないな。ボコボコにしてやろうっと。

 背後では男達が自分の獲物をそれぞれ手にして、ウオーミングアップをしている。木刀を降る音が聞こえる。鞘から抜かれる刀身の音まで聞こえてくる。

「さあ、始めようぜ! 」
 スタートスイッチを入れようとする男に、俺は少しあきれながらもお願いをした。
「漆多に服を着せてやってくれないか。手錠も拘束具も外してやってほしい。でないと逃げられない」

「ああ、良いだろう」
 男は仲間に目配せをする。一人が部屋の奥に捨てられていたコートとズボンを持ってきた。蔑みの笑みを浮かべ、衣服を漆多の足下に投げ捨てた。

「おい、漆多の手錠を外してやれよ。それから、下着とかは無いのか? 」

 一斉に連中が笑う。
「とりあえず隠せればいいだろ? よーし、カウントダウンだ」

「え、なに、そんな」
 漆多が慌てて手錠をはめられたままなのにズボンを履こうとする。足が縛られているのにズボンなんてはけるはずがない。ズボンが引っかかってそのまま後ろに転倒し後頭部を痛打した。
 ゴンという鈍い音。
 漆多は全裸のまま転倒したから、局部全開になっている。もはや性器だけでなく肛門までおっぴろげになっている。
 連中は大笑いだ。 

 俺は漆多に近づき、起こしてやった。そしてコートを彼の肩にかけた。
「触るな……」
 呟くような声で彼は俺を見た。恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらも、俺に対しては完全に心を閉ざしているかのようだ。

「さあさあ、あと4分30秒で追跡が始まるぜ」
 その大声に反応して、漆多の顔が青ざめていく。
 
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