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異界の王女と人狼の騎士

作者:のべら
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第三十八話

「さあさあ、さっさと本当の事を言えよ、しゃきっとしろ、月人、しゃきっと! 」
 蛭町の連れが低い声で笑う。面白い見せ物でも観ているようにはしゃぎ騒ぎ立てる。
 彼らは二人のやりとりを興味本位で見物していやがる。

「そ、それは……」
 掌が汗ばんでいるのを感じる。心拍数も上がっているんだろう。

「もういいでしょう? ……それくらいにしなさい。もうお前達、これ以上シュウを責めてやるな。こんな奴でも良心の呵責で苦しんでいるのが馬鹿なお前達でもわかるだろう? 十分反省してるようだ。もう勘弁してあげたらどうなの」
 さっきまで黙っていた王女が俺たちの間に割って入った。

「おうおう、金髪ちびちゃん。邪魔したらいけないだろ? 今、とってもデリケートな話の途中なんだからさあ。子供は黙っていないと。なんなら、お兄ちゃん達が向こうで遊んであげるよ。……ちびちゃん、あんた、へへへ、すげーかわいいもんな」
 外野の連中から下卑た笑いが起こる。

「下がれ劣等種が。……貴様らのような淀みきった欲望の対象になぜ私がならなければならぬというのだ。貴様らのしょぼくれたペ○スを串刺しにして電線にぶら下げて焼き殺してやろうか? 」
 一瞬、王女の瞳から炎でも吹き出したかのように、不良グループ達が圧倒され炙られたように思わず後退る。しかし、蛭町だけは下がらずに彼女を見つめる。いや睨むというほうが正しい。

「ガキは黙ってろ。お前は月人とどういう関係にあるかは知らないけど、今、俺と月人が話しているところなんだ。だから黙っていてくれ。俺には知る権利があるし、月人には喋る義務があるんだよ」
 と漆多が喚くように怒鳴る。

「あの日、日向寧々とシュウとの間に何があったか知ったところで、もはや何も変わらないだろう? なのになぜ知りたがるの、お前は」と王女。その瞳には僅かながらの哀れみと蔑みの色が滲んでいる。

「言ってあげるよ。俺と月人は小さい頃から友達だった。少なくとも俺は親友だと思っていた。……そして寧々は俺と付き合っていた。月人は俺と寧々が付き合うのを応援してくれていたし、いろいろ骨を折ってくれたんだ。そしてなんとか告白できて、彼女もOKしてくれて付き合いだしたのはほんの最近なんだぜ。毎日が楽しかったし、仲を取り持ってくれたこいつに本気で感謝していたんだ。……なのに、こいつは俺に内緒で俺の恋人と逢い引きをしていたかもしれないんだ。俺はそれが本当か知りたいんだ」

「知ったところで日向さんは生き返らないわよ。それに、もし、シュウと日向さんが男と女の関係にあったら、どうするっていうの? 」

「事実はどうだっていいんだよ。問題は月人から本当のことが聞きたいんだ。たとえ、事実は変わらないとしても」

 俺はもう黙っていられなかった。
「分かった、漆多。あのとき、俺と日向は廃校舎で会っていた。そして俺は彼女に呼び出され、もしかしたらって期待して行ったんだよ。お前の恋人だって知っていたのにね。お前に本当の事を言えなかったのは、そんな下心を持っていたことを知られたくなかったんだ。それに、全部話すよ。俺と彼女はキスをした。だから、お前を裏切っていることを認めたくなかった。それに、あんな場所に行ったために、彼女は、彼女は」
 次の言葉が出てこなかった。あんな場所に行ったために、彼女は化け物に蹂躙されて殺されてしまったんだから。でもそれは言うことができない。誰も信じてくれないから。

「ぬぬぬぬ……やっぱりか……やっぱりやっぱりか。分かった。お前がそんな男だったってことは分かったよ。許せない。許せない。……お前をどれだけぶん殴っても気が済まないかもしれない。でも、その前にお前の知っていることを教えろ。なぜ寧々は死んでしまったんだ。なぜ如月もあの校舎にいて死んでいたんだ」

「それは知らない。俺は彼女と会って少し話しただけなんだ。キス以上は何もしていない。そこで別れたんだ」

「お前馬鹿か、そんなこと信じられるかよ。別れたとしてもなんで寧々だけ残ったんだ。如月はどこから来たんだ。お前はしらないのか」

「それは……」
 それ以上の事は言えなかった。

「それはだねえ」
と、黙って聞いていた蛭町がつまらなそうな顔をしてしゃべり出す。
「警察の話によると、確かに日向寧々の口からは月人君のDNAが採取されている。残念ながら彼と日向さんはその日は性交渉が無かったようだ。それは解剖の結果で判明している。まあゴムでもつけてたら分からないけど、口内以外からは彼の体液は見つからなかった。体液ったって唾液だぞ。精液ではなかったんだ。ただ、日向さんには性交渉の痕跡はしっかりと残っていた。そしてそれは如月流星が相手だったということも判明しているそうだ。つまりは二人は、……やってたってことだ」
 こいつなんでここまで知っているんだ? 被害者のプライバシーに係わることまで警察がばらすのだろうか? ありそうでもあり、信じられなくもある。

「そんなことあり得ない。……寧々が如月なんかと」
 このことは漆多も聞いていなかったんだろう。狼狽して蛭町を見る。

「でも事実なんだから仕方がない。警察関係者が言っていたことなんだから、嘘じゃ無いと思う。確かに如月となんて信じられないけどな。……あんなチビのブサイクとね。よっぽど辛かったんじゃないの? せっかく月人君を誘い出して告白したのに、キス以上はしてくれず逃げ出しちゃったのかな。それでつい、近くにいた如月と関係を持ってしまったっていう、ちょっとした過ちなんだろう」
 知ったかぶっていう男に俺は腹が立ってきた。寧々の名誉のためにそんなことはあり得ないと否定してやりたい。でもそんな話、誰も信じてくれないだろう。

「俺は信じない。絶対に信じない。そんなことあるわけ無いよ。寧々があの寧々が興味もない奴と関係を持つなんてあり得ない。……付き合っているはずの俺にさえ、あいつはなかなか……」
 そういって突然、漆多は黙り込んだ。
「俺は彼女と付き合ってたんだ。まだそんなに経っていないったって恋人同士だったんだ。なのに最近やっとキスをした程度だったんだ。これからだったんだ。なのに、付き合ってもいない月人と廃校舎に行き、キスまでしてたんだ。寧々は……。なんでなんだ? 」

「簡単なことだぜ、それ」と、蛭町が彼の肩に手を回した。 
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