| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

珠瀬鎮守府

作者:高村
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

響ノ章
  昏睡

 
前書き
この話から姫の発言は片仮名ではなく他の登場人物と同じ平仮名になります。 

 
 姫が提督執務室のそばの部屋で寝泊まりするようになってから、鎮守府の復興作業は本格的に行われるようになった。そうなると、大型艦の艦娘はそれを手伝うようになり、小型艦も料理の類等で多忙になるようになった。艦娘が、至る所に行くようになった。だからこそ、それは起きてしまった事故だった。



 その日、夕食の時間に顔を出さない提督と、顔を出せない姫の為に、私は両手に夕食を持って執務室に向かっていた。
「何で深海棲鬼が!」
 階段を登り、二人の部屋の入り口が見える場所になった時に、その声に気づいた。姫のものでもなく、提督のものでもない。もっと言えば、姫の事を知っている者の声ではない。私は食事を床に置いて、大急ぎで部屋に向かった。こちらであってくれと願いながら執務室を開けるが、蛻の殻だった。
「死ね!」
 後ろの、姫の部屋からそれは聞こえた。急いで姫の部屋の扉を開け放つと、其処には棒立ちの姫と、床に伏した提督、そしてその上に伸し掛かる艦娘……三日月の姿があった。
「三日月何してるの!」
 三日月は声を上げた私を振り返る。その顔は、困惑を浮かべていた。
「提督が、提督が……私のせいで」
「早く其処から退けて!」
「違うの、わざとじゃない、違う」
「早く退けてやれ」
 姫が口に出した瞬間に、三日月は絶叫した。
「いや、来ないで、いや、いやぁ!」
 三日月は提督の上から退けると、そのまま走って此方を過ぎ、廊下を走っていった。
「三日月!」
 廊下に出て叫ぶが、三日月は止まらない。そうして階段の付近まで彼女が近づいた時、三日月は転んだ。私がさっき床に置いた夕食に躓いたせいだった。床に転んだ三日月は転がり、勢いが収まらぬまま壁に激突した。
「え……」
 激突した三日月は、動き出さない。
「嘘、え、え、え」
 廊下と室内を交互に見ながら、私は焦り困惑する。今同時に二人意識がない、どうする、どうする。
「廊下の奴の元へ向かえ。提督は私が見る」
 姫が室内からそう助言する。だが、提督を姫に見させるのか? しかし姫を三日月の元へ向かわせた場合、また他の艦娘に見られる可能性がある。
「迷っている場合か」
 姫の言葉を受け、私は三日月の元へと走った。近寄り、倒れた彼女の姿を見る。転がり前頭部を壁に叩きつけたのだろう。私は壁に寄りかかったままの彼女の体と首を保持し、ゆっくりと壁から離した。鼻や顎は大丈夫。額は……青くなっているが陥没している様子はない。そのままゆっくり床に横たえる。首が折れている様子もなかった。呼吸音も確認する。とりあえずは、即死したわけではないようだ。一先ず安堵の息を吐く。
「意識がないのか、あまり悠長にしていられん。早く救護できる人間を呼んでこい」
 いつの間に背後に居たのか、倒れたままの三日月を見て姫はそう言った。
「でも、提督は?」
「提督は意識がある。だがお前が提督を見に行く暇はないぞ。そいつは気絶しているということは最低でも脳震盪。他にも何か併発している可能性は否定出来ない。早くしろ。勿論提督も運べる数の人員を呼ぶんだ」
 私はその言葉に頷いて、医師がいる病院まで駆けた。怪我人二人を姫の元に置いて行く、そんな事態になってしまっていたと反省するのは、病院に二人を担ぎ込んだ後だった。



 私がその日、警備課から開放されたのは日付を超えた後だった。提督の負傷及び艦娘一名の外傷による気絶。私はそれの事情聴取だった。提督は意識があったので私への口裏合わせ等をどさくさ紛れに指示してくれたのでそれに従った。姫を知る隊長も取り調べの場に顔を出したので、取り調べ自体は直ぐに終わった。余り早く返しても不審がられるということで、中で待たされる事となったのだ。
 私はその日、もう夜が遅いということでそのまま天幕へと向かった。中では既に不知火が寝ており、私は音を立てぬよう注意して寝袋に入り、就寝した。
 翌日、朝一番に提督執務室へと向かう。提督は既に退院し其処に居た。
「提督、お怪我はもう大丈夫なのですか」
「ああ。後頭部をぶつけただけだからな。それより三日月だ。今朝意識を取り戻したが、記憶障害が見られるらしい。事件当時の事は覚えていない、と。病態の悪化は殆ど懸念しなくて良いようだが、姫の存在を下手に思い出されて何か言われると困る」
「そういえば、昨夜のあれは」
「三日月が、私に夕食を持ってきてくれたようだった。執務室に私はいなかったし、姫の部屋から声がするからと、恐らくあの部屋に入ってきたのだろう。そこで、姫を見つけた。あんまりも衝撃的だったのだろう、私のことは見えてないように姫へと走り寄った。私は咄嗟に進路上に立ったが、突っ込まれて体勢を崩してな、そのまま床へ頭をぶつけた、という具合だ」
 三日月の激昂。それは、考えられなかった話ではない。その場で鹵獲し、また十分な冷静さも持つ第四艦隊と木曾。重巡洋艦を楽にするため介錯を行った警備隊隊長。そうして、地上戦で空母を殺し、人を殺したかのようだと思った私。姫を知るものは、誰しもが姫に冷静さを持って会った。だが、普通の艦娘からしたら……姫は、深海棲鬼とは、殺し合う敵。先日柏木提督を殺した奴ら、そういう認識なのだろう。
「予測は出来たが、認識も対策も甘かった。多忙は言い訳にならん。以降はこの手の問題を起こさないようにしなければな」
「三日月は、どういった処分になるのです」
「今回の件は、三日月には殆ど責任が行かない。問題は姫と会った事だ。思い出した時、見間違いで済まされんだろう。今は病室前で伊勢達が交代で見張っているが、どうしたものか」
 第四艦隊は姫と三日月どちらも気にかけなくてはいけないらしい。皆復興で忙しいが、恐らく復興とは関係ないところで一番忙しいのではなかろうか。
「内地へ飛ばす……戦闘後遺症と今回の記憶障害を使えば十分可能だ。だが……」
 言い淀む白木提督。そりゃそうだ。確かに厄介な存在となったが、それでもそんな評価を与えた上で内地に送るのはあんまりだ。
「快復した三日月を、どうにかして説得するしかあるまい」
「そうですね」
 私もそれくらいしか対策は思い浮かばなかない。その後、私は目の下に隈を湛えた伊勢達と三日月の監視を交代した。第四艦隊は本当に多忙のようだ。いつか、倒れる人が出るんじゃないだろうか。



「あっつい……」
 その言葉ひとつひとつに濁点がついているような声で伊勢は呟く。そう呟きたくなる気持ちは私も大いに分かった。
 三日月の事件からまた数日経った後、私達は姫の風呂当番だった。あの日以降姫の警備はより厳しくなり、今直接監視しているのは伊勢と私。その他に風呂場の外に提督が居るそう、外に。私達は湯気が満ちた風呂場の中、服を来て此処にいる。
「睡眠時間の減少に加えて茹だるような熱帯夜。更には風呂場で服を来て姫の警備と……私、終いには倒れるんじゃないかしら」
「そうは言っても、三日月みたいな事件を出すわけにもいかないよ」
「わかっちゃ居るんだけどね……人手が少ないのよ、もう」
 幾らかご機嫌斜めな様子の伊勢。先日も眠気と闘いながら夜通し三日月の監視をしていたようだし、私からも伊勢たちの休暇を進言しておこう。
「なぁ、ずっと気になっているのだが」
 そんな私達を見て、姫は口を開いた。
「何、どうしたの」
「お前たちは、私を恨み、殺そうとせんのか。三日月とやらのように」
「上官命令に従うまでよ」
 黙ったままの姫に対して、伊勢は堪忍したように言葉を続けた。
「全く……嘘よ、嘘。本当はね、ただ単にあんたを殺したくないだけよ」
「何故」
「あんたは何故私達を攻撃しないのよ」
「攻撃すれば死ぬからな」
「嘘おっしゃい。やる気ならさっさと提督ぶっ殺してるでしょあんた」
 先程までの苛つきを引きずっているのか、伊勢は酷く口が悪かった。
「……お前達が襲ってこなければ私は戦わない」
「そういうことよ。今こうして話して、見た目も殆ど同じでさ……殺しにくい」
「捕虜、そういう考え方は人間同士で行うものと記憶しているが」
「そうだと私も思っていたんだけどねー。ほんとはさ、貴方を初めて見た時、このまま海に沈めようかと思ったんだ」
 その告白に私は固まるが、姫はなんとも思っていないのか続きを促す。
「けどさ。木曾と話してるあなたを見て、やめといた。その時ね、貴方達を見て、ただ言葉を交わしている人間のような錯覚さえ覚えた。私は、人を殺せない」
「私は人ではないぞ」
「貴方が言ったそうじゃない。この人格は嘗ての記憶の一部と。その手は確かに血に濡れているかもしれないけど、その人格は嘗ての仲間、今はそう思って接しているわ。だから、この考えが変わらないような身の振り方をして欲しいわね」
「では、他の深海棲鬼はどうするのだ」
「……殺すわよ。その手が新たな血を、同胞を求めるならば、私はその鬼を殺す」
「害意、それによってお前は人と鬼を分けるのか」
「もっと単純よ。私は私に優しい人には善意で応え、私に害を齎す者には砲を向ける。それだけ」
 伊勢の言葉に納得したのか、姫は一度口を閉ざした。
「貴方はどうなの?」
「私も、そういう事だ。害意を向けられなければどうもない」
「そ」
 伊勢は素っ気のない返事を返す。
「お前はどうなのだ、響」
 突然に話を振られる。私は、私なりの考えを話した。
「恨む、か。私はそもそも深海棲鬼を恨んだことはないね」
「どういう事だ」
 意味を理解しかねるのか、姫は尋ねる。
「私は、沢山の仲間を失った。きっと、この鎮守府の中でもそれは一入(ひとしお)だろう。けどね、私は恨まなかったよ。戦い始めた頃から知っていたからね、貴方達が嘗ての仲間と」
 伊隅に居た頃、皆に伝えられていた真実。戦闘が行われるたびにやってくるのは嘗ての仲間だ。もう私達の言葉には砲弾という返答しか返さない鬼となったが。
「恨めっこない。私は嘗ての仲間と戦ったら生きている。こんな言い方したくはないし、齟齬があるけど、深海棲鬼になってしまった仲間が居たから私は今生きている」
 言い換えるならば、死んだ仲間が居たから私は今生きている。それは、紛れも無い事実だから。
「戦うのは二人と一緒さ。殺そうとしてくるから殺した。けど、私を助けてくれた人が私を殺しに来るんだよ。敵意はあれど怨嗟は抱けなかった。だけれど、私は容赦しなかった。戦闘に於いて考える時間はなかったからね。同時に、例え嘗ての仲間でも、殺すのがせめてのももの手向けと私は信じていたよ」
 伊勢は、私の言葉を聞いて悲しそうな顔をした。
「貴方……そんな事を思いながら戦ってきたのね。私には、無理かな。勿論敵が来たら戦う。けど、深海棲鬼が嘗ての同胞だと知った今は、きっと、その手は鈍ってしまう」
「心配するな、伊勢よ。もう皆何も覚えてはおらん。肉体ももう別物と提督は言っていた。それは既に別の誰か、別の何かと言っても過言ではない。それに……手向けか、お前もそう思えば良かろう」
「貴方、何故味方を殺せというのよ」
 それは私も疑問だった。姫は、どちらかというと艦娘に同情的だ。あの場で味方全員を目の前で殺されたのにも関わらず。
「お前たちにとって私が嘗ての仲間であると同様に、私にとってもお前たちは嘗ての仲間だ。それに、鬼の中で私は孤立していた。私にとって重要なのは繁栄でも勝利でもない。生き延びる事だったからな。あの日、私は攻勢に参加させられていた。恐らくはお前たちに殺させるつもりだったのだろう。木曾は確かに鬼神めいていた。だが、味方は明らかに本気ではなかった……私への吶喊を望んでいるようにも思えた。木曾の為に言っておくが、仲間が本気を出していたとしても木曾の吶喊を止められなかっただろう。だがしかしあの日は、味方は私を殺すつもりだった」
 木曾はあの日、確か魚雷を片方残したままだった。もしあれを全弾食らえば、如何な船だろうが轟沈は免れまい。そうして、旗艦を魚雷の脅威から守るはずの味方は本気を出さなかった。
 もし本当にそうだとしたら、あの日この姫は何を思って木曾と対峙したのか。
「お前たちの言葉を借りるなら、見た目も中身も変わらなければ、私を邪魔だと処分するような仲間より、扱いに困りつつも許容してくれるあの提督の元のほうがずっといい」
 鎮守府ではなく、提督の元、か。確かに三日月は姫を拒絶していたし、恐らく他にも、姫の存在を認識すれば問答無用で殺しにかかる者もいるに違いない。
「だからな、私の前で鬼の事を兎角言おうが、私は大して何も感じぬ。そうして、何故お前達が鬼の私よりも何かを感じているのか」
「そうは言っても、そう簡単には踏ん切りが付かないものなのよ……よし」
 伊勢はそういうと蛇口の元まで移動し、桶に水を注いだ。それを、頭に被る。
「くぅー、さっぱりした。うん、大丈夫ね。自分がやるべきことはやれる気がしてきたわ。やっぱり暑かったのが駄目だったのよ、うん」
 伊勢は言う。私達を振り返らぬまま。まるで、自身に言い聞かせるように。
「暑いか。そろそろ上がるか。私も体を洗い終えている」
「いいのいいの湯船に突っ込みなさい。なんか、ずぶ濡れになったことだし細かいことはもうどうでもいいわ。折角だし休憩がてら長湯してもらったほうが今は助かる」
 私は、まだ暑いんだけれども。
「響もどう、さっぱりするわよ」
「こんな夜中に浴場の前で見張りしてる提督の事も、偶には思い出してあげようよ」
 艦娘がここの近くを通ればこんな夜中に灯りがついていていれば何事かと思うだろう。中に入ってこないように提督はいるのだが、それでも気まずい事だろう。
「あー。けど提督がここで姫囲うって言ってるし責任も持つと言ってる。もう少し頑張ってもらおう」
「けど……」
「提督と代わるってわけにもいかないでしょ」
 そりゃそうだ。姫とはいえ女型。見せるのは互いのために良くない。
「私は構わんぞ。誠意を見せると言ったのだ。この場に来ても堂々としていると信じよう」
「ちょっと、あんた本気」
「冗談だ。だが、あの男も暇だろうし私は上がる。伊勢にはすまんがな」
「ま、いいわ。それじゃ上がりましょうか」
 私は一度提督を見てくると二人に声をかけて更衣室を抜けて通路へ出る。提督は、壁に寄りかかって立っていた。
「提督、もう上がるよ。あと少し待っててね」
 提督は返事をしなかった。長くなってしまったので、伊勢のように機嫌が悪いのかと思ってそのまま二人の元へ戻る。姫に予め渡しておいた新調した服に着替えている間、手持ち無沙汰に待つ。伊勢と言えば先程自ら濡れてしまったので頭を拭いていた。この後で伊勢と私は風呂に入る予定なので、特に困ったことはないだろう。後は姫を部屋まで連れて行って任務は終わり。三日月の監視は日向達の役目だ。
「行こうか」
 着替え終わった姫が言う。服は街まで買いに行けなかった為、空母用の和服だ。姫の黒い長髪にあっているのだから何とも不思議な感じがする。
「響?」
「うん、行こうか」
 姫に返答して、彼女達の後に続く。廊下に出たところで提督が居た。提督は先程見た時と、一寸も位置が変わっていなかった。そのことに僅かに疑問が浮かんだ。
「提督、行きましょう」
 伊勢の言葉に返答はない。そうして、動こうとする気配すら見えなかった。
「提督?」
「おい」
 姫が提督の肩を揺らす。提督はそれで膝から崩れ落ちた。立っていたのではない、ただ単に寄りかかっていただけだったのだ。姫は倒れかかる提督を何とか抱きとめる。頭部を床に叩きつける自体はそれで何とか回避した。姫はゆっくりと提督を床に横たえる。瞼は落ち、意識はないようだった。
「おい、おい」
 姫が肩を揺らすが反応を返さない。姫は言葉を掛けるのをやめ提督の頬を平手打ちした。独特の音に、不謹慎にも一瞬小気味良い音と思ってしまった。
「ちょっと」
 焦る伊勢を振り返らず、姫は間を置いてもう一度頬を叩いた。よく見れば提督はそれに対して顔に手を持ってきた。
「ふむ、痛みに反応するが、先倒れるときには殆ど反応がなかった。昏睡しているのやもしれぬ。こいつも病院に運んでやれ」
 私はまた返事をして病院へ向け駆け出す。なんでこう、戦闘もないのに病院送りが続出するのだろうか。
「何なのよもー!」
 後ろ手に伊勢の叫び声を聞きながら、私は病院へと急いだ。 
 

 
後書き
姫編から平仮名にする予定だった。時間があれば片仮名にするのかもしれない。既に筆者の中では最多文字数作品で一杯一杯です。
オリジナルを書こうと思ってるけど艦これ完結させてからになるか先に始めるかがどうなるかがわからないんです。完結させる気力が保つか否か。保たなかったらどんまい私。けど終わり際まで話は進んでいる(気がする)から終わらせられればいいと思います。アイマスのほうは書き終わってから投稿したけどそうしたほうがいいのか悩んだりしています。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧