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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ハメツノヒカリ編
  ターン32 光の結社とアカデミアー1F-

 
前書き
唐突に2期クライマックス。あと数話ほど清明の出番はないです。
 

 
「霧の王で攻撃、ミスト・ストラングル!」
「うおおおおっ!」

 高野 LP1200→0

 ライフの全てを失い、その場に崩れ落ちる中野、野中の連れだった3人衆最後の1人、高野。はい、一丁あがりっと。そのまま先に進もうとする僕らに、後ろから質問が飛ぶ。よっぽど混乱しているのか、ほとんど叫ぶような声音だった。

「なんだよ、いったい何しに来たんだよ!?」
「……殴り込み、さ」

 その問いに、たった一言で返事する。他に聞きたいこともなさそうだったので、それを最後に振り向かず、僕らはホワイト寮の門をくぐった。
 ところで、なぜ今こんなことになっているのかには、少しばかり時間をさかのぼらなければならない。具体的には、グレイドルの力を得てエド相手にも水入りになるまで粘れるようになった日の夜に戻る。





「ねえ皆、今から暇?暇ならちょっと付き合ってほしいんだけど」
「ん?どっか行くのか?」
「どうせここにいてももう寝るだけだ、どうしてもと言うなら乗ってやらんこともない」

 相変わらずふさぎ込んだ翔の部屋に食事を運んでから、他のメンバーと一緒に食堂で夜ご飯を食べる。その途中、ふと思いついたというように聞いてみた。とりあえず話の掴みが良好なのを確かめ、ならばと一気に本題に入る。

「光の結社にね、殴り込みをかけようかと」
「え?えっと、殴り込みって……俺たちがか?」
「まーね」

 できる限りかるーく言ったつもりだったが、それでもやはりそのまま流すには無理のある話だったようだ。

「ど、どうする万丈目、清明の奴だいぶため込んでたみたいだぞ」
「ああ、こんなこと言いだすまで思い詰めてたとはな」
「お2人さん、聞こえてるよー。ったく失礼だね。だいたい、この夕飯の時点で何か思わなかったの?」
「何かって……このトンカツがか?」
「せっかくゲン担ぎだけのために奮発していい豚肉トメさんから買ったってのに。グラムいくらする肉だと思ってんのさ」

 熱弁するも、料理に縁のないこのメンバーに食費の話をしても今一つピンとこないらしい。思ったより反応が薄いのに多少がっかりしつつも、どうにか気を取り直して説得の続きに当たる。トンカツ云々はあくまでついでにすぎない。値段的にはついでどころかメインだけど。

「まあ、それはいいとして。僕が今夜決行にしようと思ったのには他にもわけがあるのさ。エド・フェニックスだよ」
「エドが?今日、エドと会ったのか?」
「会ったどころかデュエルもしたよ。まだギリギリ負けてない。それでエドなんだけど、実は今日……」

 エドの考えや、何をしているのかといったことをここで一気に話す。さすがに本人の許可もとってないのにBloo-Dについてペラペラ喋るのは失礼なんてレベルじゃないのであくまで新しいカードを手に入れた、程度の言い方にとどめておいたけど。

「……とまあ、こんな感じかね。だから今日はずっと何か起きないかと思って待ってたんだけど、この様子だとエドも駄目だったみたいだし」
「ちょ、ちょっと待てよ。そんな大事なことなら、俺たちに教えてくれたってよかったじゃないか」

 あ、そーゆーこと言っちゃうんだ。だったらこっちにも言いたいことはある。

「こう言っちゃ悪いけど、お互い様さ。何があったかあえて聞く気はないけど、十代も今日は何かやってたんでしょ?それもかなりの大事を。もう長いこと暮らしてんだから、そんなの嫌でもわかるって」

 まったく、まさかばれてないとでも思ってたんだろうか。赤の他人ならいざ知らず、毎日嫌でも会うことになる僕に隠し事なんて通用しないってのに。

「う。……実は今日お前が出発してからミズガルド王国のリンドさんって人が来てその人が教えてくれたんだけどよ」

 オージーン王子。レーザー衛星『ソーラ』。そしてその鍵を、今は十代が持っている。なんたることだ、スケールが大きすぎてなるほどね、としか言いようがない。斎王め、ただのデュエルモンスターズが強い宗教の教祖かと思ってたら、随分ととんでもない話になったものだ。

「悪い、黙ってて。でも、これで俺が知ってることは全部だ」
「いやいや、こっちこそ何も言わなくてごめん。でも、だったらなおさら急がないと。せっかく人生貰ったのに、自分勝手に世界ごと終わらせられたらいい迷惑だ」

 僕がいま生きているのは、チャクチャルさんに死の淵から引っ張り上げてもらったから。このことは常々感謝してるし、だからこそ胸張っていけるような生き方をしたい。少なくともここまで聞かされてまだ動かないようじゃ、僕はこの先後悔するに決まってる。
 ……いや、そうじゃない。そこで思い直した、後悔ならもうしているか、と。もとはといえば今日、僕はエドが勝つって最後まで信じたくて、そのせいで今日の昼にでも突撃すればいいところをこんな時間まで引き延ばしたんだ。もっと早く行けばあるいはエドと合流することだってできただろうし、少なくとも今みたいにエドの安否すら不明なんて状況にはならなかったはずだ。たとえ本人が嫌がったって、1発ぶん殴ってでも単独行動をさせないべきだったのかもしれない。

『マスター、兵は拙速より巧遅を尊ぶ、という言葉が古代中国にはあってだな。例え一手や二手遅れたとしても、その分正しい戦法を選ぶことが勝利に繋がる、といった意味だ。今やるべきは迷うことより、本当にすべきことを見極めることだ』

 思考が1人でどんどんネガティブな方向に向かっていくのを見計らったようなタイミングでかけられた、チャクチャルさんなりに気を使ってくれたのであろう言葉が、ただ有難かった。それのおかげでどうにか気持ちを取り直し、改めて目の前の2人に聞き直す。

「……それで、どうする?無理強いする気はないよ」
「俺らが断ったら、お前1人でも行くつもりなんだろ?俺はもちろん行くぜ」
「まあ、ノース校の奴らを鍛え上げたのはこの俺だからな。もう1回ぐらいは面倒を見てやるさ。それに、天井院君とおまけに三沢を光の結社に引き込んだのも俺だから、その責任も取る。最後に、斎王には俺も1度は負けてしまった身だ。その借りを返さないうちは、俺のプライドが許さん」
「十代、万丈目。ありがとう。これで6人か」

 今の校内で光の結社を問題視している数少ないこの2人も味方になってくれれば、こちらとしても心強い。ほっと一安心だ。

「ん?ちょ、ちょっと待て。6人?俺と十代、それにお前がいて……あと3人はどこから出てきたんだ?」
「ああ、それは……」

 まだそのことを言ってなかったことに気が付いて、説明しようと口を開く。だけど結果的に、その必要はなかったようだ。

「清明せんぱーい、来たザウルスー!」
「清明、もう準備できたよ、ってさ」
「もう痛みもないし、いつでも大丈夫ッス!」

 そんな声とともに、1階のドアがノックされる。まるで様子をうかがっていたかのようにピッタリのタイミングできたそれを無言で指し示し、にやりと笑って見せる。

「当然、みんな知ってるいつものメンバーさ。おーい、こっちは2人とも来てくれるっていうから、ぼちぼち行こうかー!」

 叫び返す僕を見て微妙に複雑そうに顔を見合わせ、それから同時に吹き出した2人の様子が印象的だった。そこから先の様子は、特に語るべき点はない。さすがに深夜になってまで見張りを置いているわけもなく、固く閉じられた門もこうなってはただの障害物でしかなかった。そこでたまたま出会った高野に逃げられる前にデュエルを挑み、とっとと倒したうえで現在に戻るというわけだ。何かと急な話ではあるけど、人数で圧倒的に劣るこちらに勝ち目があるとすれば最短ルートでの電撃作戦で一気に敵の頭、つまり斎王を叩くしかないため仕方がない。今の音は誰にも気づかれてないはずだけど急いでいこう、ハリーハリー。

「万丈目!斎王の部屋までの近道とかってないの?」

 元ブルー生であり、つい先日まで光の結社の一員でもあった万丈目に、ふと思いついてダメもとで聞いてみる。走りながらしばらく思案していた万丈目だったが、やがて首を横に振った。

「斎王の部屋は複雑な場所、というか隠し部屋だからな。非常口の類もないはずだ。なあに、このまま進めばすぐに斎王の部屋の前につく。その部屋の中に隠し通路が仕掛けてあるだけだ………む、あれは!?」
「……明日香、こんな時間まで起きてたら肌が荒れるよ、だってさ」

 万丈目がその人物に気づくとほぼ同時に、たまたま先頭にいた夢想が彼女に固い声で話しかける。にこりともせずに壁に寄りかかり、腕組みをして僕らの前に立ちはだかったのは、天上院明日香。まずいな、彼女の実力はここにいる皆がよく知っている。さっきの高野のように、素早く倒していけるような相手ではない。

「あら、こんな夜中にアポも取らずに人の寮に入り込んで、随分とご挨拶ね夢想。貴方達を斎王様のところには行かせはしないわ」

 アカデミアの女王とまで言われる彼女の、そのさすがの気迫を前に気圧されていると、その沈黙を破ってずい、と黒い影が一歩前に出た。彼の名前を呼ぶより前に、何かを決意したような声音で万丈目が静かに口を開く。

「行け、お前ら。天上院君を光の結社に入れたのは俺だ、俺がどうにかする」
「あらあら、誰かと思えば裏切り者の万丈目君じゃないの。嘆かわしいことね、斎王様も貴方のことは評価していらしたのに」
「その結果が今の俺なら、斎王の予知とやらも底が知れるな。もっとも、昔の俺は実際そうだったんだろうが」

 明日香の皮肉に間髪入れずの嫌味で返してもう話すことはないとデュエルディスクを構えると、明日香もそれを見てゾッとするような冷たい笑みを浮かべ、特別製と思しき自身の純白のデュエルディスクを起動する。まだためらっている僕らを見かねたように、万丈目がもう1度僕の方へ振り返った。

「さあ行け、お前ら。この通路が一番の近道なだけで、この広い寮には他にも道はある」
「万丈目……やっぱり僕も残って」
「いいから早くしろ!天上院君がここにいるということは、おそらく俺たちの奇襲は筒抜けということだ。だったらこれ以上雑魚が集まってくる前に、なんとかして斎王とのタイマンに持ち込むんだ!」
「でも」
「でももしかしもない!それにな、清明。お前なら俺の気持ちがわかるはずだ」

 いきなり何を言い出すんだろうと一瞬黙ると、万丈目はこれまで見たことがないほど真剣な面持ちになった。

「これは師匠の受け売りだがな。惚れた女のために戦うのが、漢の道というものだ。お前が俺の立場なら、俺と同じ道を選ぶはずだ」

 そう言われ、今の万丈目を僕に、明日香を夢想に置き換えて想像する。そう考えると、決断は早かった。

「……わかった。皆、こっち!万丈目、勝ったら連絡してよ!」





 今来た道を引き返す清明たちをゆっくり見送る暇もなく、万丈目は再び目の前の敵と向かい合った。彼女が他の皆を止めようとしないということは、最初から明日香は万丈目ただ1人を狙い撃つために配置されたのだろう。彼女ならば万丈目を倒すことができると。そこまで察していながら、それでもあえて彼はここに残った。
 無論、先ほど言ったように責任を感じているというのもある。恋心も否定はしない。だがもう1つ、彼のプライドが自分以外の助太刀を許さなかった。斎王の掌の上で遊ばれたあげく手駒にされたあの苦い敗北。その記憶が彼の高いプライドに火をつけ、あえて相手の策に乗って1対1でデュエルしたうえで正面から勝利するという発想に行きついたのだ。

「デュエルだ。行くぞ、お前たち!」
『『『えい、えい、おー!』』』

 緊張感のかけらも感じられないおジャマ3兄弟の腑抜けた掛け声をバックに、デュエルディスクにデッキを差し込む。自動的にオートシャッフル機能が働いてシャッフルされたデッキの上から5枚が初期手札として排出され、それを右手で引き抜いてばっと開く。

「「デュエル!」」

 先攻は、万丈目。明日香のデッキは確か、光の結社に入ってから少し改造されたはずだ。そのことは辛うじて覚えているが、具体的にどのようなデッキになったのかは皆目思い出せない。

「いくぞ、仮面竜(マスクド・ドラゴン)を召喚、攻撃表示だ」

 万丈目の数あるデッキの中でもアームド・ドラゴンを軸とするパターンにおいて常に前線でさまざまな立ち回りを見せる、仮面をかぶったような風貌のドラゴン。

 仮面竜 攻1400

「さらに永続魔法、ワンダー・バルーンを発動」

 万丈目の目の前に配置された、怪しげな箱。その蓋が勢いよく開くと、中から大量の風船が湧きあがった。

「このカードは俺の手札を任意の枚数捨てることでバルーンカウンターを乗せ、君のモンスターの攻撃力はそのカウンター1つにつき300ポイント下がっていく。このターンは1枚捨てる」

 ワンダー・バルーン(0)→(1)

「そして今捨てたカード、おジャマジックの効果発動。このカードが墓地に送られた時、デッキからおジャマ・イエロー、ブラック、グリーンを1体ずつ手札に加える。カードを伏せ、これでターンエンドだ」
「私のターン、ドロー!魔法カード、予想GUY(ガイ)を発動!このカードは自分フィールドにモンスターが存在しない時、デッキからレベル4以下の通常モンスター1体を場に出せる。舞いなさい、ブレード・スケーター!」

 ブレード・スケーター 攻1500→1200

「ブレード・スケーター……」

 何の変哲もない通常モンスターの1体だが、明日香がプリマモンスターとして好んで使うモンスター。精霊が見える万丈目の目だからなのか、それとも自分の意思が見せた思い込みなのか。彼には、純白の舞台で華麗に舞うその姿も、どこか沈んだ表情に見えた。

「そして魔法カード、トレード・インを発動。手札のレベル8モンスター、氷の女王を捨てることでデッキからカードを2枚ドローするわ」

 氷の女王という聞きなれない、少なくともこれまでの彼女のデッキには入っていなかったモンスターをコストにしての手札交換。妨害の札はなく、万丈目がただ見ている間にも着々と彼女の舞台は進行していく。

「永続魔法、異次元海溝を発動。このカードは発動時に手札・場・墓地いずれかの水属性モンスターをゲームから除外し、このカードが破壊された際に除外したモンスターを特殊召喚するわ。さて、そろそろ始めようかしら。フィールドのブレード・スケーターをリリースし、アドバンス召喚!貴女のショーの始まりよ、サイバー・プリマ!」

 サイバー・プリマ 攻2300

 ブレード・スケーターが一礼したのち光に包まれ、消えていったその場所に新たなプリマがエントリーする。その効果を知っている万丈目は、次に何が起きるのかを察して自分の表情が硬くなっていくのを感じた。

「サイバー・プリマがアドバンス召喚に成功した時、フィールドの魔法カードはすべて破壊される………貴方のワンダー・バルーンは破壊されたらそれきりだけど、私の異次元海溝は破壊された時に真の能力を発揮するのよ。おいでなさい、氷の女王!」

 氷の女王 攻2900

 雪の結晶を模した杖を持つ、文字通り雪のように色白の最上級魔法使い。以前よりもはるかに実力を増した彼女を前に、ようやく万丈目も思い出した。彼女が光の結社に入ってから見つけた自分なりのデッキへの答えは、水属性を中心とした【魔法使い族】。同じ水属性でありながらも清明の使う【水属性】とは一味も二味も違う動きを可能とした厄介なデッキである。

「……ん?」

 だがそこで、万丈目は氷の女王に漂うかすかな違和感に気が付いた。何かモンスターの全身から、イラストにはない白い靄のようなオーラのようなものが立ち上っているような。それだけでなく、明日香のデュエルディスクに置かれたカード自体も周りの壁とデュエルディスクの色に同化して見づらいがうすぼんやりと光っているように見えた。その違和感を基に、彼は自分が光の結社を抜けてすぐに清明から聞いた話を思い出す。デュエルの最中に光っているカードがあり、そのカードを通じて斎王の洗脳は届いているらしいと。要するにあのカードに気を付けていればいいのだな、と気合を入れ直したところで、氷の女王がその杖を振り上げる。

「バトルよ!氷の女王で仮面竜に攻撃、コールド・ブリザード!」

 氷の女王 攻2900→仮面竜 攻1400(破壊)
 万丈目 LP4000→2500

「くっ……だが、仮面竜はリクルーターだ。戦闘破壊されたことにより、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族を1体特殊召喚することができる。俺はこの効果で、2体目の仮面竜を攻撃表示で場に出す!」

 仮面竜 攻1400

「なら、サイバー・プリマで攻撃……すると思ったかしら?そんなことをしたら、アームド・ドラゴンのレベルアップコンボを手助けするだけになるものね。これでターンエンドよ」

 明日香の言葉に心中で舌打ちしながらも、同時にその冷静で的確な判断力に舌を巻く万丈目。このアカデミアのレベルで並み程度のデュエリストであれば、ダメージを優先しあの局面で追撃を行っても不思議ではなかった。実際万丈目自身も、明日香が指摘したように多少のダメージは覚悟の上でアームド・ドラゴンを呼び、レベルアップを披露するつもりだったのだ。だが、彼とて1つの戦法が駄目になったからといってへこたれるようなデュエリストではない。次に繋げるための布石は、前のターンに既に打ってあるのだ。

 万丈目 LP2500 手札:5
モンスター:仮面竜(守)
魔法・罠:1(伏せ)
 明日香 LP4000 手札:3
モンスター:氷の女王(攻)
      サイバー・プリマ(攻)
魔法・罠:なし

「俺のターン、ドロー。魔法カード、打ち出の小槌を発動!このカードは手札から任意の枚数だけカードをデッキに戻し、戻した数だけドローする。俺は当然、おジャマ3兄弟をデッキに戻し3枚ドローを行う」
『ちょ、万丈目のアニキ!?』
『アタイらの出番ってこれだけなの!?』
『そんなのないぜ~!』

 何かゴチャゴチャとうるさいのをきっぱりと無視し、必死で抵抗しようとするのを力づくで、半ばデッキにねじ込むようにしながら戻す。オートシャッフルを待ち、3枚のカードを引いた。

「このカードは……よし、俺はモンスターをセットし、さらにカードを1枚伏せてターンエンドだ」
「防戦一方のようね?私のターン、ドロー。魔法カード、強欲なウツボを発動。手札の水属性モンスター2体、アイス・ブリザード・マスターとブリザード・プリンセスをデッキに戻して3枚ドロー。手札から……」
「おっと、その通常召喚待った。この瞬間にトラップ発動、おジャマトリオ!君のフィールドに、おジャマトークンを3体召喚させてもらう」
『『『ど~も~、こっちでふっかーつ!』』』

 氷の女王と光のプリマの脇に、なぜかバレリーナ衣装の3兄弟がノリノリで片足立ちでの回転をしながら現れる……のだが、やはり見よう見まねのバレエが特に運動神経に優れるわけでもない彼らにできるはずもなく、ずでんずでんと全員目を回してその場に崩れ落ちた。

 おジャマトークン(イエロー) 守1000
 おジャマトークン(ブラック) 守1000
 おジャマトークン(グリーン) 守1000

「その不細工なトークンは……」
『不細工だなんてひどいわよアニキ~!』
『『そうだそうだー!』』
「ええい、うるさいから説明の間ぐらい黙っていろ!それになんだその恰好は、どこからどう見ても不細工だろう!?まあいい、そのトークンはアドバンス召喚のためリリースすることができず、破壊された時300のダメージを与える効果がある!」
「それでも、まだ私の場には2体の戦えるモンスターがいるわ。バトルよ、サイバー・プリマでセットモンスターに攻撃!終幕のレヴェランス!」

 プリマならではの平衡感覚を生かした、体の軸が全くぶれない回転蹴りが万丈目の伏せモンスターを薙ぎ倒すかに見えたが、その寸前に上空から炎を巻き上げつつ赤黒の悪魔が落下してきた。

「残念だったな、天上院君。俺はこのトラップカード、奇策を発動した。このカードは発動時にモンスター1体を捨てることで、その攻撃力ぶんだけ相手モンスターの攻撃力をダウンさせる。俺が捨てたのは攻撃力2800の炎獄魔人ヘル・バーナー、つまりサイバー・プリマの攻撃力は0だ!」
「なんですって!?」

 サイバー・プリマ 攻2300→0→??? 守1900
 明日香 LP4000→2100

「だけど、まだ氷の女王の攻撃が私には残っているわ」
「いや、それも無理だな。よくフィールドを見ればわかるだろうが、俺のセットモンスターはスノーマンイーター、このカードは表になったときに表側モンスター1体を破壊することができる。俺が選ぶのは当然、氷の女王だ」
「スノーマンイーター……そのカードは」

 スノーマンイーター。もしもこの場に清明がいれば、やいのやいのとうるさかっただろうな。そう思い、その様子を想像して万丈目の頬が緩む。何しろこのカードは去年、まだノース校から帰ってきたばかりの万丈目がアカデミア買収を目論む実の兄とデュエルをした時に譲り受けたものだったからだ。あの時貰ったこのカードを、実は万丈目はずっとデッキに入れ続けていた。もし正面切ってその理由を問われれば、決してセンチメントな理由はなくただ単にこのカードが悪くない効果を持っているからだ、そう答えるだろう。では本心では?当の本人は照れから否定したり強がったりしているが、周りは誰でも知っている。彼は友情に篤いのだ。

「奇策の効果はエンドフェイズまでではなく、そのモンスターが存在する限り続く。つまり、次のターンで俺が攻撃力1900以上のモンスターを出せば……」
「あら、偉そうなことを言う前に、貴方もフィールドのことをよく見たら?」
「フィールドを?……なに!?」

 万丈目が見たのは、雪だるまの陰に潜む怪物が氷の女王を倒している姿ではなかった。飛びかかった雪だるまが、プリマ衣装にチェンジした女王のハイキックを浴びて吹き飛ばされる姿だった。

「速攻魔法、禁じられた聖衣よ。モンスター1体の攻撃力を600ダウンさせる代わりに、効果破壊耐性と効果の対象にならない能力を得ることができる。攻撃力2300になっても、スノーマンイーターを破壊するには十分ね。コールド・ブリザード!」

 氷の女王 攻2900→2300→スノーマンイーター 守1900(破壊)

「カードをセットして、これでターンエンドよ」

 氷の女王 攻2300→2900

 万丈目 LP2500 手札:2
モンスター:仮面竜(守)
魔法・罠:1(伏せ)
 明日香 LP2100 手札:2
モンスター:氷の女王(攻)
      サイバー・プリマ(攻)
      おジャマトークン(守)
      おジャマトークン(守)
      おジャマトークン(守)
魔法・罠:1(伏せ)

「俺のターン、ドロー!」

 戦況はどちらかというと万丈目に有利。そのはずなのに、どうにも万丈目の表情は晴れない。あの伏せカード1枚と明日香の無言のプレッシャーが、万丈目を警戒させる。実際彼の手札にはすでにアームド・ドラゴン LV(レベル)5のカードがあるため仮面竜をリリースすればアドバンス召喚も可能、そのままサイバー・プリマに攻撃するだけで勝利は決定するはずである。だが、彼女ほどのデュエリスト相手にそううまく事が運ぶとは思えなかったのだ。その警戒が無意識のうちに、彼に消極的な判断を強いる。

「………ゴーレム・ドラゴンを守備表示で召喚する」

 ゴーレム・ドラゴン 守2000

「仮面竜でサイバー・プリマに攻撃だ」

 小柄なドラゴンの炎が、攻撃力のなくなった光のプリマをあっさりと焼き尽くす。あれだけ警戒した伏せカードは、ピクリとも動かなかった。

 仮面竜 攻1400→サイバー・プリマ 攻0(破壊)
 明日香 LP2100→700

「あら、その程度かしら?」
「俺はこれで、ターンエンドだ……」
「私のターン、ドロー。来たわね?魔法カード、融合を発動!おジャマトークン2体を素材に、始祖竜ワイアームを融合召喚!」
「しまった、その手があったか!」
『『うわー、融合される~!』』

 デュエルモンスターズには通常モンスター2体という緩い縛りから生み出される、驚くほどハイスペックな融合モンスターとして注目を集めた1体のドラゴンがある。効果を持たないゆえにトークンですら素材とすることができる、それがワイアームである。

 始祖竜ワイアーム 攻2700

「厄介だな……」
『ア、アタイ1人だけ残してかないで~!嫌よこんな気まずい状況!』
「あら、これだけじゃないわよ?魔法カード、思い出のブランコを発動。墓地の通常モンスター、ブレード・スケーターをこのターンだけ蘇生させるわ」

 ブレード・スケーター 攻1500

「そしてこの最後の手札、融合呪印生物-地を召喚。このカードと融合素材となるモンスターをリリースすることで、地属性の融合モンスターを特殊召喚できる……何が言いたいかはわかるわね?今こそ幕を下ろしなさい、サイバー・ブレーダー!」

 入学時から常に共に戦い続けてきた、明日香のエースモンスター。プリマモンスターの頂点に位置する女戦士もまた、万丈目の目にはどこか悲しげな表情に見えた。

「相手モンスターが2体の時、サイバー・ブレイダーの攻撃力は倍になる!パ・ド・トロワ!」

 サイバー・ブレイダー 攻2100→4200

「万丈目君、やはり斎王様を裏切った今の貴方では私に勝つことはできないようね」
「ああ、確かに君は強い。だが、俺もここで負けるわけにはいかん!ゴーレム・ドラゴンが存在する限り、相手はほかのドラゴン族を攻撃対象にすることはできない!」
「見苦しいわよ、それは敗北を引き延ばすだけの行為にすぎないのに。ならばサイバー・ブレイダーでゴーレム・ドラゴンに攻撃、グリッサード・スラッシュ!」

 サイバー・ブレイダー 攻4200→ゴーレム・ドラゴン 守2000(破壊)
 サイバー・ブレイダー 攻4200→2100

「パ・ド・ドゥ……相手モンスターの数が1体になったことで、サイバー・ブレイダーの効果は戦闘破壊耐性へと変化したわ。氷の女王で仮面竜に攻撃、コールド・ブリザード!」

 氷の女王 攻2900→仮面竜 攻1400(破壊)
 万丈目 LP2500→1000

「まだだ!仮面竜のリクルート効果により、アームド・ドラゴンLV(レベル)3を特殊召喚!」

 この選択は、まさに一瞬の判断だった。おそらく単純に3体目の仮面竜を出していてはまた攻撃を止めてしまい、アームド・ドラゴンに繋げることはできないだろうと踏んであえてアームド・ドラゴンをこのタイミングで呼んだのだ。

「3体目の仮面竜は入っていないのかしら?始祖竜ワイアームで攻撃、オリジン・ブレス!」

 始祖竜ワイアーム 攻2700→アームド・ドラゴン LV3 守900(破壊)

「これで貴方のフィールドにモンスターはいなくなったわね。このターンの3回の攻撃を耐えきったのは大したものだけど、貴方のフィールドはもうボロボロよ」
「いいや、まだだ。自分のモンスターの戦闘破壊をトリガーとして、復活の墓穴を発動!お互いに墓地からモンスターを1体選び、守備表示で特殊召喚する!甦れ、LV3!」
「私は……サイバー・プリマを呼び出すわ。ターンエンドよ」

 アームド・ドラゴン LV3 守900
 サイバー・プリマ 守1600

 万丈目 LP1000 手札:2
モンスター:アームド・ドラゴン LV3(守)
魔法・罠:なし
 明日香 LP2100 手札:0
モンスター:氷の女王(攻)
      サイバー・プリマ(守)
      サイバー・ブレイダー(攻)
      始祖竜ワイアーム(攻)
      おジャマトークン(守)
魔法・罠:1(伏せ)

 まだだ、などと強がってはみたが、実際万丈目に残された手は少ない。スタンバイフェイズにアームド・ドラゴンがレベルアップしたとしても、LV5だけでは明日香の場に存在する大型モンスターを全滅させることはできず、彼女のライフを削ることもできない。LV5が出せるのは確定として、そこからいかに試合の流れを変えるのかはこのドローにかかっている。
 それを確認しながらデッキトップにかけた手が、かすかに震えているのを彼は感じた。だが、それは恐怖や怯えといった負の感情ではない。ギリギリの戦いを、彼は今全力で楽しんでいるのだ。

「俺のターン、ドロー!」
『がんばれ、万丈目のアニキ!』
「無駄よ、どんなカードを引いたとしても……」
「それはどうかな?」
「……なんですって?」

 その問いにはふてぶてしく笑ったのみで答えることなく、アームド・ドラゴンを指さした。

「まずはスタンバイフェイズに、こいつの効果を発動。このカードを墓地に送ることで、デッキまたは手札のアームド・ドラゴン LV5へと進化する。俺が呼び出すのは、手札からだ。さあ進化しろ、アームド・ドラゴン!」

 まだまだ子供だったドラゴンが成長し、より筋肉もつき全身の棘も固く鋭く、戦闘向きの体へと変わっていく。これでもまだアームド・ドラゴンという種の中では若輩にすぎないのだが、それでも十分実戦に耐えうるだけの力を持っているあたりいかに戦闘向きの生物なのかがわかる。

 アームド・ドラゴン LV5 攻2400

「さらに魔法カード、死者蘇生を発動!このカードで俺の墓地から、炎獄魔人ヘル・バーナーを特殊召喚する!」

 足元から地獄の炎が噴き上がり、その中心から6本足のトカゲか恐竜のような姿の化け物に人型の上半身を無理やりくくりつけたような悪魔が這いあがってくる。下半身の化け物についた目も鼻もない口だけの顔がいびつに歪み、辛うじて笑っているのだと判別できるような邪悪な表情を形作る。

「ヘル・バーナーの攻撃力は相手フィールドのモンスター1体につき200ポイントアップする代わりに、自分フィールドのモンスター1体につき500ポイントダウンする。本来は差し引き500ポイントしか上がらないがここで魔法カード、受け継がれる力を発動!自分フィールドのモンスター1体を墓地に送ることで、その元々の攻撃力ぶん他のモンスター1体の攻撃力をエンドフェイズまでアップさせる!アームド・ドラゴンよ、ヘル・バーナーに力を託せ!」

 炎獄魔人ヘル・バーナー 攻2800→3800→6200

「攻撃力6200!?」
『その調子よ、アニキ~!』

 ただ座ってるだけの癖になぜかドヤ顔で上から目線な声援を送るおジャマ・イエローのトークンに一瞬、攻撃対象をそっちにしてやろうかという衝動が湧きあがるが、それをなんとかこらえて目の前の氷の女王を見据える。

「帰ってくるんだ、天上院君。バトル、炎獄魔人ヘル・バーナーで氷の女王に攻撃!」
「く、応答しなさい、貴方達……!」

 炎の渦が巻きあがり、氷の女王の全身を包み込む。爆風に巻き上げられて、明日香の場に伏せてあったカード……手札1枚をコストにすることであらゆるダメージを0に抑え込むトラップ、ホーリーライフバリアのカードが見えた。もしも先のターンでアームド・ドラゴン LV5をアドバンス召喚していたら勝負は決め切れず、返しのターンで万丈目の敗北はほぼ確定していただろう。だが、それはもしもの話。手札を使い切った今の明日香にそのカードを発動することはできず、このデュエルは決した。

 炎獄魔人ヘル・バーナー 攻6200→氷の女王 攻2900(破壊)
 明日香 LP2100→0





「天上院君!」

 氷の女王が倒れると同時に気を失った明日香の体を慌てて駆け寄って支え、そっと壁に寄りかからせる。目を覚ますまでそばに付き添っていようかとも一瞬考えたが、まずは清明に連絡を取ろうと思い直して自分のPDFを引っ張り出す。通話モードにしようとしたところで、自分の周りにいる大量の気配に気づいた。それと、最後に明日香が言った不可解な言葉を。

「なるほどな、ずっと見張っていたのか。まったく、人気者はつらいものだ」

 皮肉めかして、いつの間にかあたりを取り囲んでいたたくさんの白い制服の集団に声をかける。どうせ返事は期待していなかったが、意外にも聞き覚えのある声がかえってきた。身長2メートルを超すハングリーバーガー使いの巨人、サンダー四天王のうち十の担当。

「……サンダー、光の結社へ復帰をもう一度お考えください。いくらサンダーでもこれだけの数を相手にできるわけありません」
「フン。天田、清明から聞いたぞ。お前がこのダーク・アームドとメタファイズ・アームドのカードを届けてくれたそうだな。その点に関しては礼を言ってやるが、この万丈目サンダー相手に随分と生意気な口を利くようになったじゃないか。ノース校での50人抜き、お前に忘れたとは言わせんぞ」

 強気な言葉とは裏腹に、万丈目の表情は険しい。これだけの数を相手にデュエルして、はたして自分1人で勝ちぬけるかどうか。いや、勝てるかどうかではない。やらねばならないのだ。清明の言葉を信じるならば、おそらく今の天上院君は洗脳が解けているはず。ならば、この万丈目サンダーが彼女を守らずして一体誰が守るというのだ。それに、もしここで俺が倒れればこいつらはそのまま清明たちのもとへ向かうだろう。いや、ほぼ間違いなくすでに何十人かが向かっているはずだ。せめてあいつらの負担を減らすためにも、この場所で引きつけられるだけの数を相手せねばなるまい。そう自身を鼓舞し、一度下ろしたデュエルディスクを再び構える。

「……さあ、まとめてかかって来い!もう一度身の程というものを教えてやる!」
「「「デュエル!!」」」

 誰も見る者も、知るものもいない戦い。ひとりぼっちの戦場で、再びデュエルが始まった。 
 

 
後書き
新アームド加入イベントに1話使っといてからのフィニッシャーはヘル・バーナー。
もうちょっとなんとかならんものかとは我ながら思う今日この頃だけど、個人的に割と好きなカードなのに今まで出番なかったことを思い出したらつい活躍させたくなったもので。三沢戦でのかませだけじゃなく、異世界編でモブ相手とはいえフィニッシャーになったところも好印象。 
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