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黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇

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6部分:第六章


第六章

「それもかなりね」
「そう言って頂けますか」
「栄養のバランスもいいわ。量も」
「有り難うございます」
「デザートもあって。ただ」
 しかしであった。沙耶香はここで言うのであった。
「一つ言わせてもらうと」
「何か」
「飲み物を注文していいかしら」
 これが沙耶香の言葉だった。
「それは」
「飲み物ですか。何をでしょうか」
「シャンパンを」
 酒だった。それだというのだ。
「それを頼めるかしら」
「シャンパンですか」
「あるかしら」
 シャンパンがあるかどうかをだ。それも聞くのだった。
「それは」
「はい、あります」
 春香は沙耶香のその言葉に静かに頷いた。沙耶香の隣で落ち着いて気品のある貴婦人の顔を見せている。奇術師としての顔はそこにはなかった。
「それは」
「そう、あるのね」
「ではお待ち下さい」
 そっと左に目配せをする。すると今は立って控えているメイドの一人が動いてだ。そうしてそのうえで一旦食堂から姿を消してすぐに一本ボトルが入れられた銀色のケースを持って来た。その中には氷もありそれでボトルを冷やしているのがわかる。それを持って来たのである。
「どうぞ」
「有り難う」
 グラスも一緒だ。それが持って来られたのである。丁度沙耶香の前に置かれた。そのよく冷えたシャンパンがである。
 すぐにグラスに注がれていく。透明で発泡する酒が注がれだ。酒が注がれるのを見てからだ。春香がまた言ってきたのであった。
「ではこれで宜しいですね」
「待ってもらって悪かったわね」
「いえ、構いません。それでは」
「頂かせてもらうわ」
「はい、皆さんそれでは」
「わかりました、それでは」
 こうして主の合図で食事前の一礼をしてからであった。そのうえで食べはじめる。沙耶香もまずはスープ、サラダ、そしてソーセージにハムをシャンパンと共に食べてだ。そのうえで言うのであった。
「いい感じね」
「御気に召されましたか」
「ええ、いいわ」
 こう答える沙耶香であった。
「味は申し分なしよ」
「そうですか。それは何よりです」
「イングリッシュ=ブレイクファストはいい料理よ」
 それは褒める。しかし沙耶香はこうも言うのであった。
「イギリスで数少ない食べられるものだし」
「数少ないですか」
「私の口に相応しいものは少ないわ」
 どうやらイギリスの料理についてはかなり思うところがあるらしい。それが言葉にも出ていた。
「残念なことにね」
「イギリスの食べ物は」
「お世辞にもいいものとは言えないわね」
「日本人が普通に作れば」
「いいわね」
「はい」
 春香にも否定できなかった。その味はである。イギリスの料理や食べ物について肯定的な意見は中々見られるものではない。スコットランドにいるというネッシーを見られる可能性の方が高いのかも知れない。
「その場合は」
「ではこの朝食は」
「私のコックの方です。女性の」
「日本人なのね」
「はい、日本人です」
 まさにその通りだという。日本人のコックが作ったものだというのだ。しかも女性のだ。
「何人か来て頂いています」
「わかったわ。いい腕をしているわね」
「有り難うございます。シェフ達の方々も喜びます」
「ただ。随分と力の入った朝食ね」
「私は朝食に最も力を入れたいので」
 だからだという春香だった。
「それで」
「それでここまで豪華なのね」
 トーストも四枚あるしソーセージやハム、それにサラダもかなりの量だ。当然フルーツもだ。そのかなりの量を食べながらの言葉だった。
「成程ね」
「勿論昼も夜も食べます」
「三食必ずなのね」
「食べます。それが一番身体にいいですので」
「わかったわ。では私もね」
「ワインはもう一本いりますか?」
「いえ、今はいいわ」
 いいというのであった。
 
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