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黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇

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30部分:第三十章


第三十章

「けれどそうではなかったのね」
「分け身達を全て消して」
「貴女自身もね」
「そして貴女のすぐ前に現われる」
 そうしたというのである。
「そうしてこれよ」
「白薔薇が」
「餞別よ」 
 妖しい笑みが戻っていた。
「受け取っておいて」
「受け取って、なのね」
「ええ、遠慮はいらないわ」
 また言ってみせた沙耶香だった。
「何もね。むしろ欲しいのならさらにあげるけれど」
「ええ、どうせならね」
「欲しいのね」
「貰っておくわ」
 勝敗は決してもだった。死美人はまだ笑っていた。そうしてそのうえで言ってきたのである。
「私を。私自身の花達と」
「そして」
「貴女のその薔薇達で覆って」
 そうしてくれというのだ。
「それで御願いするわ。いいかしら」
「いいわ。それが貴女への贈りものになるのだからね」
「美女への贈りものは花が最もいいものだから」
「その通りよ。花は美女そのもの」
 まさにそれだというのだ。
「だからこそね」
「ええ、それならね」
 沙耶香は応えてだ。そうしてだった。
 先程と同じく薔薇を出してみせた。五色の薔薇達をだ。
 それに囲まれた死美人はゆっくりと背中から崩れ落ちた。周りには自身と沙耶香の花達がある。
 その中に横たわりだ。静かに言ってみせた。
「これでいいわ」
「満足したのね」
「ええ、充分よ」
「そうなの。それならいいわ」
「さようなら」
 その中での死美人の言葉だった。
「これでね。思い残すことはないわ」
「それでは私はね」
「帰るのね」
「元の世界に戻って。そしてね」
「楽しむのね」
「そうさせてもらうわ。それじゃあね」
「貴女らしいわね」
 沙耶香に対する言葉だった。
「それはまた」
「貴女とも楽しめたわ。じゃあね」
「ええ、今度こそ本当にね」
「さようなら」
 最後にこう別れを告げて姿を消す沙耶香だった。鏡から出て振り向くと死美人は笑顔で眠っていた。その姿は鏡の中でゆっくりと消えていった。 
 それを見届けてだ。沙耶香は鏡の迷宮を出た。その頃にはもう朝もやは消えていた。沙耶香はその中でテーマパークを後にした。闘いはこれで終わりだった。
 それが終わってからだ。沙耶香はあの屋敷に向かった。しかし春香はまだいなかった。
 いはしなかった。だがここで中性的な容姿の執事が彼女に言ってきたのである。
「今夜戻られるとのことです」
「急な仕事かしら」
「はい、そうです」
「そう。それなら仕方ないわね」
「今日の夜まで待たれますか?」
「いえ、迎えに行くわ」
 妖艶な笑みと共の言葉だった。
「その時になったらね」
「迎えにですか」
「場所はわかっているかしら」
 その仕事場所について問うたのである。
「それはね。わかっているかしら」
「はい、それは」
 執事だけはあった。それがわからない筈がなかった。
 
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