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黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇

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18部分:第十八章


第十八章

 その抱く沙耶香がだ。さらに言ってみせるのである。
「同じだからね」
「そうですか」
「そうよ、それではね」
「はい」
「また会いましょう」
 抱き続けながらの言葉だった。
「ところで今日はこれで終わりかしら」
「はい、貴女が最後のお客様でした」
「そう。それだったらね」
「まだ何かありますか?」
「お店に連絡するといいわ。このまま終わるとね」
 こう言うのである。
「それはいいわね」
「連絡を入れれば。荷物は全部持っていますし」
「それならいいわね。お店に帰ると連絡してそれで」
「それで」
「飲みに行きましょう」
 美女をそれに誘うのである。
「飲みにね。いいわね」
「お酒ですか」
「いい場所を知っているわ」
 右手は石垣になっている。そして左手にホテルや建物がある。右手の灯りに照らされて道がかろうじて見える。その暗がりの道を進みながらの声だった。
「いい場所をね」
「そこで、ですか」
「一緒に夕食も食べましょう」
 このことも言ってみせたのである。夕食もだと。
「それでいいわね」
「はい」
 沙耶香の言葉に対してこくりと頷いたのだった。
「それでは」
「これで決まりね。その場所はね」
「大塚ですか?」
「少し行ったところよ」
 詳しい場所は言わなかった。あえてである。
「そこに行くわ」
「それでは」
「ただ。肌を重ねるだけではないのよ」
 沙耶香が楽しむものはそれだけではないのだ。様々な快楽を楽しむ。夜の世界に住む彼女はそうしたことも耽溺するのである。
「だからね」
「では。今度は」
「お酒よ。それじゃあね」
「わかりました」
 こうして沙耶香は美女をある場所に誘った。そこはある料亭めいた場所だった。大塚から少し行った、その和風の店の奥座敷に入ってだ。そのうえで二人で向かい合って座りながら言葉を交えさせるのだった。
「ここですか」
「こうしたお店は入ったことはあるかしら」
「いえ、はじめてです」
 二人は台を挟んで向かい合って座っている。沙耶香は正座で美女は足を横に崩してそれぞれ座布団の上に座っている。そのうえでのやり取りだった。
「料亭ですか」
「そうよ。穴場なのよ」
「あまり知られていないのですか」
「知っている人は知っているわ。そう」
「そう?」
「私は知っているわ」
 こう言って目を細めさせたのである。そのうえでの言葉であった。
「お金を気にしなくていいなら来られるお店よ」
「そうした場所ですか」
「ええ。そして来るものはね」
「何でしょうか、それで」
「日本の食事よ。さて」
 沙耶香の今の言葉と共にであった。部屋の襖が開いた。
 和服を着た妙齢の美女が来た。見ればその服は絹の上等なものだ。その和服の美女が沙耶香の側に座って言ってきたのである。
 
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