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異界の王女と人狼の騎士

作者:のべら
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第三十一話

 部屋は四畳半程度の狭い部屋だ。進路指導とかで普段は利用されている。
 中央に小さいテーブルとソファーが並んで配置されている。
 奥のソファーに二人のスーツを着た男が座っていた。どちらも30代の男で、どちらも髪を短く刈り込み少し小太りだった。
 そして一人の男はどこかで見たような顔をしている。
「じゃあそこに座って下さい」
 その見覚えの無い方の男が座るように促した。
 佐藤先生もドアを閉めると俺の横に腰掛けた。
「私は府警捜査一課の三叉目(さんさめ)と言います。こちらは菜下(なしも)
 そういって自己紹介をした。見覚えのある方の刑事は事件の翌日の朝俺が寄生根を探し回っているときに付近にいた男だった。どうりで見たことがあったはずだ。
 俺はペコリと会釈をした。
「授業があるところ来て貰って申し訳ない。……ところでその眼帯はどうかしたのかい? 」
「ちょっとものもらいができたんでつけているんです」
「ほう。そうなんですか……」
 聞いておきながらあまり興味がないように三叉目刑事はつぶやいた。
「では、本題に入りますが、……月人君、すでに知っていると思うけど、君のクラスの日向寧々さんと1組の如月流星さんが亡くなった。我々はそれについて現在調べている所なんです。そこで生徒の皆さんにいろいろとお話を聞いているところで、今回、月人君にもわざわざ来て貰ったわけです。……主に確認作業だけなのでそれほど時間はかかりません」
 事務的口調で刑事は話し続ける。
「二、三確認させてください。月人君は亡くなられた日向寧々さんとはお友達ですよね。如月流星君とは? 」
 笑顔で問いかける三叉目刑事。そして隣で俺の動向のすべてを見逃さないかのような鋭い目線で見ている菜下刑事。彼らはどこまで知っているんだろうか? そんな疑問を感じながらも平静を装い、俺は答える。
「日向寧々さんとは友達です。如月は、如月君とは全然交流がありませんでした。クラスも違うし、それに彼は転校生でしたから」
「日向さんとお友達ということはどういう関係ですか」
 【ともだち】という部分を強調するように問いかけてくる。
「言葉通りです。中学が一緒でその頃からよく話しをする関係でした」
 刑事は俺と寧々との間に恋愛感情があったかを確認でもしているんだろうか?
「わかりました。日向さんと仲の良かった……これは恋愛関係にあったかということの確認ですが、そういった生徒はいましたか? もしくは如月流星君と日向寧々さんが付き合っていたということを知っていますか? 」
「日向さんと付き合っていたのは僕の友達の漆多です。如月君と日向さんが付き合っていたということはないと思います。もし付き合っていたとしたら僕が知らないわけ無いと思います」
 どうせすでに寧々と漆多が付き合っているという事実は調査済みだろう。そして如月と付き合いが事実は無いことも知っているはずだ。なのにこんなことを聞いてくるとは。……そして、寧々が好きだったのは如月では無く、俺だったから。彼女に告白された自分だからこそこれははっきりと言い切れる。このことは誰も知らないんだろうけど。
 でもそれは言えなかった。言うべき事ではなかった。
「そうですか。では次に確認させてください。事件のあった夕方、あなたはどうしていましたか? 」
 警察はどこまで知っているんだろうか? ここでの回答は慎重を要するような気がした。
「もともと僕は部活をやっていないんで、授業が終わったあとは教室で少し残っていて、その後ぶらっとしてから帰ったと思います」
 すべてでたらめだ。寧々に誘われて廃校舎に言ったとは言えなかった。
 菜下刑事がさらさらとメモを取る音が部屋に響く。
「何時だったか覚えていますか? 」
「良くは覚えていませんが家に着いたのは7時だったと記憶していますから、6時には学校を出たと思います」
 学校を退出するときには改札呼ばれる駅にあるのと同じようなゲートを通らなければならない。当然その記録は残るから嘘をついたらすぐにばれる。でも如月が廃校舎に現れた時間を考えるとその時間あたりのデータは奴の封絶の影響でシステムダウンをしていた可能性が高いと思い、ある意味賭けに出た感じで答えた。
 ウソがばれたら確実に疑われる。
 二人の刑事が顔を見合わせる。
 それを何事もないように見ている俺の心臓は恐ろしいほど高鳴っていた。
 刑事達は頷くと再び話し始めた。
 後は如月と寧々が付き合っていた可能性があるかどうかとか、廃校舎に行ったことがあるかどうか、そこがホテル代わりに使われていたというのは本当か? 知っていたか? 他に何か知っていることはないかなどのありきたりの質問が形式的になされていった。
 俺は言葉を選び慎重にそれらの質問に答えていく。今日この場で答えた事はきちんとメモをしておこう。警察は何度も同じ事を聞いてその都度前の証言とに矛盾が無いかを調べ、あればそこを突いてさらなる矛盾を引き出すはずだから。
「ありがとう。協力を感謝します。今日、私たちに聞かれたということは他の生徒の皆さんには秘密にしておいて下さい。よろしくお願いします。……また何か思い出したことがあったら教えて下さい」
 そう言って刑事は名刺をくれた。
 俺は立ち上がると二人に会釈をして部屋から出ようとした。
「また何か聞くことがあるかもしれないけど、その時はよろしく」
 意味ありげな台詞を言われ、やっと解放されたんだった。

 ドアを閉めると思わずため息が出た。
「お疲れ。なんだか俺まで緊張したよ。まあ気にすんな。刑事さんはみんなに確認をしているだけだからな」
 そういうと一緒に入ってくれていた佐藤先生は、大きく伸びをしながら歩き去った。

 漆多や他のクラスメートも尋問されるんだろうか。
 警察は事故と事件どちらに傾いているんだろう。……そういや刑事さんは所属を名乗らなかったな。ちゃんと聞いておけばよかった。

 しかし、警察が仮に事件だと気づいても、解決することは不可能だ。やれたとしても、せいぜい冤罪を生み出すだけだ。
 相手は人間じゃない。そんなあり得ないことを警察が信じられるはずがなく、結局適当な容疑者をでっちあげるしか解決策はないんだろう。
 今回の事件に限っては、人間では解決することはできないし、知ることさえできないだろう。

 俺は思った。
 必ず事件にカタをつける。俺自身の力で。
 この事件、いやそんなものじゃない。これはあまりに危険な事なんだ。ただの殺人事件とはレベルが違う。
 漆多も紫音も、他の誰も巻き込むわけにはいかない。これ以上の犠牲者はこりごりだ。
 本気で思っていた。
 
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