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黒魔術師松本沙耶香 客船篇

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31部分:第三十一章


第三十一章

「完全にね」
「それでは今からは」
「そうね。音楽だけでいいわ」
 他には何も頼まないというのである。
「それだけでね」
「他のものは」
「今はいいわ。夕食の時にはワインが欲しいけれど」
 それでも今はいいというのである。ただ音楽を楽しむだけの沙耶香だった。
 そしてそれが終わり夕食はだ。テーブルに着いて頼むのだった。
 自分の席に座ったままで優雅にあのボーイに話す。そのメニューは。
「鴨がいいわね」
「鴨ですか」
「鴨のオリーブ煮をもらうわ」
「メインはそれですね」
「あとサラダは海草サラダを」
 そしてサラダはそれをだというのだ。
「スープはシーフードスープで」
「そしてオードブルは」
「サーディンがいいわね」
 鰯がいいというのだ。実は沙耶香はそうした魚もよく食べる。嫌いなものは特になく何でも食べるのが彼女なのである。
「そして野菜も欲しいわね」
「ボイルしたもので宜しいでしょうか」
「それで御願いするわ。パンもね」
「パンはどれを」
「そうね。フランス風がいいわね」
 それを所望だという。そしてだ。
「あとデザートは」
「どうされますか?」
「フルーツがいいわ」
 今はそれをだというのだ。
「フルーツの盛り合わせをね」
「そしてワインは」
「シャンベルタンを」
 ワインはそれなのだった。
「二本ね」
「はい、それでは」
「二本頼むわね」
「わかりました。では」
「さて」
 ここまで話してであった。沙耶香はメニューが来るのを待った。そのうえで夕食を食べワインを飲み終えてからだ。静かに席を立って言うのだった。
「さて、それでは」
「それでは?」
「最後の仕事ね」
 こうボーイに話すのだった。
「これから」
「最後とは?」
「こちらの都合よ。それではね」
「はい、有り難うございました」
 ボーイは恭しく一礼してそのうえで沙耶香を見送った。彼女はそのまま部屋を後にしてであった。その足である場所に向かった。そこは。
「さて」
 船長室であった。その扉の前にいた。
 扉に手を触れると自然に開いた。そこに入ると一人の黒と金の服を着た男がソファーにうずくまる様にして座り込んでいた。部屋の中は豪華なものであり沙耶香がいる客室と比べても遜色はない。しかしだった。
 その部屋の中にいながらだ。彼は沈んでいた。
 それを見てだ。沙耶香は言うのであった。
「どうしたのかしら」
「・・・・・・・・・」
「悩んでいるのね」
 返答はないがこう述べるのだった。
「貴方は。そうね」
「・・・・・・・・・」
 やはり返答はない。だが彼女は静かに言うのであった。
「仕事だから。はじめさせてもらうわ」
 右手の親指と人差し指を鳴らすとだった。それで部屋が一転した。絹のカーテンに豪奢なギリシア風の彫刻がある部屋の中から荒涼とした大地に立っていた。そしてそこにあの船長が立っている。しかしその周りには。
 
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