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黒魔術師松本沙耶香 客船篇

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3部分:第三章


第三章

「私はそこに泊まりたいから」
「しかし」
 またここで言う男だった。その顔は怪訝なままである。
「それでも仕事を依頼したのはこちらですから部屋のお金は」
「安心して。スイートにしろロイヤルスイートにしろ」
 どちらもだというのだ。
「私は自分の楽しみで泊まるのだから」
「だからですか」
「そのお金は自分で出すわ」
 あくまでそうするというのである。
「そういうことでね」
「左様ですか」
「それに私は」
 沙耶香はさらに言ってきた。
「お金には困っていないから」
「ははは、そうですね」
 それについてはであった。彼も知っていた。それは何故かというとである。
「それは」
「今回の仕事でもね」
「こうした仕事の報酬は法外ですからね」
「だからよ。お金には困っていないわ」
 こう話すのだった。
「だからね」
「そうですね。それでは」
「ええ、それで」
「御武運をお祈りします」
「その言葉は訂正してもらえるかしら」
 男の今の言葉にはその妖しい微笑で返すのだった。
「それはね」
「といいますと」
「シャンパンを用意しています」
 沙耶香がここで言う言葉はこれであった。
「こう言ってくれるかしら」
「シャンパンをですか」
「私には敗北とか失敗とかいう言葉はないのよ」
 沙耶香の自信に満ちた言葉だった。
「だからよ」
「それでなのですか」
「だからね」
 シャンパンだというのである。
「それで御願いできるかしら」
「そうですか。それでは」
「シャンパンをね」
「いえ、ここは趣向を変えましょう」
 ところがであった。ここで彼は屈託のない笑顔を向けてきた。そうしてそのうえでこんなことを言ってきたのである。
「ロマネコンティでどうでしょうか」
「あら、そちらなのね」
「好みによってはトカイでも」
 欧州の王侯貴族がこの上なく愛した極上のワインである。彼はシャンパンの代わりにロマネコンティとこれを出してみせたのだ。
「それでどうでしょうか」
「悪くはないわね」
 それを聞いて実際に目を細めさせる沙耶香であった。そのうえでこんなことを言ってきたのであった。
「ただ。フランスもいいけれど」
「フランスも、ですか」
「日本もいいわね」
 ここでは祖国を話に出してきたのである。
「それだと」
「日本もですか」
「この船は日本の船だったわね」
「はい」
 それはその通りだという。仕事を依頼する時に話したことでもある。
 そうしてだ。さらに話すのであった。
「あのクイーン=エリザベス二世に匹敵します」
「あの豪華客船よりもね」
「そうです」
「それでは余計に」
 微笑みながらさらに言うのだった。
 
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