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黒魔術師松本沙耶香 客船篇

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22部分:第二十二章


第二十二章

「だからね」
「では水着ですが」
「ここでレンタルできたわね」
「はい、無料です」
 若者は沙耶香を全く疑うことなく答えた。
「今ここでお貸ししましょうか」
「ええ、御願いするわ」
 便宜上述べた言葉だったがそれでも言うのだった。
「それでね」
「お客様は見たところ」
 若者は沙耶香を上からしたまで一瞥してから。こう述べてきた。
「このサイズの水着ですね」
「それなのね」
「はい、これです」
 言いながらプラスチックのケースに入った小さく折られた水着を出してきたのだ。色は黒であり競泳水着なのはすぐにわかった。
「何でしたらタオルもありますが
「タオルはいいわ」
「それは宜しいのですか」
「ええ、いいわ」
 笑ってそれはいいとしたのだった。
「別にね。じゃあ更衣室は」
「あちらです」
 若者は今度は向こう側、沙耶香から見て右手を左手で指し示したのだった。
「あちらにあります」
「そう、ありらね」
「はい」
 見ればそこに入り口があった。案内が日本語だけでなく英語、中国語でも書かれている。そこが更衣室であるというのである。
「あちらになりますので」
「わかったわ」
 沙耶香は彼のその案内を受けて静かに頷いた。
「それじゃあそれでね」
「行かせてもらうわ。それじゃあね」
「はい、それでは」
 こうして沙耶香は水着を受け取り更衣室に入った。しかし水着を着ずに部屋の中に並んでいるロッカーに背をもたれかけさせてだ。そのうえで静かにたたずんでいた。
 やがてだった。そこに一人来た。長い髪を拭きながら着ている。水着は黒い競泳水着である。その整ったスタイルがはっきりと出ている。脚も長く綺麗な形である。長い髪は黒くやや縮れている。顔立ちは大人びた整った美しさである。年齢はおおよそ二十一であろうか。その美しい女が更衣室に入って来たのである。
 沙耶香は彼女が部屋に入って来るとだ。すぐに声をかけてきた。
「ねえ」
「はい?」
「見させてもらったわ」
 特化ーに背をもたれかけさせながらの言葉だった。
「充分にね」
「私が泳いでいるのをですか」
「ええ。見させてもらったわ」
 それをだと言ってみせたのだ。
「充分にね」
「そうだったんですか」
「見たところ」
 美女の肢体を見る。均整は取れているが筋肉は発達していない。その肢体を見ての言葉だ。
「水泳を専門的にはしていないわね」
「好きは好きですけれど」
「それでも選手やそうしたものではないわね」
「はい」
 美女もこのことに対して素直に頷いて認めてきた。
「その通りです」
「そうね。それはわかるわ」
「何故ですか、それは」
「身体でよ」
 それでわかるというのである。
「それに髪でね」
「髪もですか」
「まず身体は筋肉質ではないわ」
 沙耶香はまずこのことを彼女自身に話した。
「それはね」
「身体が筋肉質ではない」
「水泳は全身を使うわ。だから始終泳いでいるとどうしても身体中の、とりわけ肩の筋肉が発達してしまうものなのよ」
「それを見てですか」
「ええ。そして」
 さらにであった。沙耶香のその言葉が続く。
 
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