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黒魔術師松本沙耶香 天使篇

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25部分:第二十五章


第二十五章

「松本沙耶香だな」
「そうよ」
「魔都の堕天使」
 それが沙耶香の仇名の一つである。彼女の仇名は多くある。そしてそのうちの一つなのだ。沙耶香の仇名は数多く存在しているのである。
 そしてその仇名を告げた男もまた、名乗るのだった。
「私の名はローレンス=アルスター」
「その名前は聞いたことがあるわ」
 沙耶香も彼の名前を聞いてすぐに答えてみせた。
「スコットランドの灰色の魔術師ね」
「その通りだ」
「異界の者を呼び寄せそれを従えるのを得意としているわね」
「それだけではないがな」
 そのことを誇らしげに笑って否定しなかった。それは肯定であった。そして彼はそのことを肯定しただけではないのであった。
「私もまた魔術に通じている」
「そうらしいわね。スコットランドでは呪術でも有名だったわね」
「そうだ。そしてその力はまだまだ強くさせる必要がある」
「それでだな」
 言葉をさらに続けてきたのであった。
「その娘の魂を貰い受ける」
「貴方の力をさらに強める為に」
「だからこそだ。しかしそれは十五歳までだ」
「それを過ぎれば魂は子供の純粋なものでなくなり」
「意味がなくなるのだ」
 それは彼もわかっていた。それもかなり強くであった。
「だからだ。今日この日にだ」
「この娘の魂をというのね」
「邪魔をするのなら容赦はしないが」
「生憎だけれどそうさせてもらうわ」
 その忍の後ろに立ちながらの言葉だった。天使としてここにいるのだった。
「私はこの娘の天使だから」
「あくまでそう言うのか」
「言うわ。これで交渉は決裂ね」
「元よりそのまま通るとは思っていなかった」
 彼もそう返す。その鋭い剣呑な目で見据えながら。
 そうしてそのうえでゆっくりと前に出た。そうして。
 その影から何かを出して来た。漆黒のその中から無数の黒く小さなものを出してきたのであった。
 それは人型ではなかった。小さく瓢箪の様な形をしたものであり禍々しく光る赤い二つの目を持っていた。その目で沙耶香を見ながら彼女に襲い掛かって来た。
「来たわね」
「地獄の奥底にいる餓鬼達だ」
 アルスターはその無数の彼等について語った。だが彼が動くことはない。
「身体は小さいがその力はだ」
「強いというのね」
「身体だけでなく魂も喰らい尽くす」
 言っているその側からも出て来る。そうして瞬く間に千は優に超える数となって沙耶香を取り囲み覆ってしまったのであった。
「防げるか、この餓鬼達が」
「充分よ」
 それを見ても動じることのない沙耶香だった。その背に二枚、一対の漆黒の翼が出て来て羽ばたく。するとそこから無数の羽根が生じてその一枚一枚が餓鬼に触れるとそれで燃やし尽くしてしまうのである。
「漆黒の羽根、いや炎か」
「私の羽根は黒い地獄の奥底に燃え盛る炎の羽根」
 羽ばたきながらまさにそれだと述べる沙耶香だった。
「同じ地獄にある餓鬼達といえどもこれは防げないわよ」
「だからこそここで放ったか」
「そうよ。これでどうかしら」
「噂通りだ」
 アルスターはそれを見ても落ち着いたものだった。動じてはいない。
「ここまでできるとはな」
「まさかこれで終わりではないでしょうね」
「無論だ」
 彼はその問いに対しては静かに返した。
「私の力をこの程度と思ってもらっては困る」
「それでは次は何かしら」
「私は魔術師というよりは召喚士だ」
 彼はここでそれだと言ってきた。
「だからだ。次はだ」
「何が来るのかしら」
「この者達を出すとしよう」
 今度は首を右に捻った。その動作をするとだった。
 
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