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黒魔術師松本沙耶香  薔薇篇

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5部分:第五章


第五章

「加えてくれたルームサービスね」
「はい。それは一体」
「それはね」
 沙耶香はここで指を鳴らした。すると扉の鍵が閉まる音がした。
「!?」
「もうこれで。私達は二人よ」
 影の世界の声で言う。
「二人といいますと!?」
「貴女、知らないのね」
 今度はその声が楽しむものになっていた。テーブルに肘を付いて口に手を置いて笑っていた。
「二人きりになったら何をするのか」
「何をですか?」
「いいわ、その純情さ。貴女、彼氏はいるのかしら」
「ええ、いますけれど」
 メイドは何も疑わず答えた。これが男ならセクハラになったところだろう。だが沙耶香は女である。だからこそこの言葉は問題にはならない。そして沙耶香もそれがわかって言っているのだ。
「高校の時から」
「そうなの。じゃあ知らないわけではないのね」
「何をですか?」
「決まっているじゃない」
 少女を見て言う。
「閉じられた部屋ですることと言えば」
「まさか」
 だが彼女はその言葉を聞いて笑った。
「私も御客様も。女ですよ、それなのに」
「それだからよ」
 沙耶香の言葉は彼女を離してはいなかった。声が彼女を徐々に追い詰めていく感じであった。
「貴女は。私のものになるのよ」
「私のものにって」
「そうよ」
 ここで彼女の目を見た。その黒い瞳が赤く光った。ブラックルビーがルビーになる様に。妖しく光ったのであった。
「!?」
 少女はその目を見て動きを止めてしまった。いや、正確には動けなくなってしまったのよ。
「怖がることはないのよ」
 怯えを見せる少女に対して言った。
「私は貴女を楽しませてあげるのだから」
「けどこれって」
「浮気!?浮気を怖れているの?」
 目が笑っていた。モラルというものを嘲笑する目であった。目の輝きは黒に戻っていたがそれはかえって妖しさを増していた。そうした輝きであった。
「だとすれば。貴女は何もわかっていないわ」
「わかっていないって」
「だって。罪の甘美さを知らないのだから」
 既に沙耶香は少女の側にいた。その形のいい顎を白い手にとり上に向けていた。そして整った顔を覗いている。
「罪は。犯すから罪になるのよ」
「浮気も」
「そうよ。罪を犯すこと、そして大切な人を裏切ること」
 彼女は語る。
「それがどれだけ甘美なものなのか知らないということは。非常に残念なことなのよ」
「けれど私は」
 沙耶香を拒もうとする。
「今は」
「この上なく甘美な果実は裏切り」
 だがそんな少女に対して言う。正確に言うならば少女と大人の女の狭間の時にいる存在だった。もうすぐで大人の女になる。だがまだ少女の世界にもいる。そんな存在を今手の中に収めていた。
「そして罪。裏切っている、罪を犯しているという罪悪感と後悔の気持ちを抱きながら味わう楽しみというのはね。一度知ったら忘れられないものなのよ」
「それが・・・・・・」
「そう、私よ」
 沙耶香は言う。
「私は罪、甘美な味を持つ罪」
「ではこのまま」
「そう、堕ちなさい」
 誘惑の声はただ放たれただけではなかった。それは少女の心も捉えていた。
「そして。これまで知らなかったものを知りなさい。いいわね」
「罪を犯す愉しさを」
「愉しさを」
 沙耶香はさらに言う。
「知るのよ。いいわね」
「はい」
「じゃあここへ」
 少女を天幕のベッドへ導く。それは羽毛とシルクのベッドであった。純白の世界がこれから背徳に染まろうとしていた。
「決められた者以外に、それも女に抱かれるという罪」
 沙耶香織は少女の服を脱がせながら言う。脱がせながらその身体に触れることも忘れない。
「その罪深さと、そして甘さを教えてあげる。今からね」
 そのまま少女を抱いた。二人で快楽の世界へと入っていった。全てが終わった時二人は天幕のベッドの中にいた。二人並んでその深く柔らかい枕に頭を置いていた。

 
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