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黒魔術師松本沙耶香  薔薇篇

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34部分:第三十四章


第三十四章

「そしてこの仕事、やり遂げさせてもらうわ」
「流石ね」
 そんな沙耶香を見て依子はその中性的な顔にぞっとする笑みを浮かべてきた。
「御婆様を退けただけはあるわ」
「その御婆様より上だと言うけれど」
「ええ、そうよ」
 依子はそれに返した。
「私も。嘘はつかないわ。自分のことにはね」
「言ってくれるわね」
「だから見せてあげるわ、私の力」
 その周りに漂わせている炎を巡らせてきた。
「高田家最高の魔術を」
「来ますよ」
 速水が沙耶香に言った。
「炎が。ならば」
 またカードを取り出した。今度は投げずにその顔の前ですうっと浮かび上がらせた。
「出でよ、節制」
 それは十四番目のカード節制であった。速水がカードを浮かび上がらせるとそこから水が溢れ出て来た。
「水!?」
「火といえばこれでしょう」
 速水は依子に答えを返した。
「この魔性の炎もこれならば」
「考えたわね、また」
「何、たまたまですよ」
 速水は慇懃に笑って依子に返した。
「買い被られないことです」
「けれどアイディアはいいわ」
 しかし沙耶香はそれでも彼を褒めた。
「それを出すなんて」
「貴女はどうされるのですか?」
 速水はその身の周りに滝を漂わせながら問う。滝はまるで大蛇の様にうねっていた。
「この水を使いますか?」
「いえ、それには及ばないわ」
 だが沙耶香は悠然と笑ってそれを受けようとはしない。
「私も。火なら防げるから」
「ではそれを見せて頂きましょう」
「ええ、見ていて」
 その周りには黒い蝶を漂わせている。まるで闇夜の中に舞うあげはの様であった。
「何をするつもりかはわからないけれど」
 依子は沙耶香をこの時は侮っていた。そんなものでどうして自分の炎を防げるのかと嘲笑していた。
「それで私を防ぐつもりかしら」
「やってみせてあげるわ」
「言ってくれたわね」
 売り言葉に買い言葉になっていた。依子が先に仕掛けてきた。
「この炎、そう簡単には防げはしないわよ」
 無数の青白い炎が沙耶香に襲い掛かる。一つ一つがまるで生き物の様に様々に動きながら襲い掛かって来る。だがその危険な炎を前にしても沙耶香は身動き一つしない。
「迂闊ね」
 沙耶香は一言そう言っただけであった。
「迂闊!?私が」
「そうよ、これ位中国の術には詳しくない私でもわかっていたのに」
 そしてまた言った。
「それを忘れるということが迂闊じゃなくて何なのかしら」
「どういうことかしら」
「今わかるわ」
 そこに炎が襲い掛かる。しかしその一つ一つにすぐに蝶が張り付いてきた。
「蝶が!?」
「これは魔術そのものとは関係はないけれど」
 沙耶香は笑いながら言う。
「蝶は光に誘われるわ。そして」
 次の言葉が決め手であった。

 
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