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異界の王女と人狼の騎士

作者:のべら
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第二十話

 久々に会ったというのに、妹との再会はあっという間に終わってしまった。

 ゲートはさすがに親父の車だということで警備もフリーパスで通過できた。
 途中、24時間営業のショッピングセンターに行き、俺の学生服の替えと、王女の着替えを買ってもらった。お金は亜須葉に出してもらった。
 俺はこんな格好だから車で待つことにし、十さんと亜須葉、そして王女で店へと行ったんだ。王女は物珍しさからかいろんなものを亜須葉に買わせて、彼女を大変不機嫌にさせた。

 亜須葉は俺といたかったみたいだけど、女物の衣類を十さんに買いに行かせるのも悪いと思ったんだろうな。しぶしぶついて行った。そのせいで、あいつをさらに不愉快にさせたんだけれど。

「この貸しは大きいですからね、にいさん」と意味ありげなことを言われたけどね。
 あれは本気で怒っていたなあ。

 まあ、そんな感じで自宅アパートに着いたのは深夜3時過ぎだった。

 亜須葉は一緒に残ると言い張ったけど、明日も学校があるし、自宅住まいの妹が朝帰りはマズイいんじゃないってこと、それも一緒にいた相手が家を飛び出している俺(ほぼ勘当状態)のところにいたんじゃ、十さんの監督不足になって彼の責任問題になるかもしれないからって言ったら、しぶしぶ、本当にしぶしぶ諦めてくれた。
 それでも王女は自宅に連れて帰ろうとした。
 理由は、年頃の男女が同じ部屋で泊まるなんて問題があるとのことだった。
 でも、小学生(くらい?)だぞ?

「亜須葉は、実の兄のシュウが幼女性愛者というのか、お前は。わははは、それはあり得るな。確かに、こいつは変態だからな。うん、本気で身の危険を感じるわ。……助けてお姉ちゃん!! 」
 怯えたような顔をして亜須葉にしがみついて見せる。
「怖い怖いよ。このお兄ちゃんがわたしをいやらしい目で見るの。気持ち悪いよ。……お願い、わたしをこの人と一緒にしないで」

 王女がおもしろがって話すので、ばかばかしくなったのか、それについては何も言わなくなった。

「……また来ます」
 王女を睨みつけながら、亜須葉は帰って行った。
 どうも二人は相性が悪いようだ。心のメモ帳に書き留めるのを忘れずにしないと。

 帰って行く車を見つめながら王女は呟いた。
「面白いな、お前の妹は。それに可愛いぞ。ちょっとからかうと真っ赤な顔になって、本気で反応してくる。実に面白い。これからもからかってやろう」
 悪戯っぽい笑顔で俺を見た。

 か、可愛いなあ。……などと思い、その笑顔に見とれてしまう。
 駄目だ、これじゃあ、ただの変態ですね。

「さ、さっさと部屋に行くわよ。もう疲れたわ」
 そう言いながら、本当にさっさと部屋に入っていった。
 入るなり買ってもらった着替えを持つと風呂へと消えていったんだ。

 俺は買ってもらった弁当をテーブルの上に置き、テレビをつけた。
 血まみれで汚い服はさっさと脱ぎ捨てる。すぐに着替えなくちゃなんないけど、全裸でいるわけにもいけないので、とりあえずジャージに着替えることにする。
 学生服もズボンも乾いた血でザラザラ。びっくりしたのは脱いだ靴はまだ血が乾いていなくてグズグズだったこと。どうりで気持ち悪かったわけだ。
 もうあの靴ともお別れだ。高かったんだけどなあ。
 
 ソファーが血で汚れたら行けないので、フローリングの床に座る。
 少し動くだけで肌がざらついて気持ち悪い。
 顔を洗いたい、頭も洗いたい。でもユニットバスだから入っていけない。仕方なく台所で顔を洗うと、シンクに流れる水は真っ赤になった。
 すげー、これ、血だ。
 風呂場からはシャワーの音が聞こえてくる。鼻歌まで聞こえてくる。
 タイトルはわからないけど、そのメロディはどこか懐かしい曲だ。

 俺はポットのお湯をカップに注いだ。コーヒーの良い香りがする。
 一口飲むと、心が落ち着く感じ。カップを持ったままリビングに移動し、仕切りの扉を閉めた。脱衣所が無いからドアを閉めておかないと王女が出てきた時に吃驚するからな。

 再び座り込む。
 テレビは深夜アニメかお笑いをやっている。あとはドラマの再放送だ。どれを見ても大したモンじゃない。
 気がつくとウトウトしている。遠くでドライヤーの音が聞こえる。
 ホント不思議なのは異世界から来たというのに、こちらの世界の電気製品を普通に使えるのは何でなんだろう? 

 風呂場が静かになったと思うと、扉が開き、パジャマ姿の王女が現れた。
「待たせたわね。……やっとさっぱりしたわ。このセンスの悪い服は気に入らないんだけど」
 王女が着ているのは幼児向けのアニメのキャラクター柄のパジャマだからね。サイズ的にそんなのしかなかったって亜須葉は笑いながら言ってたな。
 金髪の女の子が着ると凄い違和感があるけど、何故か似合ってしまうところが恐ろしい。

「ご飯あるけど、食べる? お茶なら入れるけど」
 俺はテーブルの弁当を指さした。

「ありがとう。でもおなかは空いていないわ。それよりもそろそろ朝が近づいているから、もう眠くて仕方ない。先に寝るからシュウもシャワーを浴びてきたら? とっても酷い格好だから、ただでさえ汚い顔がさらに汚くなってるし臭いわよ」
 酷い言い方だ。あんまりだ。
 朝が近いから眠くなるのはなぜだかわからないが、聞くのもめんどくさい。
 

「ああ、ありがとう。じゃあ行ってくるよ」
 俺は洋服ダンスから下着とジャージを取り出すと扉を開けようとする。

「それと、お前はソファーで寝なさいよ。ベッドはわたしが使うから」

「そんなのわかってますよ」
 分かり切ったこと言わないでよ。

「どうしても一緒に寝たいのなら、拒否はしないわよ。……でもなにもしないこと」
 と、ドアを閉めようとする俺にからかうように言う。

「はいはい」
 俺はユニットバスの扉を閉めた。
 王女が入った後なので部屋中に水がぶちまかれている。
「あーあ、ひでぇなあ」
 ぼやきながらタオルで曇った鏡を拭き取った。

「げ……」
 鏡に映った自分を見て驚かされる。髪の毛はべとべとになっているし、あちこちにシミのような痕がついている。こするとボロボロと落ちていく。
 血が乾いたんだろうか?
 
 まあそんなこと、普段なら驚きまくりなんだけど、今日に限ってはハッキリ言ってどうでもいいこと。

 一番驚いたのは、如月にほじくり出されて再生した左眼だよ。

 なんか、ありえないんだけど、その瞳の虹彩の色がブルーになっていたんだ。その色は人間のものとは思えないくらいハッキリとした青だった。
 まるで王女の瞳の色と同じなんだ。
 右目は濃褐色で普通の日本人なんだけど、左眼がブルーになっちゃったらまるで虹彩異色症だよな。

 これは、あきらかに目立つぜ。……格好いいけど。

 でも、王女はともかく、十さんや亜須葉はその事について何も言わなかったんだろう……。こんな瞳をしてたら嫌でも気がつくはずだよ。
 そう考えてすぐに気付いた。

 ああ、そういやずっと暗闇だったもんな。
 彼らと会ったのは闇夜の下だし、車の中だって暗かった。おまけに俺は店には行かなかった。だから、亜須葉たちは明るいところで俺を見ちゃいないもんな。それじゃあ良くは解らなくて当たり前かな。

 とりあえずは明日は眼帯でもしていかないと目立ち過ぎる。
 あとでカラーコンタクトでも買って誤魔化そう。そうすりゃいいや。

 問題が解決? したから俺はさっさとシャワーを浴びる。
 暖かいお湯が全身の疲れを落とすようだ。
 排水溝へと流れ込んでいく水は真っ赤になっていて、俺を再び驚かせる。おびただしいほどの出血をしたから仕方ないか。
 制服や靴を洗ったら凄いことになりそうだ。

 石けんでごしごし洗い、シャンプーをしてやっと人心地。
 風呂を出ると、冷蔵庫からお茶を取り出し、一気に飲み干す。
「さて寝るかな」
 俺は部屋のドアを開けた。
 すでに部屋は真っ暗になっていて、ベッドで王女が寝ているのが見えた。
 暗闇でも見えるのは幻覚じゃなく俺の体の機能としては当たり前になったようだ。

 押し入れから毛布を取り出し、それを頭から被ると目を閉じた。
 今日はいろんな事がありすぎた。
 あまりに多くの事があったせいでなかなか寝付けない。どうも体が興奮状態になったままで静まることがないようだ。
 でも明日は、いやもう既に今日なんだけど、学校で寄生根を探さないといけないんだ。だから少しでも休んでおかないと……。そう思えば思うほど、睡魔がやってこない。目が冴えるだけなんだな。

 
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