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鐘を鳴らす者が二人いるのは間違っているだろうか

作者:海戦型
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27.精霊と神と

 
前書き
ひとまず、村はある程度道具に人員を割くことになりました。ただ、意見が一つなので一つ分の作成物増加です。
今の所ストーリー進行上の関係でアイテムは登場していませんが、ティズたちが正式に冒険者になった暁には解放されたアイテムたちが手に入ります。 

 
 
「話は聞かせてもらった!つまり、復興計画に協力すればその分見返りとして村から物資を頂けると!乗った!!」
「早っ!?本当にそれでいいんですか!?」

 美味い話に食いつきすぎのヘスティアは、ティズの話に速攻で頭を縦に振った。
 ちなみに、ティズとアニエスの純朴コンビにあの紐衣装は刺激的すぎたので、現在は普通の服を着ている。まさかのヘスティアも「そんな服では……か、風邪をひいてしまいます!!」などとアニエスに言われるとは思わなかったろう。

 閑話休題。ヘスティア以外は与り知らぬことだが、現在彼女はベルに『ヘスティア・ナイフ』を作成してもらった代金としてヘファイストスに2億ヴァリス(無利子無担保)の借金を背負っている。しかも、リングアベルの剣も最初は数百万ヴァリスで済む見積もりだったのに想定外の事情があって値段が膨れ、最悪の場合は借金3億ヴァリスに膨れ上がりそうな勢いなのだ。
 そんなとんでもない事情をファミリアに漏らす訳にはいかない。
 かといって、そんな事情を知る由もなくお金を稼いでくれているベルコンビには報いるものが欲しい。

「どうせボクはファミリアが出かけている間は時間があるからね!チラシ作りや置き場所確保は任せなさい!」

 グッとサムズアップするヘスティア。但しバイトしてる時間は除く、という文言付きだが。
 ちなみにヘスティアがいまだにバイトをしていることをベルは知らない。自分の稼ぎで暮らしていけるからもうバイトさせないで済むとか思っているし、本人も辞めたふりをしている。リングアベルには気付かれているが、いつものようにフォローしてもらっている。
 なんとなくだがファミリアの構造的にリングアベルが父でヘスティアが母、そしてベルが子供みたいな構図である。
 
「……本当に良いのですか?」
「へ?何が?」
「私は、クリスタル正教の徒です。本当にそれでも構いませんか?」

 ヘスティアを試すように、アニエスが堂々と身を乗り出す。
 婉曲なやり方を知らない彼女なりに、ヘスティアという神を見極めようとしたのだろう。
 寄る辺ない自分にとって、この神は信頼に足るや否や――アニエスの心根を覗くような視線に、しかしヘスティアはあっけらかんと笑った。

「あはははは!キミ、風の神殿の子だろ?山岳を縫う清涼な風……そんな感じの気質だ。正教首都にいる連中独特の曇りがないからすぐ分かるよ」
「え………ど、どうして私が風の巫女だと……!?」

 わかりやすいくらいに動揺するアニエスの様子を見て、ヘスティアはしたり顔でにっと笑った。
 やっぱり神様、その知識と分析力は16歳の少女でしかないアニエスの遙か上を行く。こうなってしまうとイニシアチブはヘスティア側だ。

「神殿の修道女は土の神殿を除いて正教本部とほとんど繋がりがない、本当に純粋な信徒だからね。キミたちはクリスタルに誓ってやましいことはしないって分かって……………」

 自慢げに説明したヘスティアが、ふと何かに気付いたように停止する。
 遅れて、ティズがアニエスのミスに気付いてあっと声を上げた。

「え?え?な、何ですかティズ?」
「いや……その……アニエス?今、自分が風の巫女だって言っちゃわなかった……?」
「あ」

 確かに……言った。まだ神殿関係者としか言われてないうちに勘違いして。

「ちょっとアニエス!駄目じゃないの!オラリオの神も皆が皆クリスタル正教に理解がある訳じゃないのよ!?そういうところはちゃんと隠さないと!」
「ご、ごめんなさいエアリー………って、え?エアリー………」
「なぁに?………って、あ」

 ティズはもう何をどうすればいいのか分からず頭を抱えて蹲り、ベルは瞳を輝かせ、ヘスティアはポカンと口をあけ、リングアベルの瞳が驚愕に見開かれる。
 その原因は言うまでもない。

 一番出てきてはいけない秘密が堂々と出てきて羽根をパタパタさせながら怒っているせいだ。

「よ……よ……」
「妖、精……?」
「………まさか、お前……!?」
「もうどうにでもなれ……」
「貴方、隠れてないといけないのでは……!!」

 しばしの間目をパチクリさせたうっかり精霊は――

「あ、あああああ~~~~!!エアリーは出てきちゃ駄目なの忘れてたぁぁぁぁ~~~~~!?!?」

 ――やや遅れて、耳に響く甲高い絶叫を部屋に鳴り響かせた。
 これにより、ヘスティア・ファミリアは一気に混沌とした空気に包まれることとなる。



 = =



 気が遠くなるほど昔の話から、この世界は『ルクセンダルク』と呼ばれている。

 誰がいつ付けた名前なのかは分からないが、それは間違いなくこの星全体を差す言葉だった。
 人も、神も、その名をつけた者の存在を知らない。まるでそれまでの歴史に突然混ざってしまったように、それはこの世を生きる者が持つ基礎知識として浸透していった。様々な人種が集い、互いに共存していく巨大な箱庭――しかし、その中でも空想の存在と呼ばれる者がいる。

 妖精。

 エアリーは精霊を名乗ってはいるが、その姿は幻想文学上の妖精と呼んで差支えない。
 同時に、蝶の羽と小柄な体躯はリングアベルにある人物から聞いた存在を連想させる。

「ミネットを呪い、俺を殺すように囁いた妖精……か」
「キミは疑っているのかい?あのエアリーがミネットちゃんを唆した『嘘つき妖精』じゃないかって……」
「ん………あまり疑いたくはないが、な」

 背後からかかったヘスティアの声に、リングアベルはどこか優れない表情で頷く。

「でも、目撃証言では妖精は白かったんだろ?あの子は灰色だし、別の妖精かもしれないよ?」
「それはそれで問題だな。妖精は複数いるってことになるし、もしももっといるのなら他人の空似まであり得るぞ……」
「邪悪な感じはしなかったし、別人だと思うけどね」

 その夜――結局全てを白状したティズたちを、ヘスティア・ファミリアは戸惑いつつも受け入れた。
 生活の為に疑わしきに目を伏せたヘスティア。
 疑いと将来の狭間に揺らぎながらも何も言わなかったリングアベル。
 そして――『精霊のお願いで世界を救うなんて最高のロマンじゃないですか!!』と誰よりもノリノリだったベル。絶対に話を理解していないが、だからこそ場が和んだ。

 ベルのおかげか空気はぎくしゃくすることもなく、良好といえる関係のままティズ達は宿へと戻っていった。これから暫く同じように神に会いに行き、総合的に契約先を決定するそうだ。こんな言い方をするのは躊躇われるが、エアリーの存在をあれ以上見せびらかすとは思えないのでほぼ確定だろう。

「女神から見てどうだった、エアリーは?」
「そうだね……この世界や神の持つ理が通用していないのは確かかな。言っていることが嘘か真かは『分からない』というのが正直なところだよ。はい、これバイト先で貰ってきた安いじゃが丸くん!」
「お気遣い痛み入る!女神からのプレゼントともなると、高級レストランの逸品にも代えがたいな!」
「あははは。リングアベルったら嬉しい事言うね!」

 じゃが丸くんを手渡されたリングアベルは、恭しく礼をしてご褒美を受け取る。芝居がかってはいるがいつものことだ。気を落としていようがいまいが、こういう礼儀だけは忘れない。

「さて、エアリーの話だけど………クリスタルの精霊ってのはあながち嘘でもないと思うな」
「そうか……女神が言うのなら俺の分析よりは確かだろう」
「そう自分を下卑することはないと思うけど……さっき『神の理から離れてる』って言っただろ?それ、クリスタル正教の加護とか大結晶も同じことが言えるんだよ。あれは神が作った物じゃないから、クリスタルの精霊が実在するのなら神の理と外れていてもおかしくはないだろう?」

 それに、とヘスティアは続ける。

「例の大穴を塞ぐ術を、神々は持っていない。本当に塞げるというのならそれに賭けるのもまた世界の為だと思わないかい?」
「……そうだな。現状、例の大穴を塞ぐ術はない。日記帳にもそんな話は一つもないが、カルディスラ大崩落の内容は明らかに異なっている」

 日記の情報では大崩落はあくまで自然災害でしかなく、生存者1名などという悲惨な内容でもない。
 瘴気も漏れなければ魔物の狂暴化もない筈の出来事は、既にロキ・ファミリアの調べで世界規模の被害を起こす可能性のある大災厄となっている。
 現在その情報は一部の神々と天界の方にのみ知らされているが、解決策は未だ見つかっていない。
 このままでは、世界は少しずつ崩壊していくのだ。食い止める方法は一つでも多くあった方がいい。

「どんどんアテにならなくなるな、この日記………肝心なことは全然書いてない」
「それだけ未来が変わってきてるのか、それとも最初からそこまでアテにはならないのか……ま、少なくともティズとアニエスの二人は本気だ。嘘か真かはボクたちが見極めればそれでいいし、間違ってるならキミが助けてやりなよ。……ね?」

 ぱちっと可愛らしくウィンクした女神に、心の(もや)がいくらか晴れた。

 そうだ、未来によくないものが待っているなら自力で変えればいいだけの事だ。
 妖精が敵か味方か見極めるのも、彼らが暴走したらそれを止めるのも、全てはこれからの話でしかない。ならば、案ずるよりも行動だ。

「しかし、日記に記された二人に出会ったわけだけど……記憶の方はどうだい?何か思い出した?」
「いやそれがサッパリでな!はっはっはっはっは!!」
「キミは本っ当に呑気だねぇ。でもそれでいいさ!人生ちょっと呑気なくらいがちょうどいい!逆にティズくんとアニエスちゃんは余裕がなさすぎるけど」

 ヘスティアの言わんとすることは、リングアベルにもなんとなく理解できた。

「アニエスは気丈に振る舞ってはいるが、どこかガラス細工のような脆さを感じる。……ティズは音もなく膨れ上がる風船だな。空気を抜いてやらないと破裂してしまう」
「おお、女の子だけでなく男の子の気持ちも分かるんだ?唯の女好きでないと分かってボクも一安心したよ!」
「ついでに、女神ヘスティアが復興の話に乗ったのはあの二人を放っておけなかったのもあるんじゃないか?」

 どこまでもお人よしの小さな神に、半ば確信を持って問う。
 予想は見事に的中し、ヘスティアはいじけたように唇を突き出した。

「放っておけるわけないだろ、あんな危うい二人……」
「それでこそ記憶喪失の俺を拾った神様だ。その優しさがあったからこそ、俺もベルも惹かれた」
「よ、よせやいそんな言い方!まったく、またボクを口説こうとしたでしょ!」

 と言いつつもやはりまんざらではないのかヘスティアはくねくねしながら照れている。
 なんやかんやで眷属大好き神様だ。リングアベルだけでなくベルも含めて、その迸るファミリア愛は恋人を想うそれに近いレベルだった。神と人があまり近すぎるのはどうなのだろうとも思うが、ヘスティアが幸せならそれでいいだろう。
 ……その分、本格的に女が出来たら「浮気者!!」とか言って猛烈にいじけそうだが。

「………まぁ、キミがあのエアリーを疑ってるのはちょっと意外だったけどね?」

 ふとヘスティアがそんなことを言い出して、リングアベルはその物言いに首を傾げた。

「え?何故だ?だって状況的にも外見的にも疑わしいだろう、あいつは?」
「ほら、それ!精霊とは言え、会ったばかりの女の子に対して『あいつ』なんて呼んでる。キミのことだから女の子には直ぐに色香に惑わされて信じ切るかと思ってたんだけど、ちゃんとした考えがあるようでちょっと安心したよ」

 早く寝るんだよ?と最後に一言告げて、ヘスティアは寝床へ向かう。
 一足先に寝ているベルの元へ行ったんだろう。現在ヘスティア・ファミリアは3人全員同じベッドで寝るのが何故か通例になっている。もちろんベル・ヘスティア・リングアベルと真ん中にヘスティアを挟む形で。………余計に家族っぽい。ある意味眷属は神の家族だが。

 だが、このとき彼女は気付かなかった。
 背後にいるリングアベルが、真剣な表情で考え込んでいるのを。

「………確かに、エアリーは贔屓目に見ても可憐だった。なのに……何故俺はそのことに意識を向けずに真っ先に『疑わしい』と思ったんだ?」

 結局その日、疑問が晴れる事は無かった。



 = =



 同日、エタルニア公国総司令部。

 その日、司令部は戦争寸前かと思うほどの緊張感に包まれていた。
 それもそのはず――本日、この場所で運命の決戦が行われようとしていたからだ。

 今日初めて身に纏うエタルニア空挺騎士団の正装は、思った以上に体に馴染んだ。
 上質なレザーで柔軟性と強度をある程度両立させたシンプルな服は、荒事が多い空挺団独自の改良が施されて防具とは思えないほど動きやすい。
 赤を基調としながらもところどころに騎士らしい鈍色のプレートが光るその服装に身を包み、イデアは最後にいつもつけている黒いリボンを頭に結びつけた。

 決戦を前に、カミイズミが彼女の元に歩み寄る。

「緊張してるか?手が微かに震えてるぞ」
「……緊張って言うより、何だろう。心臓の鼓動が速いのに、頭は戦いの事でいっぱいになってます」
「フフ………武人の性という奴だな。その年で既に武者震いを覚えたか」

 偉大な父親に実力を見せる、とても大事な一戦だ。まだ15歳の少女なら緊張しても当然の筈だ。
 なのに、イデアはこの戦いに恐れを感じない。むしろその胸は時間を追うごとに高鳴っている気さえする。言うならばそう、「ボルテージ」が上がっているとでもいう感覚。
 この戦いが、楽しみでしょうがない。
 彼女の身体は今にも動き出しそうなほどに血が騒いでいた。

「とうとう、この時が来ちゃったなぁ……」
「おっと、イデア。相手はあのブレイブなのだから――訓練剣ではなくそれ相応の物を持って行け。選別だ」
「え………ちょ!?それは師匠の愛刀『伊勢守(いせのかみ)』!?」

 差し出された剣に、イデアは驚きの余り思わずのけぞった。
 白い柄の、(つば)がないカタナ。それはカミイズミが所持する二本の愛刀のうちの一つ。

 業物『伊勢守(いせのかみ)』――文句のつけようがない名刀である。

 カミイズミは普段はこの『伊勢守』を帯刀し、そして遠征などどこかに攻め込む際は『流星』というもう一振りの刀を持つ。『伊勢守』は守るという文字が入っているため守りには縁起が良く、そして『流星』は一方通行ゆえに攻めに縁起がいい、ということらしい。東洋にある『ゲン担ぎ』という独特の文化らしく、2本に優劣は存在しない。
 剣士の魂とも言える剣を自分に差し出したこともそうだが、父との戦いに『真剣』を使えと言い放たれた事実に戦慄が走る。
 つまり、これは父を『斬る』つもりで戦えという意味だ。

「斬る……あたしが、父さまを………」
「それだけブレイブも本気だという事だ。イデア――甘さは捨てて己が全てをぶつけてこい!温情、手加減一切無用……そも、そのような余裕を持たせてくれる相手でもないがな」
「公国最強と謳われる鉄壁の防御……そっか。生半可な一撃じゃ傷どころか一発入れることさえ難しいんだ」

 改めて父の事を意識したイデアは力強く剣を握り、刃を抜き放った。
 ため息が漏れるほど美しく、魂が震えるほどに力強い一本の刃が、イデアの目の前に姿を現す。
 光を斬り裂くように妖しい輝きを放つ剣を、イデアは両手で掴んで虚空に振り下ろす。

 素振り。剣術の最も基本的で、最も大事な動作だ。
 刀は寸分の乱れもなく地面に対して垂直にひゅっ、と振り下ろされる。
 剣の重さ、感触、リーチ……全てを体に刻むように二度、三度、ずしりと重い刀を振り下ろす。

 それを数度繰り返し、イデアは一度深呼吸をした。
 重心のブレもなく力任せでもない完成された太刀筋にカミイズミは表情に出さず、しかし満足そうに一度頷いた。

「迷いはないな。ならば私からいう事はもうない。……ぶつかって来い!」
「はいっ!それじゃ、あたし行ってします!」

 イデア・リー人生初めての試練。
 それは、自分という存在を剣を交えて父にぶつける事。

 エタルニア公国軍元帥にして『六人会議』の議長。
 そして『聖騎士』のアスタリスクの正当所持者、『二聖』が一人。
 最北の地に佇み、神さえ慄く生ける軍神――この国の最強の盾にして矛。
 
 勝てるはずがない、とイデアの心のどこかで誰かが囁いた。
 イデアはその呟きに、堂々とこう答えた。

 『 ブレイブリー・デフォルト(やってみなきゃ、わからない)!! 』
  
 

 
後書き
イデアの大冒険(EXハードモード)開始。
次回、イデアとブレイブの真剣勝負だけで一話潰す予定です。 
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