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鎧虫戦記-バグレイダース-

作者:
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第39話 光の先へ進むあなたへ

 
前書き
どうも、蛹です。
まずは前回のあらすじから。
アスラが倒した葉隠が、迅が目を覚ました後
いつの間にか姿を消していた。そして、マリーとリオさんも起きたので
アスラ達はジェーンとホークアイを救出するために試行錯誤していた。
しかし、〔音速裂波(ソニックバスター)〕の衝撃によって岩が崩れ始めるが
救出するための方法がなく、アスラは悔しさのあまり地面に両腕を叩き付けた。
すると、彼はいつの間にか光の花が咲き誇る花畑の中に立っていた。
そこには、明日香(アスカ)と名乗る日本人の女性がいたのだった。
ここは一体どこなのか。そして、彼女はいったい何者なのか。

それでは第39話、始まります!! 

 
「あ‥‥‥すか‥‥‥‥‥明日香(アスカ)‥‥‥?」

知らない。聞いたこともない名前だった。
だけど、この顔は知っている気がする。
それが何故なのかはアスラにはわからなかった。

「あなたは私を知らないかもしれないけど
 私はあなたの事をとても良く知ってる」

そう話す彼女の表情はとても嬉しそうだった。
しかし、アスラの中の疑問は未だに解けていない。

「迅さんは素敵な人よね。始めに見た時は
 大怪我をしてるのかと思ってびっくりしちゃったけど」

多分、顔の右半分の火傷の痕の事だろう。

「大人で、でも時々子供っぽくて。
 それでも、戦う時の姿はとても勇敢で」

アスラは迅の剣を振るう姿を思い出していた。
豪快に見えて正確に振るわれる長剣。
昔から、迅の戦う姿を見るのは好きだった。

「それに頭も良くてね。あ、でも
 私の夫の方が何倍もすごかったけどね」

その言葉から、彼女には夫がいることが分かった。
こんな綺麗な人なのだから、きっと素晴らしい夫なのだろう。

「そう言えば、クレアさんとハロルドさんは元気?」

それを聞いた瞬間、言葉が詰まった。

「‥‥‥‥わからない。二人はロシアに残っていて
 それ以来会ってないから。でも、マリーの話では
 元気にはしているらしいけど」

アスラは若干うつむいてそう答えた。

「‥‥‥‥‥‥二人が心配?」

明日香はアスラの顔を覗き込みながら訊いた。

「‥‥‥‥心配してないって言ったら嘘になる」

ロシアにはアーロンさんとレイラさんがいて
"鎧虫"も凍り付くほどの極寒の国とはいえ
絶対に安全であるとは言えないのだ。
"衛兵"クラスの"侵略虫"が来れるのだから
"将軍"クラスが来てもおかしくはない。
それが不安要素だったのだ。

「‥‥‥‥二人はね。あなたが思っているよりずっと強い。
 だから、きっと大丈夫よ」

彼女は微笑みながらそう言った。
この顔だ。この表情が引っかかるのだ。
だが、頭の奥で霞がかっていて分からなかった。

「私も夫にはラブラブだったけど
 二人には敵わなかったなぁ、フフフ」

彼女は口元を押さえて笑った。
そして気付いた。彼女が誰に似ているかが。

「‥‥‥‥‥オレの友達のマリちゃんに似てる‥‥‥」

彼女の笑顔とマリーの笑顔からは似た雰囲気を感じられた。
そして、どうしても訊いておきたい事が頭に浮かんだ。

「あの‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

しかし、言葉に詰まった。
それは本当に聞いていいのかについて悩んだ。
そして、ようやく決心し訊いてみることにした。

「もしかして‥‥‥‥‥マリちゃんのお母さん‥‥‥‥ですか?」

訊いた。しかし、返事がない。
これは訊いてはならない事だったのだろうか。
弁解しようと俺は口を開こうとした。

「ブーーーーーッ、ハズレ」

彼女はようやく答えた。やはり違うらしい。
しかし、楽しそうな声と裏腹に表情は少し曇っていた。

「さすがに分かんないよね‥‥‥‥」

そうつぶやきながら、少しずつ歩み寄って来た。
その瞬間、急に風が強くなり麦わら帽子が吹き飛んだ。
風に舞いながらどんどん遠くに飛ばされて行く。

「これなら‥‥‥‥分かるかな?」

 ぎゅっ

明日香はアスラに抱き着いた。
一瞬は恥ずかしさを感じたがその後に
ジワジワと心の中から溢れてくる何かを
アスラは理解できずにいた。

「‥‥‥こんなに‥‥‥‥大きくなったんだね‥‥‥‥‥」

 ぽろっ ぽろろっ

明日香の両目から涙がこぼれていた。
それを見たアスラの頭の中の記憶は急に鮮明になった。
霞がかっていた頭の中の記憶が晴れ
そこでは、アスラは彼女を下から見上げていた。
その時に後頭部から温かさを感じていたので
アスラは彼女に抱えられていたようだ。
そして、それが何を表しているかをすぐに理解した。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥母‥‥‥さん‥‥‥‥?」

アスラは明日香を見下ろしながらそう訊いた。
彼女は涙を流しながら、嬉しそうに微笑んでいた。

「そうよ‥‥‥‥‥‥私はあなたのお母さん」

そして、アスラをさらに強く抱きしめた。
アスラの両目から涙が溢れて来た。
初めて母の温もりをここに感じているからだ。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥母さん」

 ギュッ

アスラも明日香を強く抱きしめた。
温かくて、柔らかくて、いい匂いがして
ずっとこのままでいたいぐらいだった。

「あなたが生まれてすぐに死んじゃったから
 覚えてるわけないと思ってたけど
 分かってくれて、本当に嬉しかった」

明日香はアスラに頬ずりをしながら言った。

「オレも‥‥‥会えて嬉しいよ‥‥‥」

アスラは明日香を力強く抱きしめた。

「いたた、苦しいよ、アスラ」
「あ、ごめん‥‥‥」

アスラは明日香を離した。
そして、涙を拭いながらつぶやいた。

「何で赤ちゃんの時の記憶が見えたんだろ‥‥‥?」

それを訊くのをずっと待っていたかのように、彼女は答えた。

「それは、ここはあなたの記憶の集まる場所だから。
 その記憶も、そして‥‥‥‥‥私も」

かざした彼女の手は徐々に透けていっていた。
それに伴って、この世界も徐々に光の中に消えていきつつあった。

「‥‥‥‥そんな‥‥‥‥‥母さん‥‥‥‥‥」

やっと会えたのに。また会えなくなるなんて。
そう思いながら、アスラは彼女の手に触れようとした。

 スウ‥‥‥‥

しかし、アスラの手は彼女の掌を通り抜けた。

「ダメよ、これはあなたの記憶から作られた仮そめの身体。
 あなたがこの世界の真実に気付いた今、接続は切られた。
 あとは、このまま消えていくだけ」

しかし、泣いているアスラの前で彼女は笑っていた。

「でも、息子との最後の記憶が泣いてさよならなんて嫌じゃない」

そう言いつつも、目からは涙が溢れて来ていた。
アスラも涙を止める事が出来なかった。

「だから‥‥‥‥‥笑ってさよなら」

そうつぶやくと、彼女は光と帰した真っ白な
何もない方向を見ながらつぶやいた。



「‥‥‥‥‥あなたがそうなのね。アスラを、息子をよろしくね」



その様子をアスラは不思議そうに見ていた。

「母さん、何を‥‥‥?」
「ううん‥‥‥‥何でもないわ‥‥‥‥」

彼女は身体を翻した。
スカートがふわりと大きく膨らんだ。

「さぁ、みんなの所に行ってあげて」

アスラは最初は動くことが出来なかったが
ついに意を決して、光の世界の向こう側へと走り始めた。


「母さん!ありがとう!!」


振り向いてそのことを伝えると
再び前を向いて、走り始めた。
それを見送りながら彼女はつぶやいた。

「あなたには、私が力を貸してあげる。
 もう二度と会えないかもしれないけど
 お父さんみたいな、強くて優しい人になってね―――――――――」

そうつぶやき終えると同時に
彼女の身体は光の世界へと消えていった。




































「ハッ!!」

 ガバッ!

アスラは顔を上げた。今度はいつの間にか伏せていたからだ。
向こうの世界から帰って来たので、この体勢に戻ったのだろう。
アスラがそんな事を考えたのは、それから随分あとの事だった。

「こ‥‥‥‥これは‥‥‥‥‥‥‥?」

アスラは目の前の光景を見て驚いた。

「うおお、か、身体が‥‥‥!」

リオさんは突然の出来事に驚いていた。

「宙に‥‥‥‥‥浮いてる」

さすがの迅も顔があきらかに動揺していた。
何と、周りにいたみんなが宙に浮いているのだ。
それだけではなく、崩れていた岩も、その周囲に
迅とリオさんが投げ捨てた岩も、全て浮遊していた。

「うわぁ~、すごいよアスラ!」

マリーは嬉しそうに笑顔で言った。
今はまだ無意識な発動のようだが分かる。

「これが‥‥‥‥‥オレの"超技術"‥‥‥‥‥‥‥‥?」

アスラは土の付いた掌を眺めながらつぶやいた。
使えるようになってみると、それは以外にも
あっさり受け入れることが出来た。

「アスラ、制御は出来そうか?」

迅が少し遠くから声をかけて来た。
そうだ、今なら岩の崩落を考えずに二人を救えるのだ。
アスラは今は崩れずに止まっている岩に右手をかざした。

 ガラ‥‥‥‥ガラガラ‥‥‥‥

岩はさらに少しずつ上に浮き始めた。
ゆっくりとバラバラに浮き始めた大量の岩。
その中から、黒い大きな影が見えた。
ホークアイがジェーンを抱えていたのだ。
岩に潰される前に何とか二人を救出することに成功した。

「‥‥‥良かった‥‥‥‥‥」

アスラはホッと一息ついた。
浮いている二人のところまで何とか
迅が移動して、二人を抱え上げた。

「よし。アスラ、もう大丈夫だ」
「分かった」

 フッ‥‥‥‥‥ ガラガラガラガラッ!!

アスラが右手を下げると、浮いていた三人と岩に
急に重さが戻り、岩は地面に音を立てて落下した。

 スタタタッ!

そして、三人は地面にしっかり着地した。
迅は抱えていたホークアイとジェーンを地面に下ろした。

「二人は大丈夫なの?」

マリーは心配そうな顔をして言った。
ホークアイは背中の傷以外は大丈夫そうだが
ジェーンのダメージはかなり酷かった。

「うぅ‥‥‥‥ハッ!」

ホークアイは急に起き上がった。

「何で外にいるんだ‥‥‥‥」

彼は頭を押さえながら言った。
若干ながら酸欠の影響が出ているようだ。

「ハッ!ジェーン!!」

思い出したようにそう叫んだ。
隣に倒れたジェーンを見たからである。

「迅!ジェーンはどうなんだ!!」

ホークアイは迅に訊いた。
しかし、迅の表情は曇ったままであった。

「心臓の拍動も呼吸もとても弱いんだ」

迅のこめかみを汗が流れた。

「だが意識が戻れば‥‥‥‥まだ希望はある」

全員はただ静かにジェーンを見守っていた。



    **********



俺は燃え上がる炎を見ていた。ただその場に立ち尽くして。
焼けるように痛む左肩を右手で押さえたまま。
町も、建物も、人も、全てが焼き尽くされて行く。
どうして、何故こんな事になってしまったのだろうか―――――――――――――



「お父さん遅いなぁ‥‥‥‥」



そうだ、俺は家で帰りを待っていたんだ。
嵐の吹いている中、修理に出かけた父さん。
机に突っ伏したまま、時計の針と睨み合っていた。
しかし、針は自分の与えられた使命を守り
一秒ずつ決められた間隔で時を刻んで行った。

「もうすぐお昼になっちゃうよ‥‥‥‥‥」

もしかしたら父さんに何か事故があったのではないか。
この嵐の中なら、何かあってもおかしくはない。
そんな事を考えていると、急に不安になった。
俺は大切に思う人間を不幸に陥れる。
そうを思うと、不安は余計に募って行くばかりだった。
時計の針が動く音がやけに大きく聞こえる気がした。

「‥‥‥‥‥‥よし!」

俺はついに決意した。クローゼットの中から
黄色いレインコートを引っ張り出した。
それを着ると、靴箱の中から長靴を取り出して履いた。

『心配だから、会いに行こう!』

それが、俺がついさっき決めたことである。
俺はドアノブに手を伸ばそうとした。
しかしその瞬間、俺の脳裏にある言葉がよぎった。


『外に‥‥出ては‥‥いけない‥‥‥外に‥‥出た‥‥‥瞬間‥‥から‥‥
 最悪の‥‥未来が‥‥始ま‥‥って‥‥しま‥‥う‥‥ん‥‥だ‥‥‥‥‥』


夢の中で村長が最後に放った一言だった。
しかし、それはあくまで夢の中での話で
現実には関係ないはずだと、幼かった俺は
あまり深く考えなかった。

『大丈夫だよね‥‥‥きっと‥‥‥‥‥‥‥』

頭の片隅で自問自答しながらも
ドアノブを回してドアを開け外に出て
嵐の中、しっかりと鍵を閉めてから
父さんが修理を頼まれた場所へと向かって行った。



    **********



 ガタッ! ガタガタッ!

家の窓ガラスが嵐の風に揺らされ
ガタガタと大きな音を立て続けている。

「後は配線を繋いで‥‥‥‥‥終わりました」

父さんは固定されたハシゴに乗って、家の壁に
取り付けられた配電盤を一応、雨対策に透明なカバーで覆って
その隙間か手を入れて、道具を使い修理をしていた。

「いやぁ、いつも助かるよ」
「いえ、仕事ですから」

この家の主にお礼を言われると、父さんは笑顔でそう答えた。
父さんはバッグに道具を全て入れ込むと続けた。

「さっきまでは風だけでしたが、そろそろ一雨降るかもしれません。
 早く家に帰らないと、娘が待ってますので」

父さんはそう言って、急いで帰ろうとすると
家の主である男は父に声をかけて呼び止めた。

「それなら、雨宿りついでに昼メシぐらいまかなわせてくれ」
「いえ、でもそんなに世話になるわけには‥‥‥‥‥」
「良いから良いから。ささ、早く。妻の料理はなかなかウマいぞ」

父さんは半ば無理矢理に家の中まで連れてかれていった。 
 

 
後書き
明日香の正体、それはアスラのお母さんでした。
まぁ、これを読んでいる人のほとんどは気付いていたと思いますが。

そして、ついにアスラも"超技術"を使えるようになりました。
え、こんな感じの能力を第Σ章で見た覚えがあるって?
言っておきますが、アスラの能力は“無重力化”ではありません。
見て分かる通りの能力です。詳細は本編で書きたいので
今回はこのくらいで止めておきます。

瀕死のジェーンは過去の出来事を思い出していた。
炎の中に立ち尽くす情景から始まる彼女の記憶。
その結末に至るまでに一体何があったのか。

次回 第40話 暗闇の中を漂う君へ お楽しみに!  
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