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IS 〈インフィニット・ストラトス〉 ~運命の先へ~

作者:GASHI
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第23話 「接触」

 
前書き
原作者に文句言えないレベルの遅筆っぷりを発揮しているGASHIです。
途方もないリアルの多忙とうだるような暑さに負け、長期間放置してしまいました。
10巻発売のおかげで意欲が復活しました。というわけで11巻の早々の発売、待ってまーす。 

 
放課後の特訓を終え、疲れた体を癒すために部屋で優雅にティータイムならぬコーヒータイムを過ごしていた時だった。この前買った携帯電話が着信音を鳴らす。初期設定から弄っていない無機質なコール音を止めるために電話に出る。耳に入ってきたのは聞き慣れた声。

「もしもし。兄様、今よろしいでしょうか?」

我が愛しの義妹、クロエである。まあ予想はしていた。現状、電話帳に登録されているのは束さん、クロエ、一夏の3人のみだし、何より俺が依頼した調査についての報告を聞くために首を長くして待っていたからだ。

「もちろん。首尾はどうだ?」
「束様のおかげで順調です。今回はとりあえず中間報告を。」

頼んでいたのはシャルルに関する情報収集。束さんの情報網を以てすれば容易いだろうと考えて委託したものだ。最初は渋っていた束さんだが、報酬のケーキと紅茶で釣れた。思ってたよりチョロくてちょっと心配になる。

「まず、シャルル・デュノアがフランス代表候補生であること、入学がフランス政府とデュノア社からの要請であることは間違いないようです。資料も確認できました。」
「そうか。まあ流石にそこまでは偽ってないようだな。」

仮に身分を偽っていたとしてもフランスに直接確認すればすぐに分かる。そこまでしなくてもIS学園の書類審査はかなり厳重だから、すり抜けるのは容易じゃないだろう。俺も千冬さんの協力があってこその入学だったからなぁ。・・・今更申し訳なくなってきた。

「また、デュノア社長には何人かの愛人がいることが分かっています。しかし、子の有無などまで調べるのは難しくて・・・。本妻との間に子供がないことは戸籍等の書類から確認できているのですが。」

クロエが口ごもる。まあ、愛人の時点で世間には公表できない存在だ。万が一子供が生まれていたとしても、認知などしないだろう。データベースに残らない以上、流石に手詰まりだ。跡取りがいないことが分かりさえすれば十分。

「ありがとう、クロエ。助かったよ。後はこちらで請け負う。」
「はい・・・。申し訳ありません。」

謝る必要なんかないのに、謙虚だなぁ。束さんも少しくらいクロエの性格分けてもらえばいいのに。・・・前言撤回、謙虚な束さんとか気持ち悪すぎるわ。

「謝るなって。本当に助かったんだから。今度帰省したときにお礼するよ。」

そう言って通話を切った。少々冷たい対応だが仕方がない。不器用な俺はああいう場合の対応方法を知らないのだ。束さんの方が上手く慰められるだろう。ここは任せた方がいい。

(それにしても困ったな。スケールがちと大きい話になってきた・・・。)

本妻の子でない以上、何かしらはあるだろう。しかも話を聞くに、今回の件にはデュノア社だけではなくフランス政府まで関わっている可能性がある。この規模だと小細工だけでは手に負えない。久々に派手に動く必要があるかもしれん。

コンコン。

ぼんやりと思案に暮れていた時、ノックの音が響いた。はて、今日は来客の予定はなかったはずだが。一夏が質問にでも来たかな?そう思ってドアを開ける。直後、俺はドアスコープを覗かなかったことを後悔した。

「こんばんは。お邪魔してもいいかしら?」
「・・・どうぞ。」

・・・ようやくお出ましかい。俺は目の前で不敵に微笑む女子生徒を部屋に招き入れた。



「ほれ、紅茶。」
「あら、ありがと。良い香りだわ。」

俺は2つのカップを持ってキッチンを離れる。1つは俺のコーヒー、もう1つは彼女の紅茶だ。日頃コーヒーしか飲まない俺は紅茶を淹れた経験がなかったので柄にもなく緊張してしまった。とりあえず上手く淹れられたようなので満足である。

「さて、用件を聞こうか。俺の時間を奪ったんだから相応の価値がなかったら許さないぞ、更識 楯無?」
「あらあらおっかないわね。せっかく美人なおねーさんとお喋りしてるんだからもう少し愛想良くしたらどう、神裂 零くん?」

生憎、保護者が稀代の人間嫌いなもんでね。そういう下らない処世術は習わなかったのさ。それに自分で自分を美人とか言い張っちゃう残念美人には興味湧かねえしなぁ。

「御託は良い。用件は?」
「心当たりくらいあるんじゃないの?」
「もちろん。ただありすぎて困ってるんだ。」

ここに来る前にも色々やってるからな。ある程度予測できているとはいえ、出来れば話題をはっきりさせておきたい。下手に自発的に喋り出すと誘導される恐れもあるし、発言は最低限に留めるべきだ。

「じゃあ質問。貴方が篠ノ之博士の関係者だというのは事実かしら?」
「事実だ。まあ、秘書とか助手とかそんな感じかな。この学園に来たのも束さんの依頼によるものだ。」

正直に答えると、怪訝な表情を浮かべられた。俺が1日1回見れるかすら分からないほど素直になってやってるのに、そんな顔をされるとは心外だ。

「何だ?何か不満でもあるのか?」
「・・・いえ、逆よ。随分素直に答えてくれるから驚いちゃったの。」
「ああ、そういうことか。別に隠すような情報でもないだろうし。国のお偉いさんも千冬さんたちも知ってるし。」

そもそも、俺を2人目の男性操縦者として国にアピールしたのは他でもない束さんだ。だからこそ、情報規制も行き届いてるし平穏無事に学園生活を送っていられる。あの人と国の取引がなければ千冬さんの協力を得ようがこんな暢気な生活は成立していない。

「・・・質問その2。ここに来た目的は?」
「織斑 一夏及び篠ノ之 箒両名の護衛を束さんに依頼されたんだ。今のところは何もやらかす気はない。」
「ふーん。今のところは、ね・・・。」

本心を言うなら自発的に何かやらかすのは可能な限り避けたいものだ。とはいえ興味が湧いたことだけで生きていけるほど甘くないのが人生というもの。だからとりあえず現段階では自分から動くことはないとしか言えないな。

「でも、ここには織斑先生がいるじゃない。護衛なんて必要ないと思うけど。」
「あの人は教師だから教え子全員を守ろうとするだろう。一夏や箒を優先していい立場にはいないんだよ。」

束さんが必要としたのはあくまで一夏と箒"だけ"を守るための人間だ。その役目を千冬さんに割り当てるにはあの人は余計な責任を背負いすぎているのだ。彼女の場合、義務感の塊みたいな性格だし生徒全員を物理的に守るという無茶な責任を実現できるだけの力量と頭脳を有してしまっている。その結果、フリーに動ける俺が拝命したわけだ。

「質問3。これが一番気になること。・・・この書類の記載内容、事実かしら?」

懐から一枚の紙を取り出す更識。なんか急に神妙な態度になったけど、そんな機密書類あったっけ?身に覚えないんだけど。どれどれ・・・。

「・・・ってこれ、入試の成績表じゃん。勿体ぶっといてこれかよ。」

昔の仕事でもバレたかと思ったが、蓋を開けてみれば下らない。俺が千冬さんと戦って圧倒的スペック差に凹まされたあの模擬戦のデータだった。・・・思い出したら無性に腹立ってきた。あの人、いつか泣かす・・・。

「もうっ、ケチつけないの。それで、織斑先生と戦って互角だったっていうのは本当なの?」
「それを見て互角だって思うお前の神経を疑うよ。」

国支給の量産機と束さん特製の専用機だぞ?スペックを考えれば専用機が圧勝してなきゃおかしい。それを引き分けまで持ち込まれたってことは、その圧倒的スペック差を覆すほどの技量差があったということだ。束さんといい千冬さんといい、アイツら本当に人間なのか?

「・・・否定しないってことは、これは嘘じゃないのね?」
「捏造なんかしてないって。そんな嘘吐いたら千冬さんに殺されちまう。」

こんな手の込んだ自殺をするほど、俺は暇ではない。そもそも入学試験の結果を捏造する必要性すらない。良い成績を残すほど、国から有用性を認められて優遇される。況してや俺には束さんと千冬さんという人類最強コンビの後ろ盾があるのだ。襲撃防止のためにある程度悪く伝える場合はあっても、過度に良く見せる必要はない。

「・・・そう。本当なのね。ふーん・・・。」

意味深に呟きながら紅茶啜るの止めてくれる?せっかく質問に回答してやったのにそんな煮えきらない態度されるこっちの身にもなってほしいんだけど。・・・おい、無言で空のカップ突きつけるんじゃない。おかわりならそう言え。

「ねえ、零くん。今度おねーさんと勝負しない?」
「は?なんで?」
「そりゃあ貴方の腕前に興味があるからよ。それに・・・。」

彼女は差し出されたカップを受け取ると、にこやかにこう言う。

「知ってるかしら?この学園の生徒会長は最強の称号を意味するのよ。」
「・・・つまらんプライドだ。そんな戦いに興味はないな。」

シリアスを気取るから何かと思えば、生徒会長の面目躍如が目的とはな。思っていたよりも陳腐な女だ。なんか一気に冷めた気分。

「じゃあ勝負しましょう。敗者は勝者に好きな命令ができる。ありきたりだけど、多少はやる気出るでしょ?」

ほう・・・。つまり俺が勝っちまえば更識家を顎で使えるって訳だな。確かにこちらにも利点のある話だ。負ける可能性も勿論あるが、それは負けた時に考えればいいことである。そもそもロシアの国家代表の実力は気になるしな。

「まあ付き合ってやるよ。俺も戦うのは好きだし。」
「ありがと。じゃあ詳細は追って伝えるわ。」

そう言うと、彼女は空になったティーカップを机に置いて玄関に向かう。

「紅茶、美味しかったわ。今度は将棋でも指しましょ。」
「・・・機会があればな。」

じゃあね、と手を振りながら彼女は去っていった。・・・さてと、俺がキッチンにいる間にアイツが仕掛けてた盗聴機、さっさと回収するか。 
 

 
後書き
オリジナルの話って難しいね。 
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