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黒魔術師松本沙耶香 妖女篇

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21部分:第二十一章


第二十一章

「彫刻ではない証拠に」
「証拠に?」
「こうして」
 黒髪の少女をその手の中に抱いた。そのうえで彼女の顔に自分の顔を近付けて唇を奪う。唾液が一条の糸となる中でまた言うのであった。
「愛し合うことができるのだから」
「そうですね。それでは」
「お姉様は」
「そうよ。本物よ」
 それだというのであった。
「では。いいわね」
「はい、御願いします」
「今度はこの中で」
 ベッドの中でするのと同じ様に再び三人の少女達を愛でた沙耶香であった。それが終わってから娼館を後にした。そうして向かったのは。
 既に真夜中だった。時間は近い。夜の巴里は暗く街灯の光も朧だ。その白い朧な光に照らされている石の道の上を進む。その途中で速水が出て来たのであった。
 そうして沙耶香の横に来て。こう言ってきたのだった。
「時間通りですね」
「遅れるつもりだったけれど」
 ここでこんなことを笑いながら言う沙耶香だった。
「実はね」
「おや、そうだったのですか」
「ええ。私の常でね」
 そしてこんなふうにも言ってみせるのだった。
「そうするつもりだったわ」
「相変わらず時間についてはですか」
「時間は待たせるものよ」
 そしてこんなことを言う沙耶香だった。
「それはね」
「貴女らしい御言葉ですね」
「向こうもわかっているわ」
 笑いながらの言葉が続く。微笑みもまた妖しいものである。
「私のこういった考えはね」
「そうですね。長い付き合いですし」
「彼女も。飽きないわね」
 言いながら腕から出したものは。一本の煙草だった。
 それを口に含むとすぐに火を点けた。火は指から出したものだった。
 それで煙草を吸いながらであった。沙耶香は彼に言ってきた。
「貴方もどうかしら」
「いえ、私は」
 しかし彼はその申し出を断るのだった。
「遠慮させてもらいます」
「いいのね」
「煙草は好きではありませんので」
 微笑んで述べた言葉だった。
「ですから」
「そうだったわね。貴方は煙草はね」
「吸わない主義です」
 あらためて沙耶香に述べた速水だった。
「どうも。合いませんので」
「今まで吸ったことはなかったのね」
「ええ。生まれてからこのかた」
 ないというのであった。
「お酒はやりますが」
「煙草は駄目なのね」
「煙草とドラッグの類もです」
 それもしないというのだった。
「一切しません」
「そう。まあ私もドラッグはね」
 煙草を一旦口から外す。そうしてその青い煙を口から出しながらまた述べるのだった。
「私も好きではないわ」
「それはされませんね」
「趣味じゃないのよ。むしろ」
「むしろ?」
「何故するのかわからないわ」 
 これが沙耶香のドラッグへの考えであった。
「あんなものをね」
「そうですね。私もああいうものは」
「自分の身体を苛むだけよ」
 そうでしかないというのである。
「阿片にしろ覚醒剤にしろ」
「他にも色々とありますが」
「全て同じよ。麻薬の類はね」
 要するにドラッグということである。
「同じものよ。全く意味のないものよ」
「快楽を得られますが」
「快楽なら」
 それを聞いてまた言う沙耶香だった。
「何時でも好きなだけ得られるわ」
「お酒と。そして」
「性でね」
 その二つであるというのだった。沙耶香にとっては。
 
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