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黒魔術師松本沙耶香 妖女篇

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18部分:第十八章


第十八章

「残念なことにね」
「ですが場所はわかりましたね」
「ええ。後はそこに行くだけよ」
「あの方から何か言って来る筈でしたが」
「そうだったわね」
 速水の今の話を受けて頷く沙耶香だった。
「それは」
「では私達のしたことはいささか無礼だったでしょうか」
 こんなことも言う速水だった。そのうえで己のカードを見る。その小アルカナをだ。
「このカードは舞うその場所を私に見せてくれます」
「私の百合もね」
「あの方からの話があったうえでこうしたことは」
「最初に謝っておくべきかしら」
 沙耶香もその可能性を否定しなかった。
「ここは」
「ええ、そうしましょう」
 こう言ったその時だった。ふとここに出て来たのは。
「その必要はないわ」
「あら」
「来られたのですか」
 依子だった。彼女がここに来たのである。
 丁度二人の間に来た。そのうえで二人に告げてきたのである。
「こちらも楽しませてもらったから」
「そうだったの」
「そうよ。だからいいわ」
 微笑んで沙耶香に告げる依子だった。
「それはね」
「そうなの」
「場所はそこよ」
 そこだというのだった。
「そこで。今夜ね」
「わかったわ」
「では今夜そこで」
「時間は十二時に」
 時間まで指定したのだった。
「宴の準備をしておくから」
「華やかな舞踏会でも準備しているのかしら」
「私はそれはあまり好きではないですが」
 沙耶香だけでなく速水も彼女に顔を向けていた。そのうえで言葉を返すのだった。
「それでも。招待してくれるのなら」
「喜んで受けさせて頂きます」
「舞踏会ではないわ」
 そうではないというのだった。
「それは」
「では何かしら」
「何を用意して下さるのですか?」
「私達が最も楽しみとしているものよ」
 それだというのである。
「それよ」
「あれね」
「わかりました」
 彼女の今の言葉を受けてそれぞれ納得した顔で頷く二人だった。
「それじゃあ。それでね」
「楽しみにさせてもらいます」
「伝えるのはそれだけよ。じゃあ」
 言葉を伝え終えると口元にさらに笑みを浮かべた依子だった。美しいが何処か邪なものも漂っている、そんな微笑みを今見せるのだった。
「またね」
「それまで私は」
「あら、相変わらず好きみたいね」
 依子は立ち去ろうとしたところで沙耶香に顔を向けて微笑んだ。後ろを振り向いたその顔がこれまた実に艶を醸し出していた。ただそれだけであるというのにだ。
「そういう遊びが」
「好きよ。だからこそまたね」
「今日はもう一人楽しんだようだけれど」
「巴里よ。美人は多いわ」
 その微笑みは美酒を飲んだ微笑みだった。それを依子に見せながらの言葉だった。
「一人だけで終わらせるのはどうかと思うけれど」
「そういうことなのね」
「そうよ。だから」
 また言う沙耶香だった。
「もう一人位はね」
「一人で済めばいいけれど」
「そうね。何人もというのもいいかしら」
 依子の言葉にその気になっていた。この色、それが例え同性であろうとも楽しむのが沙耶香だった。まさに彼女なのだった。
 
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