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黒魔術師松本沙耶香 妖女篇

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14部分:第十四章


第十四章

「地獄の様に熱く悪魔の様に黒く」
「タレーランですね」
「そうよ。そして」
 沙耶香の言葉は続く。
「恋の様に甘い」
「それがコーヒーですね」
「人生もまた然りよ」
 そしてまた言ってみせたのだった。それはコーヒーだけではないというのである。
「それもまたね」
「成程、深い言葉ですね」
「そうでなければ面白くないわ。コーヒーと同じ様に」
「人生もまた」
「熱く黒く、そして甘い」
 ここでまたそのコーヒーを一杯飲むのだった。
「その中で私は彼女とも戦い」
「そして」
「勝つのよ」
 今度は一言であった。
「それだけよ。では後は」
「はい、後は」
「事件の解決の報告だけを聞いて」 
 こう言ってみせるのであった。
「それじゃあ」
「私は今回の仕事は随分楽な様ですね」
 モンテスは沙耶香のここまでの話を聞いて軽くジョークを言ってみせたのだった。
「それは何よりです」
「仕事がなくてなのね」
「はい。お蔭様で」
 また笑って告げた言葉であった。
「楽をできます」
「楽にですか」
「ええ」
 今度は速水の言葉に応えた。
「そうです。何事も楽に進めて人生を楽しまないと」
「仕事はその中には入っていないのですね」
「いえ、仕事はですね」
 モンテスは速水の言葉にここでも笑って返すのだった。実に明るく。
「フランス人は楽しまないものなのです」
「そうでしたね。欧州では仕事は」
「辛いものです」
 これが欧州の人間の考えであった。基本的にそう考える傾向があるのだ。そしてそれはこのモンテスにしても同じであったのである。
「ですから。楽に終わるならです」
「都合がいいと」
「御二人には申し訳ないですが」
「いえ、いいわ」
 沙耶香はこのことも微笑んでいいとしたのであった。
「私も楽しませてもらうから」
「仕事をですか」
「ええ。それもね」
 仕事もまた、というのである。ここでは沙耶香は日本人だった。そして速水もである。
「楽しませてもらうわ」
「私もです」
「つまり戦いね」
 それだというのであった。
「楽しませてもらうわ」
「受けただけは」
「日本人ですねえ」
 モンテスも二人のそうした言葉を聞いて首を捻りながら述べたのだった。
「そうしたところはやっぱり」
「それに」
 そしてであった。沙耶香はここでさらに言うのであった。
 それが何かというと。さらに沙耶香らしいものであった。
「巴里はいい街ね」
「といいますと」
「こうして見ているだけで」
 巴里の街角を見ての言葉だった。そこを見ていると数秒経っただけで。
「美女が何人も目に入るわ」
「ほう、流石ですね」
 その彼女の言葉に微笑むのであった。
「もうそこまで見られたのですか」
「ええ、そうよ」
 沙耶香の笑みは妖しいものになってきていた。そうしてその言葉を続けるのだった。
 
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