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黒魔術師松本沙耶香 妖女篇

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10部分:第十章


第十章

「速水丈太郎」
 女が彼の名前を呼んだ。
「貴方も来たのね」
「依頼を受けまして」
 優雅な、それでいて何処か冷たさを含んだ笑みで女に言葉を返す速水であった。
「それでなのですよ」
「そう。彼女だけではなくなのね」
「あの方も一緒だとは薄々感じていました」
 それは彼もだというのであった。
「そして貴女が一連の事件の当事者であるということも」
「全てわかっていたのね」
「カードは全てを教えてくれます」
 その優雅さと冷たさを共に含んだ笑みのまま述べてきた。
「そう、全てをです」
「相変わらずそのタロット占いは見事なものの様ね」
「これが私の仕事ですので」
 だからだというのであった。
「当然のことです」
「そういえばそうね。貴方の本職だったわね」
「ええ。そして」
 今度は彼の方から女に対して言ってきた。
「陰陽道の裏において代々暗躍してきた高田家の直系」
 女をさしての言葉だった。
「高田依子。美女達を己のものにするのを止めて頂きます」
「それをなのね」
「そしてです」
 速水の言葉は続く。
「貴女が手中に収めている全ての女性の速やかな解放を」
「嫌だと言えば」
「お答えするまでもないと思いますが」
 言いながらだった。右手を一閃させて人差し指と中指の間に一枚のカードを見せてきた。それは死神のカードであった。
 そのカードを出すとだった。速水の背に巨大な鎌を持った白い骸骨が現われた。それが何かもまた言うまでもないことであった。
「それでは。宜しいでしょうか」
「二人がかりということね」
「そうなるわね。どうするのかしら」
「そうね。今日はこれで」
 こう言ってきた依子であった。
「帰ることにするわ」
「淡白なのね」
「気紛れなのよ」
 またしても妖しく笑って沙耶香に返すのだった。
「だからよ」
「そうなの。それでなのね」
「そうよ。私は気紛れだから」
 笑みをそのままにして述べていく。
「今日はこれで」
「そうですか。それではです」
 速水も彼女のその言葉を受けた。
「小宵はこれで」
「ええ、これでね」
「今夜はこれで終わりね」
 沙耶香はその翼を収めたうえで依子に告げた。
「けれど今度は」
「また会いましょう」
 そこから先は言わずともであった。
「またね。その時によ」
「楽しい舞台のはじまりなのね」
「一人より二人」
 闇夜の満月の白い光に照らされながら言う依子だった。白い服がその月光で輝いている。
「そして二人より三人ね」
「人が多い方が楽しいということですね」
「そうよ。わかっているわね」
「相変わらず派手なことがお好きですね」
 速水は嫌味ではなく率直な意味で依子に告げた。
「ある意味この街に相応しい方です」
「そう思うわね。それでは」
「はい、また」
 静かに言葉を返す速水だった。
「御会いしましょう」
「次の機会に」
 こうしてまるで霧の様に姿を消す依子だった。後に残ったのは沙耶香と速水だけであった。二人は彼女の気配が完全に消えたのを察するとあらためて二人向かい合うのであった。
 
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