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黒魔術師松本沙耶香  紫蝶篇

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32部分:第三十二章


第三十二章

「蝶は見える色により集まるもの。だからこそ」
「その術を使った。そうね」
「ええ。これで私の勝ちね」
「さて。それはどうかしら」
 しかし沙耶香の勝利の言葉はすぐに打ち消された。
「貴女が全て蝶に覆われては。どうしようもないわね」
「私が?」
「そうではなくて?」
 また沙耶香に問う。
「貴女全てが消える。それで終わりよ」
「そう、私がね」
 沙耶香達はその言葉を聞いて同時に笑ってきた。
「消えるのね。面白いこと」
「そうではなくて?」
 全員で言う沙耶香達に対して述べる。
「実際に蝶達は向かっているわ。これで」
「お生憎ね」
 ここでまた沙耶香の声がした。
「!?」
 依子はそれが今いる沙耶香のどれからも放たれたものではないのに気付いた。そう、今言葉を発している沙耶香は見えはしなかったのだ。
「何処なのかしら」
「ここよ」
 依子の目の前の青空が割れ、そこから漆黒の堕天使が姿を現わした。沙耶香は今その背に黒い炎の翼を作り舞っていた。その姿で依子を見据えてきていた。
「私はここにいるわ」
「そして私も」
 今度は後ろからであった。振り向くとそこに黄金色の光があった。そこから速水が姿を現わしたのであった。
「移ったのね」
「はい」
 よりこの問いにこくりと頷く。
「その通りです」
「どうやら。蝶達を離して勝負に出るつもりだったのね」
「そうよ」
 沙耶香が答えた。
「わかったようね。それじゃあ」
 黒い翼を回せる。速水もカードを出そうとしていた。
「いいわね、決着よ」
「参ります」
 沙耶香の目が赤に、速水の顔の左半分が見えそこにある目が金色に光っていた。二人はその目で依子を見据えて技を放とうとしてきていたのだ。
「一撃で倒すつもりなのね」
 二人に対して問う。
「ここで」
「その通りよ。覚悟はいいわね」
「チェックメイトです」
 沙耶香は漆黒の翼を極限まで大きくさせ、速水は節制のカードを出してきていた。カードから絶対的なまでの冷気が出て辺りを覆わんとしていた。
「そう来るのなら私も」
 依子の目が変わった。青い光を放ってきた。
「簡単にやられるつもりはないわ。いいわね」
「引かないのね」
「勿論よ。さあ」
 今度は蝶達を出さなかった。かわりに全身に風をまとわせてきた。
「この風で。切り刻んであげるわ」
「面白いわ。そう来るのなら」
「私としましても」
 煉獄の炎と地獄の吹雪が起こる。それを一挙に依子にぶつけてきた。
 黒い翼が舞って前を覆い猛吹雪が絵の中を支配する。全てが焦げ尽くされ、そして凍りつく。依子はその中で無数の鎌ィ足を放つ。それで二人を退けるつもりであった。
 三つの力が激突した。黒と白、そして銀の三つの光と力が世界を覆い尽くした。それが終わった時沙耶香と速水はまだ宙の上に浮かんでいたが依子の姿は何処にもなかった。
「やったのかしら」
「どうでしょうか」
 下を見れば蝶達の姿も消えていた。蝶の相手をしていた分身達は一つになり今沙耶香の影に戻った。だがそこにも依子の姿はなかったのであった。
「気配もしませんが」
「やった・・・・・・のではないわね」
「残念ね」
 依子の声だけがした。
「私はまだ生きているわよ」
「そう、やはりね」
「では出て来られたらどうですか?」
「いえ」
 しかし速水のその誘いは断ってきた。
「それはお断りさせてもらうわ」
「あら。何かあったのかしら」
「傷が深くてね」
 依子の声は笑っていた。しかし姿は決して見せはしないのだった。
「こちらとしても残念だけれど。今回はこれでお別れね」
「やれやれです」
 速水はその言葉を聞いて苦笑いを浮かべる。しかし依子本人が姿を見せないのでいささか拍子抜けした様子であった。それは沙耶香も同じであった。
「けれどまた会うことになるわね」
「ええ、またね」
 沙耶香の言葉に答える。
「女の子達は離れたわ。魔界に入れていた彼女達はね」
「何処にもいないと思ったら。そこに囲い込んでいたのね」
「ええ。そこで魔力と肉欲の糧にしていたのだけれど」
「残念だったわ」
「それで彼女達は無事なのですか?」
 速水が依子に問うた。その問いは彼も沙耶香も期待したものであった。
「ええ。皆で」
「そうですか。それは何より」
 まずはそれに安心した。依子はさらに二人に告げてきた。
「美術館の外に皆いるわ。それじゃあ」
「今度は日本でかしら」
 沙耶香がそう声をかける。
「会えるのは」
「さてね。けれど今度会った時は」
「わかってるわ。今度こそね」
 それがマドリードで二人が交えさせた最後の言葉だった。依子はその気配も何処かへと消えさせたのであった。後には何も残ってはいなかった。


 
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