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ドリトル先生と森の狼達

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第六幕その九

「どうも普通の山犬じゃないけれどね」
「何かね。妙にね」
「後ろからついて来るのが長いみたいな」
「普通の犬や山犬よりも」
「そうよね」
「これだけついてくる犬さんって」
「いないけれど」
 チープサイドの家族も先生の肩や帽子を被った頭の上から後ろの方を振り返りつつそして言うのでした。
「あの山犬さんって」
「不思議ね」
「別に襲い掛かって来る訳じゃなく」
「ただついてきてる?」
「そうした感じね」
「後ろから」
「ううん、気になるね」
 老馬も言うのでした。
「あの山犬君は」
「あんな山犬はね」
「僕もはじめて見たよ」
 王子とトミーも後ろの方をいぶかしんで言うのでした。
「変わった山犬だね」
「縄張りからもう出てるんじゃないかな」
「それなのにね」
「まだ後ろから狂って」
「これはね」
 ここで老馬が出した言葉はといいますと。
「送り狼みたいだね」
「ははは、そう言うんだね」
 先生は老馬の今の言葉に笑って応えました。
「成程ね」
「成程っていうと」
「まあもうすぐお茶の時間だから」
 それでというのです。
「休もうか」
「あっ、もうなんだ」
「お茶の時間なんだ」
「早いね、もうなんだ」
「お茶の時間なんだ」
「そうなのね」
「そう、だからね」
 それでと言ってです、そのうえで。
 皆にお茶の用意を勧めました、実際に先生達はです。
 皆で休むに適した場所を見付けてでした、それからです。
 皆でティータイムに入りました、そこでカップの中の紅茶を飲みつつです。先生はようやく後ろから来ているその山犬の方を見まして。
 そのうえで、こうその山犬さんに言いました。
「ようこそ、狼君」
「えっ、狼!?」
「狼って!?」 
 皆は先生の今のお言葉に仰天しました、王子とトミーは手に持っていたカップを思わず落としそうになった位です。紅茶も危うく溢れるところでした。
「そんな、狼って」
「いる筈ないじゃない」
「先生、それはちょっと」
「嘘よね」
「冗談なんじゃ」
「いや、冗談じゃないよ」
 先生はいつもの穏やかな笑顔でその驚いている皆に答えました。
「僕が今言っていることはね」
「あの、けれど」
「日本にもう狼はいないんじゃ」
「百年以上前に絶滅して」
「それでもう日本にはいない」
「そうなんじゃないの?」
 皆で先生に言いますが。
 けれどです、先生だけは落ち着いた顔のまま言うのでした。
「そう言われていてもね」
「実際はなんだ」
「違うんだ」
「そうしたこともあるんだ」
「絶滅したと思ったらまだいるってことも」
「そうしたことも」
「そう、だからね」
 やっぱり落ち着いたまま言う先生でした。 
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