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黒魔術師松本沙耶香  紫蝶篇

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19部分:第十九章


第十九章

 二人はロスアンヘルスに今までのことと依子のことを話した。それは彼女にとっては思いも寄らぬことであると共に非常に興味深いことであった。
「日本人の魔術師ですか」
「そうです」
 速水が彼女に答える。今三人はロスアンヘルスの家のソファーに座っていた。そこで沙耶香と速水は並んで座ってロスアンヘルスと対していたのである。
「元々は陰陽道の者でして」
「陰陽道」
「日本の魔術です」
 速水はそうロスアンヘルスに説明してきた。
「日本のですか」
「はい」
 そう述べる。そもそも陰陽道とは五行思想や陰陽思想も入った中国の思想の影響が強いものであるがそれ以上に式神を使った術で知られている。
「そこに西洋の魔術を取り入れているのです」
「それが蝶になっているのですね」
「そうです、日本のものだけでなく西洋のものも取り入れまして」
「私達と同じです」
 沙耶香と速水はそうロスアンヘルスに述べた。
「私もあらゆる国の術を学んでいます」
「私もです」
「そうだったのですか」
「そうです。彼女もまたそうである為」
「かなりの魔力を持っているのです」
「そもそもですね」
 ロスアンヘルスは依子について尋ねてきた。
「その高田依子というのは何者なのですか?相当な魔力を持っているのはわかりましたけれど」
「元々は彼女の祖母にまで話が遡ります」
「祖母に、ですか」
「そうです」
 沙耶香は答える。
「彼女の祖母もまた私達と敵対していまして」
「そうだったのですか」
「その祖母と何度も激しい戦いを繰り広げてきていたのです」
 今度は速水が言う。
「遂に決着を着けたのですが」
「彼女の戦いにそのまま入りまして」
「つまりあれですね」
 ロスアンヘルスは二人の話を聞いてわかり易く言ってきた。
「祖母の仇であると」
「簡単に言うとそうなります」
 速水はそれに応えてきた。
「まあ他にも関係があるのですがね。浅くはない関係ですし」
「何度も戦ってきたのです」
 沙耶香と二人で述べる。
「その前にも何度も顔を見合わせていますし」
「どうにも。厄介な関係でもありまして」
「その彼女がどうしてこのスペインにいるのでしょう」
 ロスアンヘルスはそれについても述べる。
「魔力を集める為だとは御聞きしましたが」
「それですね」
 沙耶香がそれに応える。
「実は彼女は奇妙な性癖がありまして」
「奇妙な」
「はい。具体的に申し上げると同性愛者でもあります」
 そう述べる。
「何しろスペインは美女が多い国ですから」
「それは有り難いわね」
 ロスアンヘルスはその言葉に一旦は目を細めさせる。
「けれど。それで魔力を集められるというのは」
「美女をこよなく愛しますので」
「それだけではなくて」
 また速水が言葉を入れる。
「男性もまた。恋多き方なのです」
「情熱的なのかしら」
「それとはまた違います」
 沙耶香はこう返した。
「情熱的というよりは背徳的で。妖しいことを好むのです」
「耽美なのかしら」
「そうなります。ですからまた」
「このスペインでもですね」
「そうなります。だからこそ」
 ロスアンヘルスにあらためて言う。ロスアンヘルスもその言葉を聞きながらじっと沙耶香を見ていたのであった。その目を離しはしない。
「私達はこの依頼を最後まで果たします」
「ですから御安心を」
「わかりました」
 ロスアンヘルスはその言葉に応える。
「それではお任せします。妹のことを」
「ええ」
 こうして沙耶香と速水は依頼主であるロスアンヘルスに依子について述べたのであった。それが終わってからまた捜査をはじめた。
「一度占ってみます」
 速水は二人でマドリードの道を歩きながら沙耶香に述べてきた。
「何をかしら」
「あの方の居場所ですよ」
 沙耶香の顔を見て言う。
「本拠地をつけばこの捜査も終わりですね」
「確かにね」
 沙耶香もその言葉に同意して頷く。
「それを調べるのね」
「はい。ですが」
 速水はここでまた言う。
「あの方が相手ですし。容易な場所ではないでしょう」
「調べるのでさえ困難なのね」
「そうです。ですから」
 カードは出さない。その声だけで語る。
「こちらも暫く力を集めます。ですから」
「わかったわ」
 沙耶香は速水に対して頷く。
「じゃあ夜ね」
「夜に。何処で」
「貴方の部屋に行かせてもらうわ」
「いいことです。それでは」
「期待はしないでね」
 速水がその言葉に期待をかけるとすぐにそれを打ち消してきた。
「今から少しね」
「おや。今日もですか」
 その言葉に右の目元と口元だけで笑うが言葉は寂しそうであった。
「それはまた」
「マドリードに来てもね」
 沙耶香は言う。
「寝たのは日本の娘ばかりだからね。だから」
「だから?」
「スペインの娘も味わっておきたいのよ」
 まるで獲物を狙う蜘蛛のような目であった。その目でこれからのことを言うのであった。
「わかってくれるわね」
「嫉妬を感じますがね」
 そうは言っても強い言葉ではない。沙耶香のそうしたところも見ているといった感じの言葉だった。

 
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