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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第32話:モブらはみんな生きている 一

 
前書き
♪モブらはみんな生きている 生きているけど出番ない♬
♪モブらはみんな生きている 生きているけど台詞ない♬
♪手のひらを太陽に透かしてるポーズは 主役級が良く似合うのさー♬
♪子供だ~って メイドだ~って お城の兵だって~♬
♪みんな みんな 出ているんだ 台詞ほしいんだー♬ 

 
(グランバニア城・カフェ)
ロバートSIDE

「先輩から結構詳しい情報を仕入れてきたわよ!」
昼休み……カフェの一角で同期の兵士であるマークと共にメイドをしてるスカーレットを待っていると、待ち人たる女性が瞳を輝かせて現れた。

「本当か? どんな情報だよ」
マークが俺の顔を見た後、半信半疑でスカーレットに問いかける。
噂話が大好きな友人には困ったもんだ。

「確かな情報よ。だって当時あの場所に居た先輩メイドから聞き出したんだから! 苦労したのよ」
大概の事において自由なグランバニアでも、王家の……それもトップクラスの者達の側に仕える事の出来る者は、やはり口が堅い者が多く、おいそれと陛下の周辺で巻き起こった事を広めたりはしない。

だからこの二人の様に噂話が好きな連中は、話を聞きたがるのだ……
3日前に起きた“ルクスリエース・バンデ号、人質籠城事件”の事を!
通称“シージャック事件”ともいう。

「やっぱりウルフ君があの船に乗り込んでたのは偶然らしいわよ」
「本当かぁ? 陛下が乗船チケットをウルフ殿に渡したらしいじゃんか?」
その話は有名だ。陛下の信頼を大きく得ているウルフ殿に、陛下が労いの意味を込めてチケットを渡したと言われている。

「あんたねぇ……リュカ様がウルフ君にチケットを渡したのは1ヶ月以上も前の事よ! こんな事件が起こるなんて分かる訳ないじゃないのよ!」
「俺だって普通の人だったらそう考えるけど、リュカ陛下だぜ! 10年先まで見通してるって言われたって疑わないよ」

「私もその考えには反対しないけど、今回は違うのよ。何故かというと、ウルフ君と一緒に姫様達も同行してたらしいのよ! リュカ様が姫様達を進んで危険に晒すと思う? 晒すにしてもウルフ君と一緒にじゃなく、自ら解決出来る状況にして事に及ぶわよ!」

リュカ陛下のお子様は大変多く存在されるが、我々一般の者が認知しているのはティミー殿下・ポピー様・リュリュ様のお三方だけ。
その他の方々は、ある程度の年齢に達するまで世間には知らせず一般人としてお育てになっているらしい。

もしかしたら俺も城内でお目にかかった事があるかもしれないけど、顔も名前も知らされてないから判らないのだ。
実際、幼い頃のティミー殿下とは城下で度々お目にかかった事があり、気さくに会話をさせて戴いたのだが、あの優しいお兄さんが王族である事を知ったのは随分後での事だ。

「でも凄いわよねぇリュカ様とウルフ君は。何の事前打ち合わせもしないで話を合わせて人質を無傷で取り返しちゃうんだもの」
全くもってその通りだ!

今やグランバニアの誰もが知ってるこの事件……
ウルフ殿が乗る船にシージャック犯が乗り込み、人質の命と引き替えに5億(ゴールド)もの大金を要求した、前代未聞の大事件。

俺と同い年であるにも拘わらず、人質の無事と事件解決を成功させたウルフ殿は、誰もが天才だと認めるだろう。
生意気じゃなければ、もっとメイド等にモテただろう……
メイドの間では『生意気なガキ』として有名だ。尤も、それでも憧れているメイドが数人居るらしいが。

「……それで、俺等の知らない情報ってのは何だよ?」
マークもスカーレットも、今ある情報だけで盛り上がってるので、話を進めさせる為に俺は彼女の情報を問うてみる。

「ふっふっふっ……聞いたらアンタ等キレるわよ」
「サッサと言わなきゃお前にキレる」
勿体振るスカーレットに笑いながら催促する。

「せっかちねぇ、じゃぁ言っちゃうけど……ウルフ君てば、リュリュ様を犯人達に“フィアンセ”として紹介したみたいよ(笑)」
「な、何だとあのクソガキ!?」
何でそうなったのか判らないが、リュリュ様ファンのマークには許せない情報の様だ。

「ほらキレた」
「キレたのはマークだけだろ。俺はリュリュ様のファンじゃない……で、如何いう経緯(いきさつ)で?」
一人憤慨しているマークを尻目に、フィアンセと紹介したウルフ殿の意図を聞いてみる。

「うん。先輩がティミー殿下やアルル様から聞いた話を総合すると、ウルフ君のVIP度を上げる為……って事らしいわよ」
「何だそりゃ?」
「あのガキのVIP度なんて上げる必要ない!」

「そういう訳にもいかないんだってば。1000人もの人質を守る為には、最も効率の良い人質が1人必要だったんだって」
「効率の良い人質?」

「つまりね、リュカ様はお芝居で1000人の人質を見捨てようと演技したの。そこへリュリュ様が涙ながらにフィアンセの無事を父親に懇願すれば、ウルフ君さえ居れば人質は事足りるって犯人は思う訳よ」

「そこが解らん。何故陛下は1000人の人質を見捨てようと言い出したんだ?」
「本当に解らないのかロバート? 犯人が人質を盾に出来なくする為だよ。陛下が金を払うのを惜しんで、人質を見捨てる発言をすれば、犯人は人質を盾にしたり、危害を加えたりしなくなる」

「なるほど! でも自棄にさせない為に、ウルフ殿をVIPな人質として仕立て上げたんだな? 身を守る盾としてだけじゃなく金を払わせる貴重な道具に!」
「だからと言って何であのガキがリュリュ様の……」

リュリュ様に一方的な憧れを持つマークは、しつこくウルフ殿を罵る。
気が付くと俺等の周囲には、この話を聞きたがってる他の兵士やメイド等までもが集まり、マークの憤慨に同調する者も見当たった。

「俺の聞いた話では、陛下は犯人等にゴレムス殿とサーラ殿をMH(マジックフォン)越しに見せ付け、1000人の人質と共に犯人を皆殺しにする意思を見せ付けたらしいぞ」
突如俺等3人の会話に割り込んできたのは、海兵のクリスだ。

「身代金支払いを渋り、犯人諸共人質を皆殺しにする意思を見せて、犯人等に『人質に危害を加える』的な言動をさせなくしたらしい。加害発言をせずに身代金交渉を進めれば、命は助かるし金も入ると思わせて……」

「でも、それだけじゃ無いらしいわよ」
会話に割り込んできたクリスに対し、スカーレットは何時もの調子で返答する。
そこが彼女の良いところだ。

「最終的に身代金と人質を交換する時、1000人もの一般人を先に解放させてウルフ君を最後まで人質として残らせる為に、リュカ様もウルフ君をVIPに仕立てたらしいわ」
「え!? 事件発生直後から解決までのシナリオを想定してたのか?」

「凄いわよね。犯人等は、操られてるとも知らずにウルフ君を重要な人質として握り続けたんですから!」
本当に凄いよ。
犯人等は全てを失うその時まで、陛下の掌で踊らされてるなんて気が付かないのだから。

「でも笑えるのはリュリュ様の一言だよな……知ってるか、ウルフ殿以外の人質を解放させた後の言葉を?」
またも会話に割り込んできたのは海兵のジェレミー……

「お、流石海兵君ね! もしかしてその場に居合わせたのかしら?」
「残念ながらその場には居なかったけど、その場に居た同僚から教えてもらったんだ。犯人等が最後の人質であるウルフ殿を盾に身代金を渡す様に迫った時に『もう如何でもいっかな? 殺しちゃえばぁ』ってリュリュ様が本音を吐露されて事を(大笑)」

「え、マジ!? リュリュ様ってばウルフ君を見捨てようとしたの?(笑)」
「はははははっ、いい気味だ。本当に見捨てられれば良かったのに」
ジェレミーの情報にスカーレットもマーク等リュリュ様ファンも大喜びだ。

「俺の知ってる話じゃ実際に見捨てられたそうだよ。でもウルフ殿は自力で犯人の剣を奪って華麗に逃げ出したそうだ」
「ちっ……あのガキは、それなりに立ち回れるからな。頭脳労働も肉体労働も出来るなんて……本当に生意気だな!」

俺の提示した情報に、さっきまで楽しんでいたマークが顔を顰めて吐き捨てる。
リュリュ様をフィアンセに仕立てたくらいで、そこまで毛嫌いしなくても良いんじゃないの? でもマーク以外のリュリュ様ファンも、一様に顰めっ面をしてる。

「ところで……その後の犯人達が如何なったのか知ってる?」
「如何なったって……逮捕されたんだろ?」
少し雰囲気が悪くなりかけたところでスカーレットが話題を変えた。

「そうじゃなくて……逮捕されるまで24時間の猶予があったじゃない。その間の事よ!」
「えぇ!? その間も陛下にいびられ続けたの?」
「そりゃ最悪だな(笑) 金はもらえない、逮捕される、その上いびられる……か」

「で、どんないびられ方だったんだ?」
流石の俺も知らない情報だったので、思わずスカーレットに先を話す様催促してしまう。
いかんな……これでは俺も同類だ。

「凄いのよ。甲板の一角をロープで囲い、その中に犯人の安全圏を設けて閉じ込める。そこから出ようモノなら陛下の風だけバギマで吹き飛ばされ、深い深い海にドッボ~ン! 最初に安全圏から出た奴が、泳ぎの達者な者だったから再度安全圏の中に戻ってこれたけど、その他の者はビビりまくりで無茶はしなくなったわ」

「それはそれは……でも1人で済めば御の字じゃね?」
「馬鹿ねぇ……このいびりは、後々に恐ろしくなってくるのよ」
「後々……?」

「安全圏は何も無い甲板の上よ。お腹が空いても何も無い。トイレに行きたくても何も無いのよ!」
「うわ、酷い!?」
トイレも無いの一言に、他のメイド等から呻き声が聞こえてくる。

「連中もリュカ様に『大or小したいんですけど』って訴えるんだけど、『すれば?』の一言で終わり。安全圏から出ようとすればバギマを唱えられそうになり、如何する事も出来ず……」
「……………ま、まさか!?」

「ふふふっ……そのまさかになりそうになった直前にリュカ様から『金出せばトイレ貸してやる』との提案(大笑)」
「え~!!! 身代金を奪えなかったのに、逆に金を奪われちゃったの!?」
凄いな陛下は……

「そ、それで……どのくらいふんだくったの?」
「それがね、何故だか13(ゴールド)なのよ……どんな意味があるのかしら?」
「さぁ……陛下の考える事だからなぁ」

「でも犯人は助かったね。13(ゴールド)払えば、艦内のトイレに行ける様になったんだから」
「なってないわよ馬鹿ねぇ」
メイドのエリザベスが苦笑いで犯人を思いやると、リュカ様の辛辣さはまだまだだと言わんばかりに、スカーレットが嘯いた。

「13(ゴールド)で犯人等に与えられたのは……アヒルちゃんのオマル」

ロバートSIDE END



 
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