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真田十勇士

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巻ノ六 根津甚八その十三

「用意は出来たな」
「はい、今にもです」
「出陣出来ます」
「この駿府にも兵が集まっております」
「岡崎にも浜松にもです」
 この二つの城にもというのだ。
「兵はもう集まっております」
「後は殿のご指示だけ」
「殿が一言お命じになればです」
「出陣出来まする」
「今すぐにでも」
「左様か、ではわしの具足を出すのじゃ」
 この男徳川家康は家臣達の言葉を聞き確かな笑みを浮かべて答えた。
「よいな」
「畏まりました」
「それでは」
「今から」
「出陣しましょうぞ」
「そうする、しかしな」
 出陣を告げたところでだ、家康はこうも言った。
「一時はどうなるかと思った」
「はい、本能寺で異変が起こった時は」
「織田信長公が討たれた時は」
「まさかと思いました」
「しかも跡継ぎの信忠公も討たれ」
「織田家はどうなるかわかりませぬ」
「羽柴秀吉殿が大きくなっておられますが」
 ここで秀吉の名前も出た。
「あの御仁は頭が回りますし」
「妙な人懐っこさがあります」
「しかも機を見るに敏」
「瞬く間に近畿に地盤を築いておられます」
「そうじゃな、その織田家は甲斐及び信濃から去った」
 家康はここでこうも言った。
「織田家がおらぬならな」
「はい、それではですな」
「甲斐、信濃は今や主がおらぬ場所」
「そこに兵を進めても悪いことはありませぬ」
「ですから」
「そうじゃ、問題は北条家と上杉家じゃ」
 この二つの家についてもだ、家康は言及した。
「この両家、特に北条家じゃな」
「あの家も甲斐、信濃を強く狙っています」
「ですから油断出来ませぬ」
「北条家と戦になるやも」
「そして上杉家とも」
「そうじゃ、両家が敵じゃし話をする相手じゃ」
 甲斐、信濃を巡ってというのだ。
「兵だけでなく人もやるぞ」
「はい、その用意も出来ています」
「何時でも小田原、春日山に人をやれます」
「出来るだけ多くの土地を手に入れましょうぞ」
「是非」
「うむ、それではな」
「それで殿」
 ここでだ、家臣達の中でとりわけ前にいる者達のうちの一人、顔に皺が多くあるが精悍な顔立ちの男が言ってきた。四天王筆頭にして家康の片腕とも言われる酒井忠次だ。
「甲斐、そして信濃の国人達ですが」
「先に申した通りじゃ」
 家康はその酒井に微笑んで答えた。
「降るなら手出しはするな」
「はい、喜んでですな」
「当家に迎え入れる」
 そうした国人達はというのだ。
「戦をするというのなら応える」
「そういうことですな」
「かといっても無闇に命を奪うことはないがな」
「左様ですか」
「そうじゃ、無闇な殺生はするな」
「甲斐、信濃での乱暴狼藉はですな」
「三河武士に相応しくあれじゃ」
 こう言って乱暴狼藉も慎むのだった。 
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