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俺と乞食とその他諸々の日常

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十八話:高町家と日常


 ついにこの日が来た。
 俺は震える体を抑えてインターホンを鳴らす。
 今日俺はある家に招かれていた。金を返すのもあるが何も持たずに来るのは失礼なので一応贈り物のお菓子だけは持ってきたが不安だ。
 初めてヴィクターの家に行った時よりも緊張しているかもしれない。
 しばらく待っていると声と共にドアが開かれた。

「いらっしゃい、リヒター君」
「上納品をお受け取り下さい!」
「い、いきなり土下座!?」
「いいえ、五体投地です」

 最大級の敬意を払ってなのはさんにお菓子を渡した後すぐに五体投地をかますが反応としては至って普通の反応が返って来た。
 まあ、普通は驚くよな。
 軽く服を払いながら起き上がり気を取り直して家にあげてくれたなのはさんについて行く。
 案内されたリビングに行くとそこには初めて見る金髪に赤い眼のダイナマイトボディのお姉さんが居た。

「あ、いらっしゃい」
「お邪魔します。リヒター・ノーマンです」
「ヴィヴィオが言っていた子だね。私はフェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウンだよ」

 お互いに、にこやかな挨拶を交わす。
 確か、フェイトさんは執務官で有名な人だったと記憶している。
 それにしてもおっぱいが大きい。ミカヤより大きいかもしれないな。

「突然だけど、君にとってのなのははどういう存在なのかな?」
「神」
「ヴィヴィオは?」
「ジーザス」
「なのは、リヒターっていい子だね」
「待って、フェイトちゃん! 明らかに質問と答えがおかしいよ!?」

 フェイトさんの問いかけに百点満点の回答をして見せたというのに何故かなのはさんがツッコんでくる。
 フェイトさんと顔を見合わせて首を傾げてみるがやはり心当たりがない。
 俺達が一体何をしたというのだろうか?

「いっぱいあるよ! まず私が何故か神様になっているし、ヴィヴィオも神の子になっているし!」
「お金を恵んでくれた人は神様です」
「その理屈だといっぱい神様ができそうだね……」

 疲れたように溜息を吐くなのはさん。
 だが、すぐに気合を入れ直すように頬を叩いて顔を上げる。
 相も変わらず男らしい。

「そう言えばお茶を淹れてなかったね。リヒターは紅茶で大丈夫かな?」
「大丈夫です、フェイトさん」
「それじゃあちょっと待っててね」

 パタパタとスリッパを鳴らしながらキッチンへと消えていくフェイトさんを眺めながらふと思う。
 もしかしてこの人達は一緒に暮らしているのだろうかと。
 雰囲気や仕草、おまけに言動の全てからフェイトさんがこの家に住んでいるのが分かる。
 そしてヴィヴィオちゃんもこの家で暮らしていることはつまり―――

「フェイトさんはなのはさんの嫁という事ですか」
「違うよ! それとどうして私がお嫁さんじゃないのかは教えてくれるかな?」

 真顔の俺に対してまたもツッコむなのはさんだったが途中で自分が男扱いされていることに気付いて若干怖い顔で問いただして来る。
 ヤンデレ化しそうになったジークよりも迫力があるので慎重に言葉を選びながら答える。

「ぶっちゃけ、言動全てがカッコイイからです。なのはさん」
「う、嬉しいけど何だか複雑……私女の子なのに」
「どちらかと言うと女性では?」
「……良かったね、リヒター君。今のセリフ、少し違う言い方だったら大変だったの」

 どうやら女性に年齢が上だと言うのはご法度らしい。
 ジトリとした目を向けられて背中から冷や汗が止まらない。
 蛇に睨まれた蛙の気持ちが少しわかったような気がする。

「でも、なのはは昔からカッコよかったよね」
「もー、フェイトちゃんまで!」
「聞いてよ、リヒター。私達が仲良くなったのも全力でぶつかり合ったからなんだよ。戦いの果てに二人の心は通じ合ったんだ」
「間違ってないけど、誤解を招きそうな言い方はやめて!」

 ちょうどお茶を淹れ終わったフェイトさんが戻ってきて笑いながらちゃちゃを入れてくる。
 始めは恥ずかしそうに顔を赤らめていたなのはさんだったが話が細部に及ぶと必死になって止め始めた。
 残念そうなフェイトさんをよそに俺はその光景を想像する。
 死力を尽くして戦いあった後にお互いの想いを伝え合う……なんて少年漫画的な熱い展開なんだ!
 異性同士なら普通にヒロインが落ちそうだ。もちろんヒーローはなのはさんだ。

「ただいまー! あれ、リヒターさん?」
「お帰り、ヴィヴィオちゃん」

 そうこうしているうちにヴィヴィオちゃんが帰って来た。
 負けて落ち込んでいるかもと思ったがどうやら自分で立ち直ったみたいだな。
 やっぱりなのはさんの娘だな。

「ヴィヴィオは私の娘でもあるよ」
「そうですね。それとさりげなく心を読まないでください」
「分かるよ……お母さんだもの」
「それは、ヴィヴィオちゃんに言ってあげてください」

 フェイトさんは中々愉快と言うか天然な性格らしい。
 見た目のギャップと相まってきっと男の心をつかんで離さないんだろうな。
 因みに俺は別に掴まれていない。あのおっぱいは掴んでみたいが。

「ヴィヴィオ、今日は何していたの?」
「今日は三人でアインハルトさんの特訓に協力していた―――あ」

 なのはさんの質問に途中まで答えかけていたヴィヴィオちゃんだったが俺を見て口を噤んでしまう。
 対ジークへの戦略がばれることを恐れてなのか、それとも対戦相手の前では失礼だと思ったのか。
 まあ、ヴィヴィオちゃんのことだから後者だろうけどな。
 相変わらず良くできた子だ。

「ヴィヴィオは私が育てた」
「私もだよ、フェイトちゃん」
「私はみんなに育てられたよ」

 何と言うかこの一家は見ていて微笑ましい。
 キリッとした表情でフェイトさんが言うとなのはさんが笑顔で続いて最後にヴィヴィオちゃんが苦笑いで続く。
 ……あれ? どっちが大人だっけ? まあ、気にしても仕方がないな。

「それはそうとどうしてリヒターさんが居るんですか?」
「お金を返しに来たのとお礼かな。お菓子を持ってきたから後で食べてくれると嬉しい」
「本当ですか? ありがとうございます!」

 ニコニコとした表情でヴィヴィオちゃんがお礼を言ってくれる。
 ああ、やっぱりこの位の年の子は癒されるな……。

「ねえ、リヒター君。ジークリンデちゃんの弱点って何かな?」
「基本的にノーコメントでお願いします、なのはさん」
「ちぇー」

 最初から冗談のつもりで聞いたのであろうがなのはさんは悪戯が失敗した子供のようにむくれている。
 相変わらず一児の母とは思えない若々しさで可愛らしいが抜け目がない。
 流石は戦技教導官といったところだろうか。

「じゃあ、リヒターはどっちが勝つと思ってるの?」
「勿論、ジークですよ。フェイトさん」
「でも、アインハルトさんだって負けませんからね!」
「格の違いを見せてやろう! と、言うっても戦うのは俺じゃないけどな」

 軽く笑いながらヴィヴィオちゃんに冗談を返す。
 なんというかこの家は暖かい。出来る事ならいつまでも居たいと思ってしまうほどに。
 だからだろうか、つい口が軽くなってしまったのは。

「そうだ、ジークの弱点じゃないが苦手な物なら一つ教えられるぞ」
「ほ、本当ですか!?」

 目を輝かしてズイッと身を乗り出してくるヴィヴィオちゃん。
 思わずなでなでしたいという欲望に突き動かされそうになるがそこは後ろで少し凄味を出したなのはさんが怖いのでやめておく。
 ジークの苦手な物はあれ(・・)だ。かつて我が家を壊滅に追い込んだ奴……そう。

「ゴキブ―――」
「言わせないよ!」

 何故かフェイトさんが俺の頭に優しくチョップをしてくる。
 やっぱりこの人は良く分からない。

「あ、あれは確かに恐怖の存在かもしれないね」
「………この前お店で本物そっくりのあれ(・・)の人形を見ました。つまりあれを大量に買ってアインハルトさんが投げつければ…!」
「待ってヴィヴィオ! それはもはや犯罪行為に等しいよ!」

 恐れ戦くなのはさん。何気にえげつない手を考えるヴィヴィオちゃん。
 そして、そんな娘の蛮行を必死に止めようとするフェイトさん。
 まあ、ジークのことだから投げつけてきた奴ごとガイストで葬るだろうけど。
 因みに言うとだ―――

「太古の昔、人間の祖先である小型の哺乳類は1メートルを超える奴らに食われていたから本能が奴らを嫌っているという説がある。そしてこの広い次元世界には太古と同じような環境のままの世界がある。つまりそこに行けば1メートル超えの奴らに……後はわかるな?」
『そ、そんなこと分かりたくないよー!』

 若干涙目でヒシと抱き合う美女+幼女の図はやはり眼福物だった。
 それと、二人がなのはさんに抱き着いていたのを見てやはりなのはさんがこの家の大黒柱なのだと改めて理解したある日の夕暮れ時だった。
 
 

 
後書き
おまけ~もしもなのはと付き合っていたら~

「リーヒーターくーん!」
「な、なのはさん!?」

 突如として後ろから抱き着いてきたなのはさんに思わずドキリとして声が裏返ってしまう。
 女性特有のほのかに甘い香りが俺の鼻孔をくすぐってくる。

「もー、二人っきりの時は呼び捨てで呼んでって言ってるよね?」

 可愛らしく頬を膨らませて文句を言うなのはさん。
 俺よりも結構年上なのにこういった仕草を見ると同い年か年下に見えるから不思議だ。
 付き合い始めてまだ少ししか経っていないがこうやって甘えてくるところが堪らなく可愛い。

「そうだな……なのは」
「えへへ、リヒター君にそう呼ばれるとやっぱり嬉しいな」
「俺はいつになったら君付けが無くなるんだ?」
「お姉さんと同い年になったらやめてあげるよ」
「はぁ……つまりは一生外さないのか」

 可愛らしく甘えてくるかと思えば年上らしく俺を振り回してきたりする。
 そういった所も嫌いじゃないがなんというか悔しい。
 俺の方から告白したが主導権は基本的になのはにある状態だ。

「リヒター君」
「なんだ? なのは」
「大好きだよ」

 本当に幸せそうな顔でそう言ってくるなのはに思わず見惚れてしまう。
 だが、何とか平静を保って返す。

「いきなりどうしたんだ?」
「えへへ、何だか言いたくなったの」
「そうか……その、俺も大好きだよ」

 こんな夢の様な幸せがいつまでも続けばいいのにな。
 そう思いながら俺はなのはの頭をゆっくりと撫でるのだった。



ジーク:[壁]∧〈・〉)<リヒター……? 
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