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ダンジョンに復讐を求めるの間違っているだろうか

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怪狼の顎門

 「できたぞ、テュール」

 テュールが椿の工房を訪れた日は既に一〇時間前に終わりを告げていて、今は翌日の朝の九時。
 現在地は勿論椿の工房だ。
 その工房の隅にあった道具箱に座って待っていた神テュールだったが、日付が変わり、七時間が過ぎたときに睡魔に襲われ小一時間の格闘の末に敗北を喫していた。
 椿はというと、今まで時間も忘れて、一心に鎚を振るっていた。
 日付が変わっていたことも、テュールがコテンっと道具箱で横になっていることもすべての武器を打ち終わった後に気付いたぐらいだ。
 ちなみに店員は業務があるからと、椿が鎚を振るいはじめたときには、工房から姿を消した。

 「うぅ…………まだ眠らせてくれ…………」

 椿は依頼人を起こすべく、肩を揺らしたが、寝ぼけていてうっとうしがるだけで、覚醒に至る気配はない。

 「テュール、お主の大事な眷族の武器ができたぞ」
 「そうかっ!」

 耳元で呟いた瞬間、先ほどまで寝ぼけていたと思えないような勢いで起き上がった。
 しかし、その大きな(まなこ)の下には大きな隈が掘られていた。
 慣れない長時間の夜更かしの所為だろう。

 「早く見せてくれぬかっ!」

 それでもテュールはぴょんと箱から飛び降りると、てとてとと少し覚束ない足取りで鉄床の方に歩いていく。

 「ふっ…………刃に触るでないぞ、危ないからな」

 その姿を見て椿は思わず微笑を浮かべて後を追う。

 「おおっ!!これがそうなのかのっ!」

 テュールは隈の目立つ目に幾千の星を(きら)めかせて、鉄床に並べられた二五Cと二〇Cの二振りずつの都合四振りの短刀を前にして、無邪気な声を上げる。
 二五Cのものは上顎の、二〇Cのものは下顎の牙を刃にしたもののようだった。
 鉄床の上にある短刀は素材の色を引き継ぐように底の見えないような深く黒い紺碧の刃を持っていて、牙に金属光沢を持たせただけの無骨な印象を受ける。
 しかし、その光沢を鈍らせるように刃は青黒い障気を纏わせていた。

 「名は『怪狼の顎門(フェンリル・ジョー)』といところか」
 「おおっ、かっこよいのう!それじゃっ!それより持ってもいいかのう?」
 「…………振り回さぬならな」
 「そ、そんなことはせぬわ」

 からかわれていることに気付かずに、テュールは腕を振り上げて抗議してから、四つのうちの一振りの柄を持ち上げずに両手で掴む。
 すると、刀身が纏っていた障気を、どこから溢れさせているのか、増やした。

 「やはり、嫌われておるのう」

 それを驚くことなく見て、テュールはこぼす。

 「お主もか」
 「?」
 「手前も使い手に選ばれなったみたいでな、試し切りでこの鉄板を切ろうとしたのだが――」

 椿は鉄床の横に無造作に置かれた厚さ一〇セルチの鉄板に目を向けた。
 それにつられるようにテュールもそちらに目を向けた。
 見た目に何も変わったところのない変哲もない鉄板だったが、よく見ると、その一つの辺に小さな切れ込みができていた。

 「――切れ味は手前が作った剣の中で一番なまくらだった」
 「………………此奴(こやつ)は前から皮肉れておったからのう」

 テュールは刀身に視線を戻して言う。

 「その所為でこの剣の特性がわからぬ。まあ、こんな代物が不壊属性(デュランダル)でないことはないだろうが、お主の眷族がこれを扱えるか甚だ疑問だ」

 と、椿は言った。
 椿が疑問に思うことは無理もなく、彼女が聞かされていた情報は、使い手がLv.1の駆け出しの中の駆け出しの冒険者。
 使い手に選ばれなかったとは言えど、数多の武器を試し切りしてきた自分に扱えなかった癖者も癖者のこの剣を駆け出しの冒険者が扱えるとは思えないのだ。

 「それなら、心配はない」

 しかし、そんな椿の疑問の言葉にテュールはニヤリと悪巧みを考えていた子供のような笑みを浮かべた。 
 

 
後書き
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