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蒼翠の魔法使い

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Episode 3:fragment―断片―

 名前、夜月(よづき) 珠澪(みれい)
 六月二十五日生まれ。(かに)座。歳は、十七歳。
 好きな食べ物は、(いちご)などの果物(くだもの)。嫌いな食べ物は、コーヒーなどの苦いもの。
 両親共に健在。
 両親の名前は――思い出せない。


  今から十二年前――五歳の頃の話。

 この街は、秋に入ったばかりなのに寒い。東北の方の県とはいえど、異常気象ではないか、と疑ってしまっても不思議ではない。――初めて来る人は大体が異常気象だと思い込むが、二日後、三日後も、秋は全体的にこれくらいの気温だ。冬になるともっと寒くなる。そんな異常な気温と感じられる寒さでも、地元の人はこれを普通だと感じている。
 だが、去年引っ越してきたばかりの夜月一家は、まだ、この寒さには慣れないでいる。
 暖炉付きの家を購入したのはもちろんのことから、ストーブ、炬燵(こたつ)、床暖房などの暖房器具は迷わずに購入。そこまで防寒対策しても、寒い日があった。
 父親や母親は寒さに耐えられるが、夜月夫婦の愛娘である、珠澪は今年で五歳になったばかりの子供である。そんな子供が寒さに耐えきれることもなく、夜になると「寒い、寒い」とうるさい。そこで思いついたのが、室内の服装である。暖房器具はインターネットで購入したが、服となると一度くらいは試着しないと不安になるのだ。


 珠澪と共に隣街のショッピングモールへと向かっていた。
「おか~さん、さむぃ~」
 珠澪は母親の着ているセーターの裾をグイグイと引っ張る。
 母親は膝を曲げて、珠澪と目線の高さを合わせてから、「もう、服を引っ張るのやめなさい」と言うと、引っ張るのをやめる。そして、真っ赤な(ほお)を膨らまして、睨んでくる。……ものの、全然怖くは無くてむしろ可愛い。
 このパターンは、抱っこして欲しいのだと、母親は察したがあえて訊いてみる。
「どうして欲しいの?」
 すると、抱っこをしてもらえることを前提に考えているせいか、パッと笑顔になる。
「抱っこ――じゃなくて~おんぶ!」
 抱っこではなく、おんぶだった。
 何故(なぜ)変えたのかは分からないが、抱っこよりおんぶの方がやりやすいので『抱っこよりはマシか……』と思ってしまう。
 というか――。
「自分で歩けないの?」
 珠澪は、口を(とが)らせて言う。
「つかれたもん」
 そんな珠澪を見ているとついさっき、抱いた疑問を訊いてみたくなる。
「それと何で抱っこから、おんぶに変えたの?」
「えっとね、おかあさ――」
 そこまで言いかけたときだった。
 道路を走っていた土木関係のトラックが、石を踏んだせいか、ガタンと音を立てた。
 反射的に、珠澪と母親はトラックを見る。
 トラックの荷台から――。 
 

 
後書き
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます!  
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